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163 首輪付き50――「戦いに夢中で気付かなかったな」

「アァアァァァァァアアアアァァァァ」

 ガロウが声にならない声で叫ぶ。

「おや? ごめんごめん、ごめんなさいね。でも、大切なものを放置していたお前も悪いと思わないかしら?」

 女が容器を踏み潰した足を軽く振る。汚いものがこびりついたという態度で足を振って、汚れを、しずくを飛ばしている。


「殺す、殺しデやる、ゴろしてやるゥ!」

 ガロウが女へと飛びかかる。


 だが、女はそれをものともせず、あっさりと飛びかかってきたガロウの首を掴む。

「ちょっと待っててね、すぐ終わらせるから」

 女が俺を見る。病んだ瞳を歪ませ、歪んだ顔で俺に笑いかけている。


「こ、ご、ごンな、もノでェ」

 首を掴まれ、高く持ち上げられたガロウが女を睨む。

「あらあら。再生するから大丈夫とか思っているの?」


 次の瞬間、ガロウの体が泡立ち、ボコボコと膨らんでいく。

「ナ、ア、ナニをしタぁァ」

 女が笑いながら首を傾げる。

「さっきやられたことを覚えてない? 覚えてないの? お前を構成しているナノマシーンの命令を狂わせただけ、その意味くらいは分かるでしょう?」

 ガロウの体が膨らみ続ける。


「せ、ぜ、めテ、お前、だけ、デもォォ!」

 ガロウが叫び、女へと噛みつこうとする。

「ふふ、こわーい。でも、はい、おしまい」

 女が掴んでいた手を離す。膨らみ続けていたガロウの体が固まり、粉となってさらさらと崩れていく。ガロウだったものが塵と化していく。


 反撃すら許さない。


 ガロウは何も出来ない。


 出来ずに終わる。


『何をしたんだ?』

群体(ナノマシーン)への命令(コマンド)を書き換えたみたいね。私がやった上書きでは無く、書き換え。群体(ナノマシーン)の天敵みたいな奴ね』

 天敵、か。


 ガロウが崩れる。崩れていく。全てが崩れ、塵となるその一瞬、ガロウが俺を見た。その目は俺に訴えかけている。


 仇をとってくれと言っている。


 俺はその目を逸らすことなくガロウを見て――ゆっくりと頷く。


 消える。


 塵となり……それすらもただの風に吹かれ、消えていく。


 ガロウだったものは消えた。


 まるで最初から何もなかったかのように消えた。生きていた証を何も残すことなく、消えた。残っているのは砕けた容器とそこに入っていたぐちゃぐちゃの生首だけだった。


 俺は自分の服の一部を切り裂き、包帯のようにして未だ血を流し続けている左腕に巻き付け、強く縛る。出血を抑える。


 血を流しすぎている。このままだと出血で意識を失ってしまうかもしれない。


 俺は大きく息を吐き出し、女を見る。


 女は狂ったように笑いながら俺の行動を見ている。待っている。


「お前は何者だ?」

 狂ったように笑っていた女が首を傾げる。

「アクシード四天王の一人って名乗ったのは……聞こえなかったのかしら? 割とショックね」

 俺は肩を竦める。

「お前の目的は?」

「それも言ったと思ったのだけれど……それも聞いていなかったのかしら? とてもショックね」

 俺は無くなった左腕の出血を無視して、もう一度肩を竦める。


「最初はオリカルクムと名乗り、次はアクシード四天王の一人、ミメラスプレンデンスと名乗っていたな。目的は喧嘩を売ってきたガロウの粛正か?」

 女が病んだ目で歪んだ笑みを浮かべ、楽しそうに頷く。

「ええ、その通り。分かっていて聞くなんて、あなたはとても意地悪ね」


 俺は女を見る。

「それで目的は?」

 女がこれ見よがしなため息を吐き、肩を竦める。

「そうね、そうよねぇ。それならあなたの勧誘というのはどうかしら? あなたにつけられた首輪(・・)を解放してあげるわ」

 首輪?


 飾り物の首輪を外し、組織という首輪をつけるつもりか?


「断る!」

 俺は叫び、後方へと大きく飛ぶ。


『セラフ』

『お前は私を便利に使いすぎでしょ』

 ドラゴンベインが動く。砲塔を旋回させ、こちらを狙う。


「遠隔操作?」

 女が俺を見る。


 その時にはドラゴンベインの主砲による一撃がこちらへと叩きつけられていた。


 爆発が地面を抉り、土砂を巻き上げる。爆破の余熱が皮膚を焼く。


『やったか……と言いたいところだな』

『言えばいいでしょ』

 倒せていないのが分かっているのに、わざわざフラグを建てる必要もないだろう。


 あの女――砲弾の一撃が炸裂する一瞬、何か金色に輝く殻のようなものに覆われているのが見えた。


 そして、俺の予想していた通り、土埃の消えた後には無傷の女が立っていた。


「ちょっと酷くないかしら?」

 女は病んだ目のままコテンと首を傾げる。


 俺は走る。女を無視してドラゴンベインへと走る。


 女は俺を追いかけることなく、その場で笑い続けている。


『セラフ』

『ふふん、もとからそのつもり』


 ドラゴンベインの主砲が火を噴く。次々と砲弾が撃ち込まれる。俺の動きを待っていたのか、ルリリの玩具のような戦車からも攻撃が続く。二台の戦車による激しい攻撃。辺り一面を更地にするような勢いだ。だが、それも無駄だろう。


