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175 機械の腕11――「今から動くのか?」

「それはマシーンが乾電池(コイル)を服みたいに着込んでいるってことか?」

 ガスマスクの男が頷く。


 あり得るのか?


 いや、あり得るか。


 この時代、この世界ではコイル、イコールお金だ。だが、コイルはそもそも乾電池だ。俺が知っている時代では何処にでもある、ありふれた物だった。


 そういうこともあるだろう。


「それで?」

「それで、かよ! クロウズの間に伝わるお伽噺(フォークロア)の類だと疑っているのかよ」

 俺は肩を竦める。

「別に都市伝説(フォークロア)の類だと疑っている訳じゃないさ。どういうつもりか、と聞いているのさ」

 コイルを求めて戦っているクロウズの間に広がる噂話、与太話だと断じてしまうのは早い気がする。確かに馬鹿馬鹿しい話だ。だが、充分、あり得る話だろうし、何よりもガスマスクの男がそれをアテにしている理由があるはずだ。


「なるほど、よ。首輪付き、なんで素直に教えたか疑ってるんだろう? そいつはよ、首輪付きにも一枚噛んで欲しかったからだよ」

 一枚噛んで欲しい?

「なるほどな。随分と危険な場所が目的地のようだ」

 ガスマスクの男が頷く。

「クルマでの戦いっぷり、そのクルマ自体の性能、首輪付き自身の白兵戦能力、見せて貰っただろ? 一人ではキツいかと思っていたからよ、ちょうど良いと思ったのさ」

「分かった」

 俺も頷きを返す。


「ヨロイの修理は明日一日あれば終わるだろうし、それから出発しようぜ。詳しい話はその時にするからよ」

「分かった」


 翌日、オフィスが用意した場所に残骸のようになったガスマスクの男のヨロイが転がされていた。


『ふふん、竹のようね』

『確か、松が一日一万コイルで盗難や災害の保険と洗車サービス付きだったか? で、竹は一日一千コイル、そこそこのセキュリティだろう? あいつ、少しは奮発したようだな』

 梅は一日百コイル。この場所を借りるだけで、毎日それだけの金額がとられると思うと――梅でも高すぎるだろう。確かにクルマやヨロイ持ちになれば稼げる金額は増えるのだろう。それでも常にかかる出費だと思うと痛すぎる。


『洗車サービス……洗車のことを忘れていたな』

『ふーん。ここでは洗車にも松竹梅の三段階あるようね』

 後でドラゴンベインの洗車をしておこう。


『しかし、一日で直るものなのか?』

 ガスマスクの男のヨロイは残骸のようになっている。ゲンじいさんのところで修理の手伝いをしたこともあるが、完全に大破したような状態から直そうと思うと一月近くはかかるという話だったはずだ。簡単な修理でも、ものによっては一週間はかかっただろう。

『ふふん、手作業で材料を揃えながらやっていればそうでしょうね。私としてはその知識を持っていることの方が……』

 セラフは言葉の最後を濁す。コイツはコイツでゲンじいさんに思うところがあるようだ。


「首輪付き、見てくれよ。コイツが修理道具さ」

 ガスマスクの男が抱えるような大きさの四角い箱を置く。五十センチ角ほどの四角い箱だ。

「これが?」

 ただの四角い箱にしか見えない。中に工具の類が入っているのだろうか?

「ああ、そうさ。このままだと普通の修理道具さ。簡単な故障しか直せない、普通の修理道具だよ」

「普通?」

 こんなもの、ゲンじいさんのところでは見たことが無い。

「そうさ。教えるって約束だからよ、しっかりと秘密を教えるぜ」

 ガスマスクの男が四角い箱の前に座る。


「何をする?」

「言ったろ、修理さ。そして、ここからがスペシャルな秘密だぜ。まずはコードを入れて……」

 ガスマスクの男が四角い箱に向かって八桁の数字を呟くと、四角い箱に線が入り、お菓子の箱の蓋かのようにそれが開いた。

「中はこのタイプかよ。首輪付き、見てろよ。ここの調整をこうやってよ」

 ガスマスクの男が箱の中に手を入れて、並んでいるレバーを回し、動かしていく。


「何をやっているんだ?」

「調整さ。簡単な故障しか直せない修理道具を難しい故障でも直せるように調整しているのさ」

 ガスマスクの男は箱の中のレバーを動かしている。何がなんだか分からない。


『分からないな』

『馬鹿なの?』

『知らないことだから分からないだけだ』

『ふふん、特別に教えてあげるから、感謝しなさい。このリペアボットの動作マージン――エネルギーの消費、安全性、動作バランス、そういった余裕の部分、遊びを無くす調整をし直しているんでしょ』

 リペアボット?


「終わったぜ。さあ、特別調整した修理道具の動きを見てくれよ」

 ガスマスクの男が箱の蓋を閉め、その上に手をのせる。

「起動。リペア開始」


 四角い箱が動く。四角い箱の下部分に車輪が生え、左右に小さなマニピュレーターが延びる。その動くようになった四角い箱が残骸になったヨロイの前まで走る。今度は箱のてっぺんが開き、そこからヘリコプターのような羽が飛び出し、くるくると回り、飛び上がる。

 そんな空飛ぶ四角い箱が、残骸になったヨロイの周囲を飛び回り、火花を飛ばしながら溶接などの作業を行っている。


「これで直るのか?」

「ああ、動くようにはなるさ。ただ、外装とかは無理だからよ、そこはオフィスに頼むことになるだろうよ」

 ゲンじいさんの手作業とは違う、機械任せの修理か。


 そして、さらに翌日。


 残骸となったヨロイは黒く金属の輝きを放つヨロイに生まれ変わっていた。三メートルほどの大きさ、太く丈夫そうな手と足、頭が無く、そこに剥き出しとなった座席と操縦桿のくっついたヨロイ。

「さすがに塗装までは無理だけどよ、これなら行けるぜ」

 本当に一日で修理が終わったようだ。

「今から動くのか?」

「ああ、そうさ。首輪付きの準備はどうよ?」

「問題無い。それで、何処に向かう?」

 ガスマスクの男がヨロイの座席に手をかけながら、振り返る。

「ここから東にある遺跡さ。そこの特定の場所、特定の時間にそいつは現れるんだよ」

 興味深い話だ。

「どうやってその情報を?」

「偶然さ」


 俺は肩を竦める。


 偶然、ね。


 なぜ、その時に倒さなかったのかも気になるところだ。

YO!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 修理は自動でするもの! [一言] ゲン爺さんも何気に只者ではなさそう。 しかしショバ代が高いなー。オフィスはがめつい。 この世界の機械工学デザインって、ロボ系とアンドロイド系で二分され過…
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