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176 機械の腕12――『まるで漫画の世界だな』

 ガシンガシンと大きな音を響かせながらガスマスクの男のヨロイが動いていく。ヨロイの太い足が大地を蹴り飛ばし、跳ねるように進んでいく。こんなにも大きな音を響かせて大丈夫なのだろうかと心配になるレベルだ。


 時速40キロくらいは出ているだろうか。舗装されていないデコボコの道で馬鹿みたいな移動の仕方の割りには思ったよりも速度が出ている。下手すると戦車型のこちらの方が置いて行かれそうな速度だ。


『しかし、あれだと乗っている人間はたまったものじゃないだろう』

 ヨロイの頭部分にある座席は激しく上下している。座席にある強力なスプリングが衝撃を受け止めているようだが、アレは限界を超えている。普通の人間なら三半規管が破壊され、食べた物を吐き出し続けるレベルの馬鹿げたシロモノだろう。

『ふふん。あの座席、後付けみたいだから仕方ないんでしょ』

 それはそうだろう。あんなもの、まともな人間なら三分と持たないだろう。それが正常であってたまるか。


 となると……。

『ふふん、正解。あいつは体の一部を機械(サイバー)化しているんでしょ』

 普通の人間では耐えられないなら、耐えられるように体を造り替える。正気の沙汰ではない――と平和な世界なら思っただろう。だが、この世界、この時代なら戦う力を求めるのは悪いことではない。それだけ命が軽い世界だ。


 と、そこで先頭を走っていたヨロイが足を止める。どうやら俺たちを待ち構えている悪い敵がお出ましらしい。


 現れたのは十匹ほどの犬の集団だった。


[首輪付き、ここは任せてくれよ。俺の相棒(ヨロイ)の力を見せてやるよ]

 ガスマスクの男からの通信が入る。


 なるほど、お手並み拝見と行こうか。


 ガスマスクの男が腕を交差させ、何が楽しいのか指を鳴らし、現れた犬たちの集団を指差す。そのタイミングに合わせたようにヨロイの背中から『それ』が射出される。唸り声を上げ、こちらを取り囲もうとしていた犬を牽制するように『それ』は地面に突き刺さる。


 それはただの棒だった。どうやって収納していたのか、ガスマスクの男のヨロイと同じ三メートルほどの長さだが、それは金属製の――ただの棒だ。


 こちらを取り囲んでいる犬の姿をしたビースト。口にブーメランのような刃を咥えた個体、銃を背負い、その機構が口まで伸びている個体――ただの獣ではない。


 ヨロイが右の手で地面に刺さった金属の棒を引き抜く。


 犬型のビーストが動く。顎を引き、連動した背中の銃を撃ち放つ。ヨロイが左手を伸ばし、広げ、そこから発生したシールドで銃弾を防ぐ。

「そぉい、よ、よ、よ!」

 ガスマスクの男のヨロイが右手に持った鉄の棒を振るう。犬型のビーストが吹き飛ぶ。


『まさかの近接戦闘か』

 俺は観戦気分で固形の携帯食料を囓りながら座席にもたれかかる。

『ふふん。工事作業用を改造したヨロイだからなんでしょ。搭載されているパンドラ容量が少なくて銃火器を扱うには向かないから、仕方なくってところかしら。実弾を使えばパンドラの容量問題は解決出来るのに、それをしないのはコイルをケチっているからかしら?』

 いつものようにセラフが饒舌だ。説明したくて仕方ないのだろう。


 口に刃を咥えた犬型のビーストが縦向きに回転しながら飛びかかってくる。ヨロイが鉄の棒でその回転を受け止め、そのまま振り払う。吹き飛ばされた犬型のビーストは、しゅたっと器用に着地している。


 人型のロボットに忍者のような動きをする犬。


『まるで漫画の世界だな』

 マンガやアニメーションでも見ているかのような、そんな気分になってくる。

『ふふん、お前が何を言いたいか分からないけど、夢みた物があって、それを実現しようとすることが技術の発展に繋がるのなら、漫画とやらが再現されるのは当然なんじゃないの?』

 俺は肩を竦める。

『その通りだな』

 まさか人工知能(エーアイ)のセラフにそんなことを言われるとは思わなかった。


 夢物語の実現か。人としか思えない人造人間が存在しているのに今更だな。


[終わったぜ]

 ガスマスクの男から通信が入る。いつの間にか戦闘は終わったようだ。


 見れば、戦闘を終えたガスマスクの男がヨロイの持ち上げた金属製の棒を、その背中へと納めているところだった。


『そこは手動なのか。重くて大変そうだな』

『本来備え付けられていなかったものだから仕方ないんでしょ』


 改めて目的地を目指して動く。


 しばらく移動を続け、そして目的地が見えてくる。

[首輪付き、ここが目的地さ]

 かかった時間は二時間くらいだろうか。戦闘がなければもっと早く辿り着けただろう。街からそれほど離れていない場所に遺跡か。


 ――だが、これを遺跡と言って良いのだろうか?


 ガスマスクの男が指差した場所(さき)に見えるのはホームセンターと書かれた看板のついた平屋の大きな建物だ。


『これは遺跡ではなく、ホームセンターだろう?』

『ふふん、なんの違いがあるのかしら?』

 ホームセンターも過去の建物なら遺跡で間違いないのか。そうなのかもしれないが、なんとも言えない気持ちになるな。


[首輪付き、気を付けろよ。前に来た時よりも繁殖している]

 繁殖している?


 ガスマスクの男の言葉に改めて建物を見る。


 平屋の建物には、その過ぎ去った年月を感じさせるように蔦が絡みつき一体化していた。そして、その蔦にはところどころに真っ赤なイチゴのような実がくっついている。


 イチゴ?


 イチゴにしか見えない。だが、その大きさが異常だ。五十センチ程度の……いや、大きなものは一メートルほどの大きさがある。


 俺たちが近づくと、そのイチゴが動き出した。イチゴの黒い粒が目のようにぎょろぎょろと動き、胴体の一部が口のようにぱっくりと裂ける。そして、その裂けた口からピンク色のガスを吐き出していた。


『ふふん、ここで扱っていたバイオプラントの一部が暴走して異常成長したみたいね』

『なるほど。中に入るにはイチゴ狩りをする必要がありそうだ』

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― 新着の感想 ―
[良い点] イチゴ狩りの季節だ! [一言] ホムセンは夢があるよね。 いいものが遺ってないかなあ? オタクが好きなものを語るときは早口になる法則。
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