186 機械の腕21――『お宝探しだ。セラフ、お前にも協力して貰う』
『何処に向かうつもりなのかしら?』
頭の中に響くセラフの呆れたような声を聞きながら、俺はドラゴンベインを動かす。
『お宝探しだ。セラフ、お前にも協力して貰う』
『ふふん、こんな夜中に何を言っているのかしら。このお馬鹿はパンドラのこと分かっているのかしら?』
パンドラが夜の間は補充されない。セラフの言葉、バギーの忠告――聞くまでも無く分かっていることだ。だが、今は時間が惜しい。
俺のやろうとしていること。
――賭け。
俺の予想が外れていた時、すぐに他の手に移れるようにしたい。
オークション開催までの日数は限られているからな。少し無理をしないと不味いだろう。これは仕方ない。
俺はドラゴンベインを動かし、ホームセンターへと向かう。
『すぐに戻って来ることになったな』
『そうね。それでお前は何がしたいのかしら』
ホームセンターを覆っていた植物はこちらに気付いていないのか襲いかかってくる様子は無い。
『ん?』
このイチゴのような植物――どうやら眠っているようだ。
『植物も……いや、これを植物と言っても良いのか分からないが、眠りをとるとはな』
『それで何をするつもりなの』
俺は夜の闇に沈み、眠りについたホームセンターの中、ドラゴンベインを走らせる。ドラゴンベインがキュルキュルと無限軌道が回る音を建物内に響かせる。だが、植物たちが起き出す様子は無い。この植物たち、音や振動程度では起き出してこないようだ。
……こいつらに耳があっただろうか? ああ、そうだな。起きてこないのも当然か。
トンネルのようなスロープを降りてゴミが集められた部屋に入る。
『まさかもう一度狩りをするつもりなの? あれがそんなに都合良くもう一度現れると思っているの? 馬鹿なの?』
俺はセラフの言葉に苦笑する。まさか、そのためにガスマスクや雨合羽を購入したと思われたのだろうか。
『せっかく洗車したドラゴンベインを汚したくないからな、ここに置いていく』
『はぁ? だから……』
俺は頭の中に響くセラフの言葉を無視し、雨合羽を羽織り、ガスマスクを装着し、いつものナイフと狙撃銃を持ってドラゴンベインのハッチから外に出る。
すーはーと息を吸い、吐き出し、ガスマスクの性能を確認する。
『息苦しいということは無い、か』
ガスマスクはしっかりと機能しているようだ。だが、問題もある。
匂いがしない。鼻が曲がるほどの悪臭を感じなくて済むのは良いことなのだろうが、匂いを感じ取れないというのは問題だ。
視覚や聴覚などの必要性が分かり易い感覚だけでなく、嗅覚だって重要な感覚だ。匂いによって違和感や危険を察知することもあるだろうし、戦闘の読み合いにおいて嗅覚が重要な役割を果たすこともある。
このガスマスク、性能は申し分ないようだが、常に身につけるのは止めた方が良さそうだ。
『それで、どうするつもりなの?』
頭の中に少し苛々とした様子のセラフの声が響く。
『探すのさ』
『はぁ? 馬鹿なの? そう都合良くコイルを集めた個体が出てくるはず無いじゃない』
俺は頷く。
『そうだろうな』
『はぁ? お前は何がしたいの』
俺が何をしたいのか、か。
『ここには二種類のマシーンが居るようだ』
『それが何?』
『ここにあるゴミを何処かに運ぶマシーン。何処か……多分、ゴミの処理場か何かだろう? そして、もう一体が、何処かからゴミをここに運んでくる個体だ』
『ええ、それが何?』
『あの乾電池を纏った個体は、最初からゴミを纏っていた。あいつはここにゴミを運んでくる方の個体だろう?』
『それが何?』
意外とセラフは察しが悪いようだ。人工知能は柔軟に考えることが出来ないのだろうか。
『あの乾電池は、運んできたゴミと一緒に捨てることが出来ず、くっついたままになっていたから残っていたんだろうな』
そして……それは、
『アレがゴミを集めてきた場所に、乾電池が残っている可能性があると思わないか?』
これはあくまで可能性だ。
もちろん残っていない可能性だってある。
だが、俺はそんなに分の悪い賭けではないと思っている。
『なるほどね。確かにその可能性はあるでしょうね』
『ああ。だから、セラフ、お前に頼みたい。お前ならアレの行動パターン、ルートを把握出来るだろう? アレが何処から来ていたのか、ゴミを集めてきていたのか、調べられるだろう?』
『ふふん、当然でしょ』
セラフの得意気な声が頭の中に響く。
『さすがだな』
『ふふん、循環している個体のどれでも良いから接触しなさい』
『ゴミを運んでくる個体じゃなくても大丈夫なのか?』
『ふふん、私を誰だと思っているの?』
俺は肩を竦める。
飛んでいる球体を探そう。
ゴミの山を踏みしめ、分け入り、動いている球体を探す。
『居た』
そしてすぐに見つける。ゴミを選別しているのか球体がひゅんひゅんと飛び回っている。
俺は身を沈め、静かに動く。球体の探知範囲外から一気に駆け、距離を詰め、飛びかかる。球体が真っ赤に光り、警報を鳴らす。俺はそれを気にせず、そのまま触れる。
接触した。
『どうだ?』
『ふふん、予想通り大本は同じね。清掃用のマシーンがバグで狂ったってとこかしら』
『それで?』
俺の右目にこの周辺の地図とルートが表示される。
進めという訳か。
さあ、何処に出るのか。
楽しみだ。