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161 首輪付き48――『これが一万コイル』

「ガロウの居場所は?」

 その時、激しい音を立て次々と建物が倒壊していく光景がドラゴンベインのモニターに映し出された。

「いや、聞くまでも無かったな」

『ええ。でも、少し急がないとヤバそうね』

 ヤバい、か。


 これは確かにヤバそうだ。


 ドラゴンベインが動く。その後ろをルリリの運転するトリコロールカラーの玩具のような戦車がついてくる。


 そして、すぐにグラスホッパー号を追いかける巨大な蛇の姿を見つける。


 カスミの運転するグラスホッパー号が白く四角い建物を盾にして逃げる。追いかけるガロウは建物をものともせず、砕き、すり潰し、破壊して進む。ガロウが口に咥えた瓦礫を吐き飛ばす。カスミが慌てて急ハンドルを切り、それを回避する。だが、カスミとガロウ、その距離が徐々に縮まっている。グラスホッパー号が巨大な蛇に追いつかれようとしている。


「確かにヤバそうだ」

『ふふん、ノアマテリアル弾を装填しなさい』

「さっそくか」

 セラフに言われるがままにノアマテリアル弾を装填する。


 一発一万コイルの特殊弾。


 五百コイルの特殊弾でも高いと思ったが、これは桁が違う。札束で殴るような特殊弾だ。


 ドラゴンベインの足が止まり、砲塔が動く。巨大な蛇――ガロウを狙う。こちらとガロウの距離はまだ遠い。離れている。主砲の射程範囲外だろう。だが、ドラゴンベインは足を止め、ガロウを狙う。


 すぐには攻撃しない。ガロウを狙い続ける。


 俺には分かる。セラフはタイミングを――絶対に外さないチャンスを待っている。


 巨大な蛇がグラスホッパー号に追いつく。いや、もしかするとセラフの指示でわざと追いつかせたのかもしれない。


 巨大な蛇が大きな顎を開け、グラスホッパー号を飲み込もうと飛びかかる。


 そして、そのタイミングを狙いドラゴンベインの主砲が火を噴く。放たれる特殊(ノアマテリアル)弾。


 ドラゴンベインの射程外――通常では届かない距離。だが、その距離を超える。放たれたノアマテリアル弾が勢いを減衰させることなく巨大な蛇に着弾する。


 そして、それはその力を解放する。


 次の瞬間には吹き飛んだ蛇の頭が宙を舞っていた。


 特殊(ノアマテリアル)弾は、たった一発で蛇の体を――巨大な蛇の胴体を消滅させていた。


『これが一万コイル』

『避けられたわ。今のうちに距離を縮める』

 ドラゴンベインが走る。


 外れた、外れていた、だと?


 宙を舞っていた蛇の頭が大きな音を立て地面に叩きつけられる。


『前に出るから』

 カスミの運転するグラスホッパー号を下がらせ、ドラゴンベインを前に出す。落ちてきた巨大な蛇の頭の前へと動く。


 巨大な蛇の頭部が――額の辺りがボコりと盛り上がる。そして、そこに女の上半身が生まれる。女が髪を振り回し、掻き上げる。

「無駄だぜェ、無駄、だ、無駄だぜ」

 ガロウだ。


 一瞬にして蛇の胴体が再生していく。元に戻る力。再生力。


 勝てるのか、これに。


 ルリリの乗っているトリコロールカラーの戦車が主砲を発射する。その一撃が蛇の額に生まれた女の上半身を吹き飛ばす。だが、次の瞬間にはボコりと新しい上半身(ガロウ)が生えていた。

「無駄、無駄、無駄ァ。まさか、これが俺の本体だとでも思ったのか?」

 ガロウは楽しそうに笑っている。


「どういうことだ?」

『ふふん。分からないの? 説明が欲しいの? 今更?』

 俺は大きくため息を吐く。

「どういうことだ?」

『お前まで言葉や形に騙されるとか私の話を聞いてなかったの? アレを構成しているのは命令によって集まっている群体(ナノマシーン)。何処かに本体があるとか、コアがあるとかじゃないってことでしょ。つまり全てが本体ってこと』


 ナノマシーンの集合体?


「それで作戦は?」

『お前の血を特殊弾に垂らしなさい』

 俺は頷き、ナイフで腕を切る。流れ出た血をノアマテリアル弾にかける。


 俺の血をたっぷりと浴びたノアマテリアル弾を装填する。


 ドラゴンベインの砲塔が動きガロウを狙う。

「おっと、そいつは直撃を避けさせて貰うぜ。さすがに全て消滅させられてまで再生が出来るかは分からないからなァ。うん、ちょっと自信が無いぜェ」

 ガロウが笑い、蛇らしいぐにゃぐにゃとした嫌がらせのような動きを見せる。


『そっちの小娘に通信を繋ぐから、足止めさせなさい』

 セラフの苛々したような声が頭の中に響く。


[ガムさん、どうしたのかしら? 作戦ですの?]

 ルリリからの通信。

「あの蛇の動きを止められるか?」

[分かりましたわ]

 作戦とも言えない作戦を伝える。


 これで勝てるのか?


 ……。


 セラフに任せると決めた以上、信じるべきか。


 ガロウが礫を吐き、尻尾を振り回す。ドラゴンベインが前に出て、それらをシールドで受け止める。


 トリコロールカラーの戦車がドラゴンベインの後ろからロープの付いた銛のようなものを発射する。だが、ガロウに躱され銛は地面に突き刺さる。


「巨体のくせに素早いな」

『ふふん、そう?』


 次の瞬間、ロープを伝い電気が走った。衝撃が地面を伝わりガロウに襲いかかる。痺れ、ガロウの動きが一瞬だけ止まる。


 動きが止まった。


 ドラゴンベインの主砲が火を噴く。


 轟音を立て、衝撃を逃がすようにマズルブレーキが前後する。


 そして着弾する。


 ドラゴンベインの主砲の一撃が蛇の頭部を消滅させる。


 頭部が消えた。


 だが、蛇の残った尻尾の部分が盛り上がり、そこに女の上半身が生えた。

「だから、無駄なんだぜ。頭が本体だとでも思ったのか?」

 ガロウが楽しそうに笑い、叫ぶ。だが、その笑い声が止まる。


「な、ん、だと……?」

 蛇の頭部が再生しない。いや、再生はしているのだが、その動きは遅い。ゆっくりと時間をかけて再生している。


「まさか毒か!」

 ガロウが氷の刃を生み出し、自身の胴体を切断する。


『ふふん、毒か何かのように切り離せば何とかなると思っているなんて、馬鹿なの? これだからお馬鹿さんは、ふふん』


 セラフは言っていた。


 全てが本体だと。


 そういうことか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これが一万コイルの味だぜ! [一言] さすがにお高いだけあった。 血液媒介かー。てっきりガム君が特攻して、むしゃむしゃされるのかと。 得意満面のセラフは可愛くないこともない。ふふん。
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