 砲撃の向こう――女が立っている。


 金色の甲殻に覆われ、ただ立っている。


 女が金色に輝く殻で攻撃を防いでいる。ドラゴンベイン、ルリリの戦車、どちらの攻撃も貫けない。全て防がれている。


 俺はドラゴンベインへと走る。


 パンドラで生成した弾ではあの甲殻を貫けないようだ。


 だが、今、ドラゴンベインには特殊弾が乗っている。


 女はこちらを試すように余裕の表情でその場に立っている。もしかすると金色の甲殻を展開している間は動けないのかもしれない。ならば今のこの攻撃も足止めくらいにはなっているはず……だ。


 ドラゴンベインのハッチに手をかけ、その中へと滑り込む。


[あれはなんなんですの?]

 すぐにルリリからの通信が入る。

「アクシードという悪党の四天王らしい」

 俺は特殊(ノアマテリアル)弾をドラゴンベインの主砲に装填する。


『セラフ、頼む』

 ドラゴンベインの主砲が火を噴く。マズルブレーキが前後し、大きな煙をたなびかせ、その衝撃を受け止める。


 ドラゴンベインの主砲から発射されたノアマテリアル弾が女へと撃ち込まれる。金色の甲殻とノアマテリアル弾が拮抗し激しく火花を散らす。


 ――だが、終わらない。ノアマテリアル弾の一撃は終わらない。


 ノアマテリアル弾が金色の甲殻を徐々に押し込み――そして貫く。


 そして、その時には、俺は次のノアマテリアル弾を装填している。


 ――ノアマテリアル弾の最初の一撃が金色の甲殻に穴を開けている。


 道が出来ている。


 ドラゴンベインの主砲が火を噴く。


 先ほど金色の甲殻を貫き、穴を開けた場所を、寸分違わず抜ける。機械のように精密な砲撃が狙ったように――抜け、金色の甲殻の中で炸裂する。


 爆発のエネルギーが殻の中で暴れる。


 ……。


『ふふん。反応が消えたみたいね』

『終わったのか』


 やがて金色の甲殻も消える。そこには何も残っていなかった。


 終わった、か。


 思っていたよりもあっさりと終わった。


 だが、ギリギリだった。


 ノアマテリアル弾がなかったら? 貫通した穴を抜くほどの精密な砲撃が出来なかったら?


 仮定の話をしても仕方ないが、その時は撤退するしかなかっただろう。


 だが、全ては終わった。これで終わりだ。


 ……。


 その時だった。


 チクリと頭の中に何かが繋がったような感覚が走る。


『あらあら、そこにあったのね』

 頭の中に声が響く。

『お前は……』

『今回は予定外のことが多すぎね。挨拶は終わったし、帰らせて貰うわね』

 それだけ言うと頭の中の声は消えた。


 繋がっていた感覚もなくなる。


 生きていたか。


 いや、違うな。遊ばれていただけか。


『反応は完全に消えていたのに、どういうことなの!』

 セラフの苛立つような声が頭の中に響いている。


 セラフも万能ではない。いや、最近思ったが、どちらかというとポンコツよりだろう。


『はぁ?』

『いや、いいさ。とりあえず終わったようだ』


 終わった。


 オリカルクム、いやミメラスプレンデンスか。いずれ決着をつける必要はあるだろう。


 だが、今はゆっくりと休もう。


 とりあえず当初の目的だったマップヘッドの管理権は手に入れることが出来た。それで良しとしよう。


 俺はドラゴンベインのハッチを開け、外に出る。


 砂漠の熱気が肌に暑い。

「戦いに夢中で気付かなかったな」

 じわりと汗がにじむ。


 ガロウとガレット、あんたらの仇も討つさ。


 アクシード、か。


 俺は失い痛む左腕を抱え、大きく息を吐く。

次回は人物紹介になります。


2021年12月19日修正

ちょっと待ててね → ちょっと待っててね

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― 新着の感想 ―
[良い点] 決着だ! [一言] 兄妹に黙祷……。 仇はガム君(とセラフ)がとってくれるぜ! しかし景気よく撃ちまくったけど賞金の分け前、減るんだよね。 お財布は補填できるのかしら。 あとセラフは反…
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