160 首輪付き47――『これで勝てるのか?』
「それで、どうする?」
俺は独り、言葉を呟く。
『ふふん、倒すだけでしょ』
俺の言葉にセラフが答える。
「そうだな。話し合いの時間は終わった」
これ以上は会話を続けても無駄だろう。
ガロウを終わらせる。
『ふふん。作戦を伝えるから聞きなさい』
「ああ、そうだったな。その話の途中だったか。まさか、再生が出来なくなるまで攻撃する……なんて手段じゃないだろう?」
『ふふん、当たり前でしょ』
「方法は?」
セラフなら自分で考えろとでも言いそうだが、聞いておく必要がある。
『言う訳無いでしょ』
セラフの何処かふてくされたような声が頭の中に響く。
「ああ、そういえば最初に作戦を伝えると言っていたな」
『ええ! 作戦は簡単ね。攻撃をぶち込み、再生している途中で異物を取り込ませる。それだけ』
それだけ?
「本当にそれだけなのか? それだけで再生しなくなる? そんな簡単なことで勝てるのか?」
『ふふん、良く聞きなさい。作戦は簡単でも実行の難易度は高いから。ふふん、取り込ませるものが重要ってこと、分かるでしょ』
取り込ませるもの、だと?
まさか……。
『ふふん、少しは賢くなったの? お前が想像しているように、取り込ませるのはお前だから。そうすればどうなると思う? 群体同士が反発してエラーを起こす! どう簡単な作戦でしょ?』
「なるほどね」
俺は肩を竦める。
「それで、俺はどうすればいい?」
セラフは俺の体の支配権を狙っている――この体は大事なはずだ。それにセラフの本体は俺の右目にある。本当に言葉通りの意味で俺をガロウに取り込ませ、自身を危険に晒す、なんてことはないだろう。
『まずは先ほどの小娘から特殊弾を手に入れることね。商人らしく隠し持っているものを売ってくれるでしょ』
「なるほどな」
まずはルリリと合流か。
カスミがグラスホッパー号でガロウを引きつけている間に合流するべきだろう。
ドラゴンベインが無限軌道を唸らせ動く。
急ごう。
そして、通信の電波が発信されていた場所――ルリリが居るはずの区画に辿り着く。そこは混沌に包まれていた。
そこでは首輪の付いた奴隷たちが武器を手に持ち、車輪の付いた円筒形たちと戦っていた。
「死ね、ぶっ壊れろ」
奴隷の一人が抱えた突撃銃を乱射する。それを受けた車輪の付いた円筒形が銃弾の勢いに圧され、倒れる。そして、それを狙ったように鉄パイプや棍棒を持った奴隷が集まり、タコ殴りにする。
円筒形のボディはアサルトライフルの銃弾程度では傷がつかないほど丈夫なようだ。だが、数の暴力には勝てなかったようだ。ボコボコにボディを歪めた円筒形が動かなくなっている。
しかし、その円筒形たちも、ただやられているだけではないようだ。動けなくなった個体が出た側から、周囲の無機質な白い建物から新しい円筒形が現れ、補充される。
車輪の付いた円筒形がミサイルを飛ばし、レーザーを放つ。一人の奴隷は吹き飛び爆散し、一人の奴隷はレーザーで焼け焦げ、切断される。
混沌としている。
銃弾が飛び交い、死と破壊が生まれ、混沌としている。
「おい、新手が!」
「クルマだぞ!」
奴隷たちは俺のドラゴンベインも敵だと思っているようだ。こちらへと銃口を向ける。
……不味いか。
俺はハッチを開け、顔を覗かせる。
「ルリリは何処だ?」
俺の首輪を見て集まっていた奴隷たちが安心したようにホッと息を吐き出す。
「お、お仲間か?」
「そのクルマは何処から奪ったんだ、おい」
落ち着いて余裕が出来たからか、奴隷たちがドラゴンベインの周囲に集まってくる。奴隷の一人がドラゴンベインに手をかけ、登ってきた。
「おいおい、何をするつもりだ?」
そこを狙ったように砲塔が旋回し、奴隷を吹き飛ばす。セラフがやったのだろう。
奴隷たちが一瞬にして蜘蛛の子を散らすようにドラゴンベインから離れていく。まったく勝手な奴らだ。
とりあえず聞きたいことだけ聞こう。
「ルリリ――商団主は何処だ?」
「しょ、商団主なら向こうだぜ」
「あ、ああ。向こうで警備装置を相手にして、ててててて」
その喋っていた奴隷の一人が、突然、電気で痺れたように固まり倒れる。
「おい、まだ装置が生きてるぞ」
「くそ、リモコン持っているのはどいつだ。おい、クルマ持ち、そういうことだ。応援にいってくれ」
俺は手を振り、車内に戻る。
ドラゴンベインを走らせる。
俺のお手伝いをしてくれるはずのルリリが何故か警備装置と戦っているようだ。
そして見つける。
見覚えのあるトリコロールカラーの玩具みたいな戦車が案山子のような機械と戦っている。
トリコロールカラーの戦車が砲塔横にくっついた丸いボールのようなアンテナに光を集め、案山子へと放射する。その一撃を受けた案山子が動きを止める。そこへ主砲が叩き込まれる。だが、主砲の威力が足りていないのか案山子は無傷だ。
『ふふん、シールドを集中させているんでしょ』
「なるほどな」
ドラゴンベインの主砲が火を噴く。こちらからの一撃はあっさりと案山子を貫き、破壊した。
シールドの有り無しでこれだけ違うか。
[助かりましたわ]
ルリリから通信が入る。
「ルリリ、特殊弾が欲しい」
[いきなりですわね。分かりましたわ。どれをどのくらいですの?]
トリコロールカラーの玩具のような戦車がこちらへと走ってくる。
『ノアマテリアル弾をあるだけ買いなさい』
「それが必要なのか?」
『ふふん』
セラフの言葉に俺は肩を竦める。
「ルリリ、ノアマテリアル弾はあるか?」
俺の言葉を聞いたルリリからの返事がない。
沈黙が流れる。
「ルリリ、聞こえているのか?」
[何処で、それを?]
「持っているのか?」
[絶対防衛都市製のNM弾は五発だけありますわ]
五発、か。
「分かった。売ってくれ」
[本当によろしいのかしら? これは一発一万コイルもする代物ですわ]
ん?
一発、一万コイル?
それが五発だと五万コイル?
『セラフ』
『ふふん。コイルなら心配しなくてもいいから。例の賞金首の賞金を振り込ませているから問題なく支払えるわ』
俺はため息を吐く。
確か、あいつの賞金額は八万コイルだったか?
それが吹き飛ぶような話だ。
「必要なんだよな?」
『ええ』
仕方ない、か。
ルリリから特殊弾を受け取る。
「しかし、特殊弾を持っているのに使わなかったのか」
使っていたら先ほどの案山子も楽に勝てたかもしれないのに使わなかったのか。
「商人が商品に手を出したら終わりですわ」
そういうものか。
『これで勝てるのか?』
『ええ、これで準備は終わり。後は倒すだけでしょ』
合流したルリリとガロウを討伐するために動く。
決着をつけよう。