179 機械の腕15――「それで、ここが目的地なのか?」
ガシンガシンと音を響かせ、飛び跳ねるようにガスマスクの男のヨロイがスロープを降りていく。俺はドラゴンベインを走らせ、その後を着いていく。
[で、何があったんだよ!]
「聞こえないのか? 野良犬に追いかけられている」
ガスマスクの男にはこちらを威嚇する犬たちの唸り声が聞こえていないようだ。ヨロイの発する振動と音で耳が馬鹿になっているのかもしれない。
[んにぃ、マジかよ]
「ああ、だからもっと早く動いてくれ」
凍った床に足を滑らせていた犬たちが立ち上がり、動く。俺はHi-FREEZERから冷気を放ち、さらに床を凍らせる。だが、犬たちは、その凍った床の上を器用に、滑るようにして駆けていた。
もう対処しただと?
降りて戦った方が良いだろうか?
いや……、
「この先に広い場所は?」
[もうすぐだよ]
「分かった。急いでくれ」
速度を上げる。全力でスロープを降りる。
そして、抜ける。
スロープが終わり、開けた場所に出る。そこは底だった。ホームセンターの地下に、何故、こんな場所があるのか――そこはゴミが山積みになった部屋だった。
だが、広さは充分だ。
主砲を旋回させる。
『ふふん』
セラフのこちらを試すような笑い声が頭の中に響く。
『分かっている。威力の調整を頼む』
『ふん。任せなさい』
スロープの出口を狙う。一本道だ。外しようがない。
だが、問題が一つだけある。
「ここに、ここ以外の出口はあるか?」
[いや、ここだけさ]
ガスマスクの男からの通信を聞き、腹を括る。
問題は――そう、問題は一本道だということだ。このまま主砲で攻撃して、もし壁を崩してしまったら――唯一の出口を閉ざしてしまったら、俺たちはここから出られなくなってしまう可能性がある。最悪、生き埋めだろう。
スロープから犬たちが現れる。
俺は引き金を引く。生まれる激しい衝撃と轟音。マズルブレーキが前後し、衝撃を殺し、噴煙をたなびかせる。
放たれた一撃が一本道に現れた犬たちを貫き着弾する。その爆発が犬たちを残らず飲み込んでいく。
その衝撃に天井から砂埃がパラパラと落ち、周囲のゴミが舞う。だが、それだけだ。スロープは崩れていない。建物を傷つけることなく、犬たちだけを倒すように上手く威力が調整されている。
『ふふん。感謝しなさい』
『そうだな。助かる』
これはセラフの威力調整があったからこそ、出来たことだろう。
『ふふん』
威力を調整したことで主砲に負荷はかかってしまったが、無事、何事もなく倒すことが出来た。
……。
無事?
いや、気になることがある。
犬――野良犬のような、この武装したビーストに出会ったのはこれで三度目だ。最初は群のボスがいた。だが、前回も今も群のボスのような存在は見えなかった。そして、今回、犬たちは俺のHi-FREEZERに対応してきた。まるでその攻撃を知っているかのように耐え、乗り越えて反撃してきた。これは偶然なのか?
「この辺は野良犬が多いのか?」
[いや、俺も初めて見るんだよな。分からないぜ]
初めて見る、か。ガスマスクの男はこの犬たちを知らないようだ。そんなビーストが三度も現れる? それはもう偶然ではないだろう。何者かに狙われていると思って間違いない。俺を、俺たちを追いかけてきている何者か。
……。
俺は首を振り、肩を竦める。
「それで、ここが目的地なのか?」
[そうだぜ。後はここで待つだけなのさ]
ガスマスクの男が楽しそうに指をパチンパチンと鳴らしている。
ここはゴミ処理場なのだろうか。ゴミが山のようになって集められている。機械の残骸、半分ほど溶けた用途の分からないプラスチック――色々なゴミが集められている。
幸いなことに生ゴミは無いようだが、ゴミの山からは廃液などが漏れ出ている。きっとドラゴンベインの外は酷い悪臭が蔓延していることだろう。外に出て犬たちを迎え撃つことも考えていたが、ガスマスクでもなければ、まともに行動出来なかったかもしれない。
誰がなんのために、ここにゴミを集めたのだろうか?
そして、地上部分では野菜たちが王国を築いていたのに、その野菜のゴミが存在しないのは何故なのか?
野菜たちはここまで侵入出来ない?
何故だ?
[と、お出ましの時間だぜ。首輪付き、戦闘の準備が必要さ]
どうやら、その答えが現れてくれたようだ。
ゴミの山の向こうから、ふよふよと宙を漂う丸い球体が現れた。
[ハズレかよ]
ガスマスクの男の独り言のような通信が入る。
外れ?
ふよふよと漂っていた球体が赤い光を照射する。赤い光に吸い寄せられるように次々とゴミが浮かび上がり、その球体へと張り付いていく。
ゴミを集めているのだろうか?
「あいつは?」
[ここを定期巡回しているゴミ収集マシーンさ]
「それで?」
[あいつらの中にさ、全身をコイルで纏うレアものが出ることがあるんだよ]
……。
なるほどな。
「それが狙いか」
[そうさ!]
こちらに気付いたのかゴミを集めていた球体が警報を鳴らす。球体にさらに多くのゴミが集まり、巨大な人型へと生まれ変わっていく。
[くるぜ!]
俺たちを狙っている犬のことよりも先に目の前のゴミ人形をどうするか考えないと駄目なようだ。
「分かってる」
戦闘は回避出来ないようだ。