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190 機械の腕25――『つまり、骨董品か?』

「トールハンマー?」

「ほぉ、これを知っているとは予想外だで」

 眼帯の老人が先ほどまでのニヤニヤしたものとは違う、鋭い――こちらを射貫くような眼で俺を見る。


 トールハンマー、か。何処かで聞いたかのような名前だ。


『それで、どういうシロモノなんだ?』

 兵器マニアのセラフが驚きの声を頭の中に響かせるくらいだ。とんでもないシロモノなのだろう。


『ふふん。通称、神の雷(トールハンマー)。パンドラの運用が始まった黎明の時代に作られたものだと言われているわ』

『つまり、骨董品か?』

『ふふん、そうとも言える。そういう時代だからこそ出来てしまった……遺物で、逸品ね。このトールハンマーはね、パンドラを吸い尽くすの』


 吸い尽くす?


『ふふん、そう。パンドラを吸い尽くし、その全てを弾丸として撃ち放つ。分かる? 全てなの。その一撃は地を割り、海を割り、天を貫く。まさしく神の力といえる武器ってワケ。パンドラを吸い尽くすのだから、一度放てば、しばらくの間、そのクルマを動かすことは出来なくなるでしょうね。これに匹敵する兵器は数えるほどしかないわ。それだけのシロモノなの。凄いでしょ?』


 一回だけ使用が出来る一点突破に特化した主砲か。


 まさしく俺が望んでいる武器だ。


「ひひひ、その様子だ、こいつを正しく知ってるかぁ。聞いていたよりもおぬしに対する上方修正が必要だで」

「ユメジロウさん、これを見せたってことは……」

 眼帯の老人が頷く。

「こいつぁの、そのトールハンマーのレプリカだぁ。レプリカ言うても本物と遜色ねぇもんだ。普通に買うなら一千万コイル以上になるでぇ、それこそ最前線の武器だぁ」


 一千万コイル?


 さすがに予算オーバーだ。


 それだけのお金(コイル)があれば、ゲンじいさんの借金を返しているだろうし、そのお金でオークションに出品されるスピードマスターのクルマを落札しているだろう。


「これを見せたのはそういう武器もあると自慢するためか?」

 眼帯の老人が首を横に振る。

「のう、首輪付き。聞きたいがぁね、最初からわしの存在を分かってたようだが、おぬしがわしを知っていたとは思えんで、どうして分かっただ?」


 俺は肩を竦める。


 そんなことか。


 俺は自分の鼻をポンポンと叩く。


「匂いだよ。ユメジロウさん、どうして、そんなボロ雑巾みたいな格好をしているか知らないが、あんたからは汚れた匂いがしない」

 ……心は汚れているのかもしれないがね。


 ボロ雑巾のような服を着ている老人だ。普通ならすえた悪臭がしてもおかしくないだろう。だが、この眼帯の老人からはそういった薄汚れた生活の匂いがしなかった。


 老人がぽかんと間抜けに口を開け、俺を見る。


「ひひっひっひ、そうかぁ、それでかぁ。それは参ったでぇ」

 眼帯の老人が楽しそうに笑っている。

「それで、なんでそんな汚れた格好をしている?」

「かいほうって知ってるかね」

「丐幇、か。ユメジロウさん、あんたはそういう組織の親玉ってことか?」

 眼帯の老人がニタリと笑う。


 間違いないようだ。


「それで……」

「ひっひっひ、面白い。おぬしの実力を試しで、それからにしようと思っただが、必要ねぇようだ」

「試す?」

 眼帯の老人は楽しそうに微笑みながら首を横に振り、ガラスケースをコンコンと叩く。

「このトールハンマー、三日で百万コイル、それで貸し出すだぁよ」

 なるほど。


 レンタル、か。


 一千万コイル以上する武器を百万コイルで貸し出す、と。期間は三日。十分の一の金額でたった三日と思えばぼったくりのようだが、俺には有り難い提案だ。


 だが。


 俺は眼帯の老人の方へと手を伸ばし、首を横に振る。


「必要ないのけ?」

 眼帯の老人が笑いながら俺を見る。だが、その目が笑っていない。

「そうじゃないさ。有り難い提案だ」

「ほほう、それならどういうことだで」

 この老人、自分の提案が蹴られて不機嫌になっているようだ。

「あんたは試すと言った。俺を試すつもりだったんだろう? なら、その話はそれを終えてからだ」

 このまま借りた方が波風も立たず良かったのだろう。眼帯の老人を不機嫌にさせることもなかっただろう。


 だが、試すつもりだったと言われて黙っていられるか?


『お前は馬鹿なの? 大人しく借りればいいのに、意味が分からないから』

『俺は自分を安売りしたくない。それだけだ』

 セラフが言うように馬鹿なのだろう。だが、それが俺だ。


「分かったぁで。タナカホンダ、仕事だで」

 眼帯の老人が手を叩く。


「大老、お呼びですか」

 すると扉を守っていたスーツ姿の屈強な男が刀を持ってこちらへとやって来た。


「あんたがタナカホンダさんか?」

「そうだ。俺を知っているのか」

 俺は首を横に振る。

「知らないな。変わった名前だと思っただけだ」

 スーツ姿のタナカホンダが刀に手をかける。


「それで俺は何をすればいい?」

 俺は刀に手をかけたタナカホンダを無視して眼帯の老人を見る。

「力を見せるだけだぁよ。どちらかが戦闘不能になれば終わりだぁ」

「なるほど、シンプルだな」

「ひっひっひ、そのタナカホンダは地下闘技場の番人だで。後悔しても遅いだぁよ」


 なるほど。


 俺は残った右腕で手招きする。

「そうか、それなら片腕で充分だ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 煽っていく! [一言] 脈絡もなく武器のこと聞いたんじゃなかったのね。 二重の意味で嗅覚が鋭かった。 先行ワンオフ機(レプリカがないとは言ってない)が後の量産型より強いのは世のお約束なの…
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