220 神のせんたく05――『助けて恩に着せるのさ』
ハルカナの街でほどほどの量の食料を買い込みドラゴンベインに積み込む。
『これがほどほどとか、馬鹿なの』
『何かあった時のために一週間分くらいの食料は必要になるだろう? 食料や水の運搬が楽なのは車のメリットだな』
『その分、車内が狭くなっているでしょ。荷物を沢山運ぶのなら外にボックスでも積めば? 馬鹿なの?』
荷物運搬用の箱を戦車に載せるのは有りかもしれない。だが、いつ、何処で、何処から攻撃をされるかも分からない、常にその身が戦場に在るようなこの世界になると話は変わってくる。いくら身を守るためのシールドがあるとはいえ、敵の攻撃が貫通してくることだってあるだろう。
長旅の途中で食料を積んだ箱がビーストやマシーン、野良バンディットの攻撃で潰れてしまったり、落としてしまったりしては洒落にならない。
……外に搭載するのは無しだ。
『ふふん、その程度で何とかなるような安物を買わなければいいでしょ』
グラスホッパー号のような荷台があるクルマの方が食料などの荷物を運ぶ時は良いのかもしれない。
ただ、グラスホッパー号は荷台の殆どが備え付けた機銃で埋められてしまっているのだが……。
この世界、戦闘が多いからかクルマは戦いに特化した――それこそ戦車のようなクルマばかりのようだ。荷運び用のクルマがあれば便利かもしれない。
『ふふん。それならクルマである必要がないでしょ。馬鹿なの』
『確かにな』
パンドラを搭載しない乗り物は、この時代でも残っている。戦うつもりがなく、荷物を運ぶだけならそれで良いのかもしれない。
だが――
『そこそこ戦えて荷物も運ぶことが出来れば便利だろう?』
『はいはい、そんなクルマがあればね』
セラフのこちらを馬鹿にしたような笑い声が頭の中に響く。パンドラを搭載したクルマは戦闘に特化したものばかりなのだろう。
『ふふん。それがクルマでしょ』
それがクルマ、か。
ドラゴンベインを走らせる。
しばらくして天部鉄魔橋――クレーターに作られた大きな鉄の橋が見えてくる。
途中、野生のバンディットと遭遇したが、ビッグマウンテンはビースト中心だという話を聞いて用意していたHi-FREEZERで問題なく凍らせて駆除することが出来た。
『ふふん、そろそろでしょ』
『確か、天部鉄魔橋の手前の道を山の方へ向かって……』
『待ちなさい』
セラフの警告が頭の中に響く。俺はドラゴンベインを停車させ、それを待ち構える。
『敵か?』
『あらあら、追われているようね』
そして、それがこちらへと走ってくる。
それはバスだった。
緑の果物の絵が描かれたバスが、天井に取り付けた機銃を掃射して、威嚇し、飛びかかろうとしている犬型のビーストたちを牽制している。
追いかけられているのか?
天部鉄魔橋を占拠していたコックローチたちは俺が倒した。だが、それで安全になった訳では無い。野生のビーストやマシーンは何処でも徘徊している。襲われることもあるだろう。
『こちらに来るようだな。助けた方が良いと思うか?』
『ふふん。不要でしょ。なかなか良い機銃を使ってる。あれなら倒せるでしょ』
『分かった。それなら助けよう』
『はぁ?』
『助けて恩に着せるのさ』
ドラゴンベインを走らせ、主砲を動かす。犬型のビーストは生物だ。肺まで凍らせるHi-FREEZERが有効だが、残念ながら射程外だ。
ドラゴンベインに取り付けた大砲はHi-FREEZERと比べればパンドラの消費はかなり大きい。だが、今は日中だ。消費した分はすぐに回復するだろう。連戦にでもならなければ問題ない。
主砲を連続で放ち、犬型のビーストを吹き飛ばしていく。犬型のビーストは新しく現れたドラゴンベインの存在に恐れを成したのか、一度姿勢を低くして吼えると、そのまま蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
この程度のビーストはドラゴンベインの敵ではない。
緑の果物が描かれたバスがゆっくりと速度を落とし、ドラゴンベインの前で止まる。
バスの運転席に座っていたカウボーイハットをかぶった男が、車内放送用にしか見えないマイクを取っている姿がフロントガラス越しに見える。
『ふふん、向こうからの通信が入っているわ。どうする?』
『繋いでくれ』
そして、カウボーイハットの男からの通信が入ってくる。
[助かったぜ]
「気にするな。このままだと巻き込まれると思ったから処理しただけだ」
[そうかい。それでも助かったぜ。天部鉄魔橋がやっと解放されたと聞いてサンライスからやって来たんだが、そこで襲われてな。おっと、自己紹介がまだだったな。俺はショーヘーだ]
「俺はガムだ。クロウズをやっている」
[おっと、旦那はクロウズか。俺は七人の武器屋のショーヘーだ。武器屋、聞いたことが無いか?]
武器屋?
確か、ユメジロウじいさんの連れてきた修理屋が言っていた名前だな。
「ショーヘー、あんたはクルマの改造を?」
[そうだぜ。このグルグル号も俺が改造して、パンドラを直結して動かしているんだぜ]
「パンドラを直結?」
[そうだぜ。おっと、それだけだと分からないか。車をクルマに改造したってことだぜ。俺は七人の中でも特にパンドラの改造が得意だからな]
武器屋と名乗るこの男が乗っているクルマはバスだ。とても戦闘用とは思えない。
つまりそういうことか?
『そういうことってどういうこと? 分からないけど』
俺はセラフの言葉を無視する。
「ショーヘー、あんたならクルマにパンドラを二個搭載するような改造も出来るのか?」
[そいつは面白そうだ。改造はその子か? おっと、お代か? お代なら助けてくれた礼だ。半額でやってやるぜ]
「そこはタダじゃないんだな」
[おっと、これでも商人だからな。それでどうする?]
クルマの改造屋か。こんなところで出会すとは思わなかった。これも縁というものだろうか。
「いや、改造したいのはこのクルマじゃない。レイクタウンのくず鉄屋を知っているか? そこにあるクルマだ。もしレイクタウンに寄ることがあったらで構わないが頼めないだろうか?」
[くず鉄屋? ゲンジィさんのところか。おっと、分かったぜ。今は急ぎの用もない。ゲンジィさんに挨拶するのも悪くないな]
「そうか。助かる」
どうやら、このカウボーイハットの男はゲンじいさんと知り合いのようだ。
「そうか、ゲンじいさんを知っているのか」
[知ってるさ。クロウズだった息子と孫娘をマシーンに殺されて引退してなけりゃあ……おっと、こいつは口が滑っちまった。今のは内緒にしてくれよ]




