表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/727

200 機械の腕35――『セラフ、あっさりだったな』

「雑魚が、雑魚が、雑魚が……」

 コックローチは未だブツブツと呟いている。


 走る。俺はコックローチへと間合いを詰めるように走る。


 指を折り曲げた右の掌で、走った勢いのままコックローチを殴る。パシィンと弾けた音が響く。


「雑魚が、雑魚が、雑魚、雑魚……」

 コックローチは動かない。


 何度も何度も殴る。殴り、蹴る。


 コックローチは動かない。いや、動けないのだろう。


 神の雷は耐えきったのかもしれない。だが、無傷のはずがない。


 このまま決める。


 殴る、蹴る、殴る、蹴る、殴る、蹴る。


 ……。


 コックローチは倒れない。動かない。


 まるで何かを待っているかのように俺の攻撃に耐えている。


 殴る。殴る。殴る。殴る。

 蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。


 俺は跳ねるように軽く飛び上がり、そのまま身を捻り、蹴りを浴びせる。


 さすがにその一撃には耐えられなかったのか、コックローチの体が崩れ、倒れる。


 勝った?


 神の雷に耐えたところで限界だったのか?


 これで終わり、か?


 随分とあっさりだ。


 いや、そうだな。武器が強すぎたのだろう。武器の力によって、思っていたよりもあっさりと終わってしまった。


 だが、これはスポーツではない。命のやり取りだ。卑怯だろうが、武器の力に頼ろうが、勝つことが大事だ。勝たなければ、そこで終わってしまう。


 これで良かったのだろう。


『セラフ、あっさりだったな』

『そうね。ふふん、やるじゃない』

 俺は構えを解く。


 俺の元へとカスミが走ってくる。


 グラスホッパー号は大破。ドラゴンベインもウルフの戦車(クルマ)もパンドラ切れ。損害は大きい。


 ……困ったな。どうやって帰ろう。そこまで考えていなかった。


 それは、俺がそんなことを考えていた時だった。


 俺の右頬が弾ける。視界が歪み、地面が迫る。


 な、な、んだと。


『ちょっと!』

 セラフの慌てたような声が頭の中に響く。


 頭が吹き飛びそうなほどの一撃。運が悪ければ本当に吹き飛んでいたかもしれない。俺は、歯を食いしばり、踏ん張り、地面にキスしそうなギリギリで耐え、立ち上がる。


 そして見る。


 そこには傷一つ無い(・・・・・)タンクトップ姿のコックローチが立っていた。


 何が起きた?


 何故、無傷で?


 頭を振って、飛びそうな意識を覚醒させる。


『セラフ、どういうことだ?』

『分からない。脱皮したように中から新しい姿で、でも、何故、そんなことが出来るの?』

 セラフが動揺している。セラフでも分からない、か。


 どんなトリックだ?


 どんな魔法や超能力を使えば……、


 そんなことを考えている俺の目の前に拳が迫る。とっさに腕を交差して拳を防ぐ。だが、その防いだ腕ごと俺の体が宙を舞う。


 不味い。


 マシンアームになった左腕は無事なようだが、右腕が逝ってしまっている。壊れた? 生身の方の腕が? 動かない。


 どうやら中の骨が砕けているようだ。


「ガムさん」

 カスミが慌ててこちらへと走ってくる。


 俺は投げ飛ばされた空中で身を翻し、着地する。

「近寄るな」

 そして、カスミの方へ手を伸ばし、待ったを掛ける。


 不味いな。


 思っていた以上の化け物だ。


 再生したのか?


 いや、それなら何故、着ていた服まで元通りになっている。ボロボロになっていたよな?


 実は双子だったとか、そう言われた方が納得出来そうだ。


「どんなトリックを使ったんだ?」

「雑魚が。答えると思うか?」

 黒髪のコックローチがこちらを見てニタリと笑う。


 そうだな。答えるはずがない。


「ヒントくらいは教えてくれてもいいんじゃないか?」

「生きの良い餓鬼だ。いい素体になるかもしれねぇなぁ」

「素体ね。それはゾッとしないな」

 俺は会話を続け、時間を稼ぐ。骨の砕けた右腕は少しずつ再生している。

「時間稼ぎか? 雑魚が」

「いいや、情報収集さ」

 俺もな、この体――再生能力には少し自信があるんだよ。


『セラフ、どういうことか分かるか?』

『五十パーセントの確率の憶測なら』

『憶測なのか』

『ええ、正解が分からないのだから、どうしたっていい加減な答えになるでしょ?』

 俺はセラフの答えに肩を竦めそうになる。だが、今は戦闘中だ。そんな隙を見せる訳にはいかない。


『それで構わない。教えてくれ』

『お前と同じように群体(ナノマシーン)で作られた存在』


 ナノマシーン?


『もし、そうだとして、倒す方法は?』

『アンチウィルスで命令を狂わせるか、物理的に全て消滅させるか、どちらかでしょうね』

 全て消滅?


 神の雷にも耐えたような奴を、か?


『アンチウィルスは?』

『すぐに用意出来ると思ってるの?』

 セラフの呆れたような声が頭の中に響く。


 ナノマシーン……。


 ガロウの時と同じか。


『それなら俺の血を取り込ませればどうなる?』

『ええ、そうね。もし、群体(ナノマシーン)で作られた存在ということであれば、アンチウィルスの代わりになるかも。そうね、それは悪くない。その時はお前の群体(ナノマシーン)と反発し合い、命令が狂うでしょうからね』


 あっていれば、か。


 だが、他に方法がない。


 やるしか、ないか。


「ガムさん」


 カスミがこちらへとナイフを投げる。俺はそれを受け取り、その刃で自分の頬を切り、血を這わす。


 この血で試してみるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり強い! [一言] そんな……服まで直って。裸族にならないなんて! 五分五分ならイチかバチかよりは勝率が高いかなあ? なんにしても、やるしかない!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