168 機械の腕04――「そんな奴を放置して……大丈夫なのか?」
「ハルカナに関する情報が欲しい。情報料は必要だろうか?」
これから向かうハルカナの街に関する情報をオフィスの窓口で確認する。
「その情報に情報料は不要ですよ。ガムさん、次の遠征先ですか? マップヘッドの賞金首を倒したと思ったらすぐに次なんて凄いですね!」
窓口に座っているオフィス職員の女が妙に馴れ馴れしい。
『どういうことだ?』
『お前が賞金首をそれなりに倒して、クロウズのランクもそれなりになったからでしょ。この人造人間は、お前やお前たちクロウズ個人個人の貢献度に応じて好感度が上がる仕組みなの。お前が一度に貢献度を上げすぎて、この人造人間に設定された好感度が一気に上がってしまっただけね』
なるほどな。本来は小さな依頼をコツコツと達成して、ゆっくりと仲良くなっていくような設定なのか。だが、俺は大きな賞金首を倒して一気にランクが上がってしまった。だから、今回、急に馴れ馴れしくなったと感じたのか。
「それで、情報は?」
「あ、はい。ハルカナの街はここから西方に位置した場所にあります。道なりに西へと進んでいけばすぐに見えてきますよ。ハルカナは西部地域の入り口になっている街ですね。ここを抜け、天部鉄魔橋を越えれば、ついについに最前線です。最前線が見えてきます」
「あまべてつまきょう?」
「はい。西部地域……そのもっとも戦いが激しい場所へと通じる橋のことですね。現在はその橋を渡ることが出来なくなっているから、はい、西部地域に向かうにはハルカナを出て南に、ビッグマウンテンをぐるっと周り込むようなルートになりますね」
天部鉄魔橋にビッグマウンテンか。そして最前線。新しい情報だ。だが、俺が知りたい情報ではない。
……。
俺は肩を竦める。
「それで?」
「あ、はい。肝心のハルカナの街の情報ですね。ハルカナで有名なのはなんと言っても競売所――オークションですね。色々なものが出品されてるようです。欲しいものが普通に買うよりも安く手に入るかもしれませんよ。それになんと! クルマが出品されることもあるようです!」
窓口に座っているオフィス職員の女が興奮したように身を乗り出し、一気に捲し立てる。
「他に情報は?」
「特にありません」
身を乗り出していた窓口の職員がふぅっと小さく息を吐き出し、ちょこんと椅子に座り直す。
俺はもう一度肩を竦める。
『競売所があるだけの街、か』
『ふふん。だとしても、そこにも端末はあるから……分かってるでしょ』
『ああ、協力はするさ』
マザーノルンの端末――九つのノルンの娘たち、か。
「ところでアクシードの……四天王とやらに関する情報はあるだろうか?」
「あ、はい。それなら最新の情報がありますよ」
窓口の女が無駄に整った染み一つ無い顔で微笑む。
「教えてくれ」
「はい。これは先ほどお話しした天部鉄魔橋とも関係のある話になるんです。そこをアクシード四天王の一人と名乗る賞金首に占拠されてしまいました。名前はコックローチ、賞金額は……なんと五百万コイルですよ!」
俺は思わず口笛を吹きそうになる。
ミメラスプレンデンスの三百二十万という賞金額にも驚いたが、それよりもさらに上だ。
「これは現在かけられた中では最高額の賞金となります。並んだんですよ、凄いですね!」
「最高額なのか」
窓口の女が強く頷く。まるで嘘は言っていないと主張しているかのようだ。
「はい。これが、この情報が最新情報になるんですけど、天部鉄魔橋を占拠したアクシードに対して星十字軍を中心とした団による大規模討伐戦が行われ……失敗しました。失敗したんですよ。それもあって賞金が上乗せされました。史上二人目の賞金額五百万コイルが生まれたんですよ! しかも二人ともがアクシードを名乗っているんですから、恐ろしい悪党たちですね」
まるでスター選手が生まれたかのような扱いだ。
にしても、二人目、か。
五百万コイルの賞金首が二人、ね。
「それで?」
「現在、天部鉄魔橋への道は封鎖ということになってます。アクシード四天王コックローチの危険性を考えて、クロウズのランクが百以上の方しか通れないんですよ」
クロウズのランクが……百?
「待ってくれ。クロウズのランクは99まででは?」
窓口の女が頷く。
「はい、そうですよ」
百にすることが出来ないのに挑戦権が百以上?
つまり実質の挑戦禁止だろう。
「そんな奴を放置して……大丈夫なのか?」
窓口の女は顎に手をあて、こてんと首を傾げる。
「コックローチは何故か天部鉄魔橋から動かないみたいですからー、なので現状は無視ですね。もし、こちらへと攻めてくるようになったら、そうですねー、最前線で戦っているスターたちを呼び寄せることになると思います」
最前線。
そこで戦っている連中か。そいつらならなんとか出来る? だから放置している?
……。
影でこの世界を支配している連中だ。五百万コイルの賞金首だろうとちょっとしたイベントくらいにしか考えていないのかもしれないな。
「とりあえず情報はそれくらいですね」
「分かった。ありがとう」
「はい、どういたしまして」
窓口の女が整いすぎた容姿で微笑む。俺は大きくため息を吐く。
さて。
『必要な情報が揃ったとは言えないが……出発するか』
『ふふん、情報なら私が持っているから。お前はオフィスで情報を得たという形だけあれば問題ないでしょ』
『はいはい、そうだな』
俺が用があるのはハルカナの街だ。西部地域に最前線、今はまだ俺には関係が無いな。
『知ってる? そういうのをフラグと言うらしいわ』
『何処で手に入れた情報だ、それは』
『ふふん。領域が拡張されればそれだけ手に入る情報も増えるんだから』
前に言ったことのお返しか何かのつもりなのだろうか。
まぁ、いいさ。
ハルカナに向かうとしよう。




