222 神のせんたく07――「せれくしょん?」
とりあえずオフィスに向かうべきだろうか。そうだな。優先するなオフィスだろう。
泊まる場所のことであれば、最悪、ドラゴンベインの中で寝ればいい。食事を取ることも出来る。
『クルマのメリットの一つだな』
『はいはい』
『それで、オフィスの場所は何処だ?』
『ふふん』
頭の中に響くセラフの笑い声とともに右目に周辺の地図が表示される。その地図に一際分かり易く赤い光点が輝いている。
『セラフ、助かる』
『ふふん』
随分と得意気なセラフの笑い声に苦笑を返しながらドラゴンベインを進ませる。
いくつもの茅葺き屋根の建物を抜け、しばらくすると真新しい大きな鳥居が見えてくる。俺の記憶にある鳥居は人が通ることを考えたようなサイズだったはずだが、この鳥居は戦車でくぐっても余裕があるほどの大きさだ。それこそ大型トラックが二台並走していたとしても充分くぐることが出来るだろう。
鳥居をくぐり抜け、さらに進む。
『本当にこの道であっているのか?』
この集落に入ってから人の姿を見ていない。田んぼがあるくらいだから、人が住んでいるのは間違いないのだろうが、いくら夕暮れ時だとはいえ、少しおかしい気がする。何かあったのだろうか?
『私を疑うとか』
セラフの少し怒ったような声が頭の中に響く。
日頃の行いだろう、と言いたいところだが、最近のことを考えれば、それを言ってしまうのはさすがにあんまりか。
『疑った訳じゃない、疑問に思っただけだ』
『はぁ?』
『オフィスがある道なのに人の姿が見えない。少しくらいはクロウズたちの姿があってもいいとは思わないか?』
『ふふん。そんなことを疑問に思うなら、オフィスで聞いてみればいいでしょ』
セラフも人の姿が無い理由は分からないようだ。
となれば、本当にオフィスで聞いてみるしかないだろう。これでオフィスにも人の姿が無ければ――いや、オフィスの職員は元から人ではなかったか。誰も居なければ、だな。
『分かった。そうしよう。そのついでに、ここのオフィスのマスターに会えないか頼んでみるか』
『ふふん。分かっているじゃない』
このビッグマウンテンを登っている理由はユメジロウじいさんの言葉があったからだ。そして、たまたま、ここにもオフィスがあった。あったのなら、ついでだ。
『ここのマスターに、すぐに会えると思うか?』
ハルカナの街ではオークションの目玉商品を落札するという手間が必要になった。結局、思っていたのとは違う形になったが、それは余談だろう。
俺は別に何か各街でマスターに会うためのイベントをクリアしたい訳ではない。すぐに会えるならそれが一番だ。
そのための近道は、クロウズのランクを上げることだろうか。クロウズのランクが高くなればお偉いさんたちも俺たちのことを無視出来なくなるはずだ。
『ふふん。今の倍くらいはランクが必要でしょ』
『まぁ、そうだろうな』
そして神社としか思えない建物が見えてくる。
『まさか、あれがオフィスか』
右目に表示されている赤い光点は、まさしくその建物を示している。
神社の前でドラゴンベインを止め、降りる。
……明りは灯っている。中に人――または人造人間が居るのは間違いないだろう。
賽銭箱のようなものの横を抜け、神社の中に入る。そこには眼鏡をかけた巫女さんが何やら忙しそうにしていた。
『セラフ、この人は?』
『ふふん。人形で間違いないでしょ』
この忙しそうにしている巫女さんはオフィスの人造人間のようだ。
しかし、何故、巫女の格好をしている? ここのオフィスはどうなっている?
「ここがクロウズのオフィスで間違いないか?」
話しかける。忙しそうにしていた巫女さんが俺の言葉に反応し、こちらを見る。随分と反応が鈍い。あまり領域を割り当てられていない下っ端なのかもしれない。
「あ、はいです。その格好、あなたもせれくしょんに参加ですか。みなさんすでに山頂に向かわれたですよ」
「せれくしょん?」
俺の言葉を聞いた眼鏡の巫女が首を傾げる。
「はい、せれくしょんです」
「いや、俺はここのマスターに会いに来た。会えるだろうか? それと周辺の情報や賞金首などの情報を貰えるだろうか」
眼鏡の巫女が首を傾げる。
「ここのオフィスのマスターならわたしです。なんのようです?」
……。
『セラフ、こう言っているぞ』
領域が割り振られていない下っ端かと思ったらマスターだと? 俺たちを騙そうとしているのだろうか。
『……触れてみなさい』
『分かった』
俺はゆっくりと眼鏡の巫女に近づく。
「なんです?」
そして触れる。
「何するです」
そして、眼鏡の巫女の体が一瞬だけビクンと跳ねる。
『セラフ、どうだ?』
セラフからの返事がない。
何かの罠だったのだろうか?
……。
……。
『セラフ、どうだ?』
『……そうね』
やっとセラフからの返事がくる。
『何かあったのか?』
『これがマスター、マザーノルンの端末の一つで間違いなかったわ。そのことに少し驚いていただけ。ええ、この周辺はすでに私の支配下よ』
……。
どうやら本当にマスターだったようだ。
五つ目があっさりと終わってしまった。
セラフの目的が一瞬で終わってしまった。
これで良かったのか?
……ああ、多分、良かったんだろう。




