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172 機械の腕08――「そういうことだろうな」

 俺はハッチを開け、そこから顔だけ出す。

「聞きたい」

 ターバンの胡散臭い男が俺の方を見る。

「そこのクルマの方、質問は受け付けておりませんぞー。詳しくはオークションで、ですぞ」

「いや、そのクルマの持ち……」

「質問は受け付けておりませんと言ったはずですぞ。会話は終わりですぞ」

 ターバンの胡散臭い男は不愉快そうに俺の言葉を遮り、俺との会話を終わらせる。


「オークション、皆さん、次のオークションですぞ。この目玉をご用意して待ってますぞー」

 ターバンの胡散臭い男は、そのまま真っ赤なクルマの中に消え、街の中へ去って行く。


『どういうことだ?』

『少し待ちなさい』

 セラフの声が頭の中に響く。


 俺はドラゴンベインの座席に座り、考える。


 スピードマスターのクルマを他の男が動かしている?


『……お前が気にするようだから調べてみたけど東部に情報は入っていないようね。こちらで調べる必要がありそう』


 情報は無し、か。


 どうする?


 目的はオークションだ。それはいい。


『領域の確保もでしょ』

 俺は肩を竦める。


 このハルカナにあるオフィスの端末の支配も、か。

『それも、だな』


 にしてもクルマ、か。


 スピードマスターのクルマ。


 オークションに目玉として出品されるクルマ。


 手に入れるとしたらどれだけのお金(コイル)を用意すれば良いか分からない。手持ちの十万コイルで何とかなるようなことは無いだろう。最低でも桁が一つ、いや二つくらいは違うだろう。


 ……無理だな。


 俺が手に入れるのは無理だ。


 俺はドラゴンベインを走らせ、ガスマスクの男のところに戻り、そのままドラゴンベインを降りる。

「すまないな。賞金は逃した」

「クロウズをやっていればよくあることさ」

 俺は牽引ロープを伸ばし、残骸のようなヨロイへと結ぶ。


「何処まで運べばいい?」

「あ、ああ、オフィスまで頼むさ」

「分かった」

「なぁ、首輪付き。さっきのクルマ……最速の赤のクルマだよな? どうも乗っていたのが違う奴に見えたが見間違いじゃないよな?」

「そうみたいだな」

 ガスマスクの男も先ほどのことは少し驚いているようだ。同じレイクタウンを拠点としていたクロウズ同士、俺よりも確実に関わっていた時間は長いだろう。それこそ共闘したことだってあるのかもしれない。思うところがあるのかもしれない。


「あいつが天部鉄魔橋(あまべてつまきょう)の大規模討伐戦に関わったのは聞いていたさ、しかしよ……そういうことか?」

 天部鉄魔橋(あまべてつまきょう)の大規模討伐戦?


 そこを占拠した賞金首、アクシード四天王のコックローチとやらを倒す作戦だったか。星十字軍(スタークルセイダー)とやらが行ったと聞いていたが、スピードマスターも参加していたのか。

 その作戦は失敗し、スピードマスターのクルマがオークションに流れる。つまり、そういうことなのだろう。


 ……。


 これがこの世界。


 どんな奴でも終わる時はあっさりと終わる。


 酷い世界だ。


「そういうことだろうな」


 俺はドラゴンベインを走らせ、ハルカナのオフィスを目指す。


 白いコンクリートの建物が並ぶ中を進み、やがて円形の変わった建物が見えてくる。ここがハルカナの街のオフィスらしい。


「よっと、ここでいいぜ」

 ガスマスクの男がコツンコツンとドラゴンベインの砲塔を叩く。

「報酬は?」

 俺はドラゴンベインから外に出てガスマスクの男に確認する。

「首輪付きはしばらくここだろ? ここのガレージを借りて毎日でも教えるさ。コイルは……今払う。中に入ろうぜ」

「そうだな」


 俺とガスマスクの男は仲良く円形の建物に入る。


「だから、何度も言っている! 正しいのは僕たちの方だと!」

 と、そこでオフィスの窓口の方から大きな声が聞こえてきた。

「その件はすでに何度も話しましたように終わっています」

「終わっていません。終わっていませんよ」

「……終わってない」

 何処か見覚えのある男と女が窓口で騒いでいるようだ。窓口の職員は困ったように苦笑している。


「そこまで言われるのでしたら、マップヘッドの街で決闘裁判でも行ってはどうでしょうか? 今は封鎖も解かれているそうですよ」

 窓口の職員はニコニコと微笑んでいる。


「くっ、レモンがあの状態では、僕はここを離れることが出来ない。知っているはずだ」

「それはそちらの事情でございますね」

 窓口の職員は無駄に整った顔でニコニコと微笑んでいる。


「……ウルフ、行こう」

「ああ。その態度、覚えておくよ」

「またのご来店をお待ちしています」

 窓口の職員がニコニコとした顔のまま頭を下げる。


 見覚えのある男女が窓口でのやりとりを終え、こちらへと歩いてくる。

「どいてくれ」

 その二人は俺たちを押しのけ、オフィスを出て行った。


「首輪付き、あれ、星十字軍(スタークルセイダー)の新人だよな?」

 ガスマスクの男は二人のことを知っているようだ。

「知っているのか?」

「少しだけさ。新人の割りには結構やると、そういう話だったが……オフィスと揉めるようなら先は長くないぜ」

 俺は肩を竦める。


 確かに先は長く無さそうだ。


 この世界を支配している組織に刃向かうなんて無謀なことだからな。

『ふふん。無謀だと思っているなんて初耳』

『それだけ面白いってことだろう?』


 さて、と。

 俺たちは俺たちの用事を済ませよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 所詮この世は焼肉定食! [一言] ああ無情なのだった。 うわーオフィスにさからうなんてむぼうだなーこわいなー。 でもガム君には関係ないもんねー(フラグ) マップヘッドの決闘裁判て……あ…
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