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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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205 機械の腕40――「あれを倒した賞金を貰いたい」

 ハルカナの街のオフィスが見えてくる。円形の特徴的な建物はハルカナの街でとても良く目立つ。ここがハルカナの中心だと誰もが思うことだろう。


「ガムさん、ここでよかったか?」

 先頭を走り、他の単車を先導していたエムが俺のところにやって来る。

「ああ、助かった」

「気にしないでくれ。俺は大老から請け負った仕事をしただけだ」

「そうか。それでも助かった」

 エムは俺の言葉に手を振る。


「ところでガムさん、このままオフィスに入るのか?」

「そのつもりだ」

 俺の言葉を聞いたエムが驚いたように大口を開け、野性的な顔に似合わない間抜け面を晒す。

 そして、すぐに首を横に振る。

「首輪付きがヤバいヤツだという噂、本当だったか。こういう意味だとは思わなかったが……」

 エムは、それだけ呟くと単車に跨がり仲間と一緒に去って行った。


 何が言いたかったのだろうか。


「カスミ、ドラゴンベインとグラスホッパー号を頼む」

「了解です」

「僕も一緒に行きますよ」

 俺は気を取り直し、喧噪渦巻くオフィスに入る。


 俺がオフィスの建物の中に入った瞬間、それまで騒いでいた男たちが口を閉ざす。まるで俺を恐れているかのように目を伏せ、顔を合わせないようにしている。


 もしかすると、俺がコックローチを倒したという情報がすでに広まっているのかもしれない。


 円形の建物の中央部分にある窓口に向かう通路の壁には賞金首の張り紙が並んでいる。その張り紙の内の一つの前でペンキと筆を持った男が立っていた。

「どうしたんだ?」

 少しだけ気になり、俺は声を掛けてみる。

「ああ、こいつが倒されたと聞いてね。これから、討伐の印を書くんだが、感慨深くてね。ああ、仕事をしないとね。賞金額500万コイル、こんな化け物を倒すなんて、そいつも化け物なんだ……う、うわあああ」

 のんきそうに話していた男が、俺を見た瞬間、叫び、ペンキと筆を投げ出して逃げていく。


 ……。


 俺は壁の張り紙を見る。張り紙はコックローチのものか。


 倒したのが俺だと気付いて驚いて逃げたのだろうか。

「君の姿に驚いたようだね。それも仕方ないと思うよ」


 俺は窓口まで歩く。

「いいだろうか?」

 そのまま窓口の職員に話しかける。

「はい、なんで……はっ!」

 窓口の女がこちらに気付き、驚きの声を上げる。人造人間だろうに随分と人間のようなことをする。


「ご、ご用件は、なんでしょうか?」

 窓口の女が絞り出すように喋る。


「あれを倒した賞金を貰いたい」

 俺は壁に張り出されていたコックローチの手配書を指差す。

「分かりました。額が額です。ガム様の口座に振り込みでよろしいですか?」

 窓口の女の提案。当たり前のように俺がコックローチを倒したことを知っている。そして、そのことには驚きもしない。人のように振舞っていても、こういうところで機械でしかないと感じさせる。


『それで、どうなんだ?』

 振り込みでよいのかどうか。振り込まれたお金(コイル)を管理しているのはセラフだ。

『ふふん、それで構わないでしょ』

 セラフはどうでもよいと言わんばかりの態度だ。


 なるほどな。それならそれで良いか。


「それで構わない」

「分かりました」

 あからさまにホッとした様子で窓口の女が頭を下げる。


「ところで……」

「はい、なんでしょうか?」

「クルマの修理を頼みたいのだが、誰か手配して貰えないだろうか?」

「あちらのクロウズショップでは修理道具も扱っていますよ」

 窓口の女はニコニコとした顔で手のひらをお店の方へと向ける。


 それは以前に聞いた。


「人の手配を頼む」

「……それですと高額になりますがよろしいですか?」

「ああ」

 ゲンじいさんに頼めるなら、それが一番だ。だが、このハルカナの街から壊れた二台のクルマをレイクタウンまで運ぶのは現実的ではない。


 そして、こちらの情報を収集しているような修理道具を扱うのも論外だ。それなら、いくら高かろうと俺が見張っている状態で技術者に修理して貰った方が良い。


「僕にも賞金が……これであの人のクルマを手に入れられるかもしれない。君のおかげだよ」


 さて、と。これでとりあえずやるべきこと、頼むことは終わったか。後はオークションの開催を待つだけだろう。


「他にご用件はありますか?」

「いや、特には無い」

 俺は窓口の女を見る。こちらを見くびるような態度はとらなくなったが、それだけだ。内心では俺を下に見ているのがよく分かる。だが、それは、この女自身の性格でも、考えでも無いだろう。


 俺は窓口の女の先に居る者を見る。


 ハルカナの街のマスター。この窓口の女も、そのマスターの手先でしかない。ただの端末だ。


 俺はニコニコと微笑んでいる窓口の女を睨むように見る。


 待っていろよ。その余裕、切り崩してやる。


「ご利用ありがとうございました、裸族の首輪付き様」

 窓口の女がニコニコと微笑みながら頭を下げる。


 ……。


 この女、今、なんて言った?


 ……。


 もしかして、周りの連中が目を逸らし、場合によっては逃げだしていたのは俺の格好を見てなのか?


 ……。


 そういうこととは思わなかった。


 俺は肩を竦める。


 まぁ、そういうこともあるだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おかえりなさい! [一言] あー裸ネクタイなら辛うじて紳士だけど、首輪だもんなー。 裸族に慣れてはいけない(戒め) ていうか忘れがちだけど奴隷用首輪コスプレの時点でわりとアウトだし。 ハ…
[良い点] こいつはヤベー奴だ!間違いないwww
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