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191 機械の腕26――「いや。簡単に強くなれる方法があるなら、それに縋るのは正しいさ」

「小僧が、その舐めた言葉……後悔するなよ」

 スーツ姿のタナカホンダが刀に掛けた手に力を入れる。奴の革手袋がギチギチとはち切れそうな音を立てている。

「そこのじいさんに対する態度――言葉遣いと俺に対するものが随分と違うな」

「当然だろう。生意気な小僧をしつけるのに、何故、丁寧に対応する必要がある?」

 スーツ姿のタナカホンダが吼える。


 俺は肩を竦める。


「それで、ここでやるのか? 俺は構わないが?」

「ひっひっひ、それは勿体ない。せっかくだから地下闘技場で行うで」

 眼帯の老人――ユメジロウが威圧するような目でこちらを睨み付けながら笑う。目が笑っていないというヤツだな。

「分かった。案内してくれ」


 ユメジロウじいさんの案内で青く塗られた円筒形のエレベーターに乗る。

「首輪付き、わしを殺して奪おうとは思わんのか」

 その中でユメジロウじいさんはそんなことを言い始めた。


「ショーケースから出して貰っていないからな」

 どんな罠があるか分からない。

「それに、あんたはただで殺されてくれるような(キャラ)じゃないだろう?」


 当然だと言わんばかりにユメジロウの後ろに控えていたスーツ姿のタナカホンダが俺のことを睨む。

「ひーっひひひひ、わしは何の力もない憐れな老人だぁでよ」

 ユメジロウが笑う。


 何の力もない老人? 面白いことを言う。


 それに、だ。

「人のものを盗んだら泥棒だろう? 人を殺してまでやることではないな」

「首輪付きは変わったことを言うで。ひひ、平和だった時代を思い出すだよ」

 俺は肩を竦める。


 エレベーターが止まる。そして、チーンという間抜けな音とともに扉が開く。


 そこは地下に作られた闘技場の舞台の上だった。砂で固められた地面の舞台を取り囲むように三メートルほどの高さの壁があり、その向こうは観客席になっていた。

「直通か」

「ひーひっひっひ、そうだぁで。こっちは青コーナーの選手が降りてくるところだぁよ」

 向かい側には赤いエレベーターが見える。赤コーナーか。


 スーツ姿のタナカホンダがそちらへと歩いて行く。


 なるほど。普段使っている時は赤コーナーと青コーナーに別れてだろうな。俺を案内するために青コーナーから一緒に降りたのか。


 俺は砂地の舞台に降り、軽くトントンと飛び跳ね硬さを確認する。

「小僧、無駄だ。その程度のフットワークで俺の居合いは躱せん」

「教えてくれてどうも。それで、試合開始はいつだ? 勝敗は戦闘不能で良かったよな?」

「うむうむ。試合開始は今だぁよ」

 ユメジロウが飛ぶようにその場を離れる。


 それを合図としてタナカホンダが動く。飛ぶように俺との間合いを詰める。速い。


 そしてキュインと小さな音を立て、刀が鞘から放たれる。


 機械音?


 顔面へと迫る刃を俺は紙一重で躱す。


「躱したつもりか、小僧」

 タナカホンダが刀を鞘に収め、大きく飛び退く。


 俺の鼻の頭が真横に裂け、血を噴く。間合いを見誤った? 躱し切れていなかった? 普通の人の一、二と段階を踏んで加速する動きとは違う、一気に最高速で振るわれたような動き。無拍子に近いだろうか。

「その腕、機械か」

「その通りだ、小僧。卑怯だとでも言うのか」

 俺は流れる血を拭き取り、舐める。鉄の味だ。

「いや。簡単に強くなれる方法があるなら、それに縋るのは正しいさ」

「簡単とは言ってくれる」

 腕だけではないな。あの速度、足も機械か。


『ふふん、正解。両腕と両足、それに目も機械(サイバー)化しているようね。お望みならコイツの目を潰すけど?』

 俺は首を横に振る。

『不要だ』

 セラフに頼っては俺の力を示したことにならない。

『ふーん』


 ……機械を取り付ければ簡単に強くなれる、か。だが、故障したら? セラフのような存在にハッキングされコントロールを奪われてしまったら? 機械化はデメリットが大きい。いや、それを言いだしたら生身もちょっとした怪我や負傷で動けなくなる。メリットもデメリットも似たようなものか。


「小僧、次は首を落とす。俺の動きを見きれなかったお前に勝ち目はないぞ。今すぐ大老への不敬な態度、土下座して謝るなら許してやろう」

 俺の口の端が自然と持ち上がる。

「面白いことを言う。そこのじいさんへの不敬とやらをお前が許すのか? 随分と思い上がっている」

「な、何を! 死ね」

 チュインという機械音とともにタナカホンダが跳ぶ。速い。生身の人ではあり得ない、機械だからこその強引な動き。


 だが、それだけだ。


 タナカホンダの刀の上に置いた手がキュインと音を立て動く。鞘から放たれようとしている刀。


 俺はその基点を潰す。


 タナカホンダの刀を握った手に拳を叩きつける。その手がショートしたようにバチバチと火花を飛ばし、刀を落とす。

「な、な、んだと」

 機械化し、それに頼って単調になった動き、見切れないと思ったのか? どれだけ速かろうが動きの基点は一つだ。そこを止めれば終わりだろう。


 転がり落ちた刀を拾い、その刃をタナカホンダの首に当てる。

「降参するか?」

「これは……何かの間違いか」

 タナカホンダが信じられないものを見たかのように驚いている。


 ……驚いている場合か。武器を落としたとしても動けなくなった訳ではない。その程度でフリーズするとは――素人か?


「じいさん、サイバー化して強くなったつもりの奴程度を門番にして大丈夫なのか?」

 俺はこちらを興味深く観察していたユメジロウに刀を突きつける。

「ひっひっひ。だから門番止まりだぁよ」

 俺はユメジロウの言葉に肩を竦める。


「そういうものか?」

「そういうものだで」

 俺の実力を試す相手には――見せる相手には物足りなかったが、これ以上はやり過ぎになるか。これ以上やるとなると本当にこのじいさんと敵対しかねない。


 ここら辺が引き際だろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公安易にセラフに頼らないのいいですねぇ カッコいい!
[良い点] 実力を見せたぜ! [一言] 平和だった時代を思い出せるなら、なかなかの歳なのかな? それにつけてもガム君の正体不明っぷりよw なるほど、確かに闘技場の番人とは言ったけど、別にチャンプとか…
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