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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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203 機械の腕38――『なんとも贅沢なことだ』

 後部にミサイルランチャーを取り付けた単車の一団が現れる。フルカウルの白いスポーツタイプの単車だ。何故か左右にランプが取り付けられている。


 一、二、……五台、か。


『あれが全部、パンドラ搭載なのか』

『そのようね』

 俺は肩を竦める。


 ユメジロウじいさん、五台もパンドラを搭載したクルマを持っていたのか。まだまだ持ってそうだ。


『なんとも贅沢なことだ』


 五台の単車が並走し、ミサイルをアクシードの集団へと撃ち込み続ける。その単車の内の一台が攻撃を止め、こちらへと走って来た。


 俺の前で単車が止まる。


「あんたがガムさんか」

 単車に跨がった男がヘルメットのバイザーを上げる。そこにあったのは大きく斜めに走った傷が目立つ野性味溢れる顔だった。

「ああ。あんたは?」

「大老に雇われている取り立て屋の一人、エムだ」


 大老? ユメジロウじいさんのことか。にしても取り立て屋だと?


「取り立てだと? まだ少し早いだろう。レンタルの日数は三日間だと思っていたが?」

 エムと名乗った男が俺の言葉に笑みを返す。

「今回、取り立てるのはガムさんじゃない。コックローチの野郎だ。あいつには多くの貸しがある。大老にガムさんの手助けをするよう言われている。それで奴は何処だ? あの集団には居ないようだが……」


 俺はエムの言葉に思わず吹き出す。


「どうしたんだ? 何が可笑しい?」

「いや、すまない。コックローチなら倒した」

 エムが驚き、まじまじと俺を見る。

「それは本当か」

「ああ」


 俺の言葉を聞いたエムが頭を下げる。


「ガムさんの言葉を疑った訳ではない。ただ信じられなかった、あのコックローチが……」

「ああ、今は残党狩りだ」

「そうか。門番のタナカホンダを倒し、あのコックローチを倒す、か。大老が目を掛ける訳だ。分かった、残党狩りくらいは任せてくれ」

 エムが俺に拳を突き出す。俺はそれに拳を合わせる。

「ああ、任せた。それと頼みがある。聞いて貰ってもいいだろうか?」

「内容にもよるが、俺に出来ることなら」

「クルマが一台は大破、二台がパンドラ切れで動かない。ハルカナの街まで運んで貰えないだろうか? 必要ならお金(コイル)は支払う」


 俺の言葉を聞いたエムが首を横に振る。


「コックローチを倒した英雄からコイルはとれない。はは、それに元から大老にパンドラ切れで動けなくなるクルマの牽引を頼まれている。任せてくれ」

 ユメジロウじいさんは三日経ったら強制的に回収すると言っていたが、エムたちに頼むつもりだったのか。


 ……。


 もしかするとユメジロウじいさんは俺とコックローチの戦いがそれだけ長引くと予想していたのかもしれない。そして、俺が勝つと思ったからエムたちを派遣したのだろう。


 エムがヘルメットのバイザーを降ろす。そして単車を走らせ、残党狩りの戦場へと戻っていく。


 エムたちの武装した単車がコックローチの残党と戦いを繰り広げる。


『あれは六四式連装ミサイルポッドね。なかなか面白いものを持っているじゃない。それにサンダーソードかしら。少しいじってあるようね。機動力のあるあのクルマには悪くない選択ね』

 セラフはエムたちの戦いを楽しく観戦しているのか、俺の頭の中でごちゃごちゃと呟いている。


 俺は瓦礫にもたれかかる。


 このまま任せても問題なさそうだ。


「ガムさん、大丈夫ですか」

 カスミがやってくる。戦闘をエムたちに任せ、切り上げてきたようだ。

「ああ、問題無い」

 体は再生を始めている。グングニルによる自爆に近い形で負ってしまった火傷(やけど)だが、表面はエムに疑われなかった程度には治っている。もう少しすれば動くことも出来るだろう。


 俺はカスミを見る。

「カスミ助かった」

 カスミが来なければ勝てなかっただろう。


「はい、間に合ってよかったです」

 カスミは狙ったかのようにベストのタイミングで助けに来てくれた。いや、間違いなく狙ったのだろう。楽しそうに観戦をしているどこぞの誰かが狙ったのだろう。


 ……そういうことをするから、コイツは信用が出来ない。


「これからどうされますか?」

 カスミが聞いてくる。


 どうする、か。


「とりあえずは戦闘が終わってからだろう。その後でエムたちにドラゴンベインやグラスホッパー号を運んで貰うつもりだ。街に着いたらオフィス、か。ドラゴンベインにグラスホッパー号――クルマの修理、コックローチの賞金を貰う必要もある。オークションまでの日数もない。そのままオフィスに居ることになるだろうな」

「はい」

「それで、カスミはどうするつもりだ?」

「マップヘッドでの後処理も終わっています。私はガムさんと行動を共にします」

「分かった」

 俺は頷きを返す。


 俺は瓦礫に寄りかかったまま目を閉じる。


 終わったな。


 とりあえず一段落だ。


『ふふん、雑魚の処理も終わったから』

『そうか』


 エムたちの残党狩りも終わったようだ。


 後はオークションか。


 ハルカナの街のマスターに会うためにオークションで落札だな。


 俺は自分の左腕を見る。触手のように分かれていた状態から腕の形に戻っている。


 この機械の腕を手に入れるために来たはずが、随分と面白いことになったものだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一丁上がりぃ! [一言] ガム君もついに初対面で「さん」付けされるまでになったかー。 スピード出世! トールハンマーを使った時点で勝敗にかかわらず帰路は困難になるわけだから、どのみち増援…
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