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197 機械の腕32――『やったか、なんて不吉なことは言うなよ?』

[まだだ!]

 ウルフの乗っている大きな戦車が唸りを上げ、無限軌道を回転させる。砲塔が旋回し、コックローチを狙う。


「遅い! 雑魚は判断も行動も全てが遅い! 雑魚は何処まで行っても雑魚だよなぁ!」

 コックローチが動く。一瞬でウルフの大きな戦車の前に立ち、その手に持った分銅をボディブローのように叩きつける。

 その一撃でウルフの戦車がふわりと浮き上がる。発射された砲弾は上方へと逸らされ、見当違いの方向へと飛んでいく。


 速い。


 重量のある筋肉の塊のような体だが、それを感じさせない速さだ。いや、筋肉で体が重くなろうが、瞬発力を生み出すのはその筋肉だ。一瞬の爆発力が優れるのは当然だろう。


 だが、いくら筋肉の塊だろうと、二メートルを越す巨体だろうと、それだけで百トンを越える重さのものを浮かび上がらせられるか?


 異常だ。


 このコックローチは異常だとしか言えない。


「雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚ッッッ!!」

 大男が何度も何度も手に持った分銅で戦車を殴る。その一撃、一撃によってウルフの戦車の装甲が凹んでいく。

 ウルフも戦車でコックローチをひき殺そうと無限軌道を回転させている。だが、コックローチのラッシュの勢いに負け、空転しているような状況だ。

 懐に入られてしまえばシールドも意味を成さない。装甲の厚さによってなんとか大破せずに済んでいるが、それも時間の問題だろう。近寄られてしまえば為す術がない。


 攻撃に夢中になっているコックローチを狙い撃つか? いや、駄目だ。奴はしっかりとこちらの動きを見ている。闇雲に撃っても当たらないだろう。


 こちらのチャンスは一度しかない。必中の機会を窺うべきだ。


「あんたがコックローチなんだよな?」

 俺はコックローチに呼びかける。

「雑魚が俺様に何を言うつもりだ?」

 コックローチが手を止め、こちらを見る。


[助かった]

 ウルフから通信が入り、コックローチに殴られていた戦車が慌てたように後退する。

「なんだ? 俺様をそっちの雑魚から気を逸らすために声を掛けたのか? 雑魚らしい雑魚な行動だぜ」

 コックローチがこちらを見たまま馬鹿にするような顔で笑う。


[喰らえ!]

 ウルフが馬鹿正直に宣言してから攻撃をする。十字架のような主砲から放たれた一撃をコックローチは無視し、馬鹿にしたような顔で俺を見ている。そして、無造作に片手で分銅を振り払う。飛んできた弾丸があっさりと弾き返される。弾丸は跳ね返され何も無い空中で爆発する。

 コックローチは戦車の主砲をものともしていない。


「雑魚は分かんねぇかなぁ。だから雑魚なのか!」

 コックローチは俺の戦車(ドラゴンベイン)を見ながら、手に持った分銅をウルフの戦車へと向ける。


 どうする? どうやって当てる?


 コックローチはこちらの一撃が危険なものだと気付いている。あからさまに狙ったことでバレてしまっている。

 先手が取れていれば何とかなったかもしれないが、それはもう無理だろう。

『トールハンマーの一撃なら防がれたとしてもなんとかなっただろう?』

『ふふん。神の雷を防ぐことは出来なかったでしょうね』

 コックローチが生身だったのは好都合だった。先手を打って攻撃し、そのまま防いでくれていれば、そのまま倒すことが出来ただろう。


 だが、その機会は失われてしまった。


「コックローチ、お前の狙いはなんだ? アクシードは何を狙っている? ここを占拠して何をするつもりだ?」

「雑魚は質問が多いなぁ。雑魚に答えると思っているのか?」

 何か注意を引けないだろうか。


 何か……。


『ふふん。任せなさい』

 俺の頭の中にセラフの得意気な声が響く。


 何をするつもりだ?


 コックローチが分銅をウルフの戦車へと射出する。


 ここか? ここしかないッ!


 セラフは何かを狙っているようだが、これ以上のチャンスは無いはずだ。


 俺は引き金を引く。


 一瞬にしてドラゴンベインのパンドラが吸い上げられ射出される。


 雷光のように煌めく光線が主砲より放たれ、コックローチに迫る。その一撃が、分銅を射出し動きを止めていたコックローチに突き刺さる。


 ドラゴンベインのパンドラが全て消費され、暗闇に閉ざされる。俺は慌ててハッチを開け、外に出る。


 雷光が鉄橋を抉り、貫通する。ウルフの戦車の一撃でもビクともしなかった鉄橋が雷光によって抉られ視界を染めるほどの粉塵をまき散らしている。


『やったか、なんて不吉なことは言うなよ?』

『ふふん。誰が……って、え?』


 視界が晴れる。


 そこにコックローチの姿は無かった。


 消滅した?


 確かにそうなってもおかしくない威力だった。


「あらあらあら! こんな恐ろしいものを持っていたなんて驚きだわ」

 声の方へと振り返る。


 そこには真っ白な髪のコックローチが腕を組み、身をくねらせて立っていた。


 外した、だと……。


「雑魚がよぉ、雑魚にしては考えるよなぁ!」

 コックローチの髪が白から黒へと変わっていく。


 外した。


 俺はドラゴンベインを見る。パンドラが無くなりただ鉄の棺と化している。


 動かない。


 どうする?


 相手は生身で戦車と戦うような化け物だ。


 どうする?


 俺は自分の左腕を見る。そのための機械の腕(マシンアーム)。そのための拳。


 やるしか無い。


 相手も生身。同じ条件だ。


 ここまで来たら、後はやるしか無いだろう。


『待ちなさい!』

 と、そこでセラフの制止の声が頭の中に響く。

『何かあるのか?』

『あれのクルマのところまで行きなさい』

 セラフがウルフの戦車を指し示す。

『ウルフのクルマを奪って戦えとでも言うつもりか?』

『ふふん、馬鹿なの? そんなことを言うとでも? 良いから言うことを聞きなさい』

 ウルフの戦車?


 俺は大破寸前のウルフの戦車を見る。


『分かった』

 俺はドラゴンベインの上から飛び降り、ウルフの戦車へと走る。


「穴蔵から出てきた雑魚はここで終わりだ」

 分銅を構えたコックローチが俺を狙い動く。


 速い。分かっていたことだが、速い。


 迫る一撃。


 と、その俺とコックローチの間に割り込むように銃弾が叩き込まれる。


「ガムさん、ここは任せてください」

 それはグラスホッパー号に乗ったカスミだった。


 俺は頷き走る。


『セラフ』

『ふふん、こんなこともあろうかと用意していたの。勝率を上げるために全力で相手するべきでしょ?』

 得意気なセラフの声が頭の中に響く。


 さっきやろうとしていたのはこれか。

総合評価が2,000ptを越えました。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 実際、強い! [一言] 出し惜しみせず撃ったのに効果なしはヤバいなあ。 生身っぽいけど何かカラクリがあったりするんだろうか…… ここはセラフの判断に頼るしかない! (おめ!)
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