159 首輪付き46――「今は一人でも味方が居た方が良いだろう?」
『おいおい、遊んでくれないのかよ。それなら俺から行くぜ? いいのかよ? 行くぜ?』
巨大な蛇が身をくねらせ、こちらに巻き付くように突進してくる。ドラゴンベインのシールドが突進を防ぐ。シールドごと吹き飛ばされそうな一撃だ。
ドラゴンベインが焦るように無限軌道を回し、後退する。
『ふふん、威勢だけは充分じゃない』
後退しながら主砲を放つ。その反動を受けドラゴンベインがさらに後方へと押し出される。
巨大な蛇が身をよじり、主砲の一撃を躱す。そこにドラゴンベインの左右のミサイルポッドから放たれたミサイルが次々と撃ち込まれ大きな爆発を起こす。
「まさか、再生が追いつかなくなるほど攻撃を繰り返すつもりか?」
『ふふん、まさかでしょ』
爆発の中から巨大な蛇が姿を現す。その外皮は爛れ、一部欠損し、崩れていた。だが、その傷はすでに再生を始めていた。
元に戻ろうとしている!!
『無駄、無駄、無駄、無駄アァァァァ』
巨大な蛇が大きな顎を開き、巨大な瓦礫を咥える。そして、上半身を振り回すように勢いをつけ、こちらへとその瓦礫を礫のように投げ飛ばす。
ドラゴンベインのシールドが飛んできた瓦礫を防ぐ。
瓦礫の質量、勢いにシールドが大きく削られている。
「回避はしないのか?」
『ふふん、何を言っているの? グラスホッパー号のようなタイプならそれも可能でしょう。でも、戦車タイプには無理でしょ。高出力のパンドラを搭載しシールドで攻撃を防いで強力な一撃を叩き込む。これが戦車タイプでの戦い方の基本だから覚えておきなさい。お前には分からないでしょうけど、これでも相手の攻撃を計算して最小限のシールドで受けるようにしているから』
セラフが言い訳でもするように早口で捲し立てる。
俺は肩を竦める。
「それはご苦労様」
巨大な蛇が尻尾を振り払い、散弾のように瓦礫をまき散らす。それをシールドで防ぎながら主砲による一撃を叩き込む。近寄らせないようにミサイルポッドからミサイルを放ち弾幕を張る。
こちらの攻撃によって巨大な蛇が体に大穴を開け、爆発によって身を散らせ、さらに炎を纏う。だが、それだけだ。その攻撃によって受けた傷はすぐに再生している。
何も消費せずに再生しているのか?
どこまで再生出来るのか?
……駄目だ。
じり貧だ。
攻撃にもパンドラを使っている分、こちらの損耗の方が激しいような気がする。
セラフは攻撃をシールドで防ぐしかないと言っていた。だが、本当にそうだろうか? ドラゴンベインの悪路をものともしない走破性能、機動力――相手の攻撃を予測出来れば回避くらい出来るのではないだろうか?
もし、俺なら……。
『無駄、無駄ァ、無駄アァ、無駄だぜェェ!』
巨大な蛇の口から霜が降りる。輝きの線が生まれ、そこから氷が生まれる。
これは!?
蛇の姿でも使えるのか。
こちらの周囲が凍り、ドラゴンベインの足元が氷に包まれる。
「んだと!?」
滑り、無限軌道が回っていない。そして、氷によって足元が固められ、身動きが取れなくなる。
『ひねり潰してやるぜ』
巨大な蛇が身を屈め、滑るようにこちらへと迫る。
ドラゴンベインは凍り付き動けない。後退が出来ない。
迫る巨大な蛇を追い払うように主砲を放つ。だが、その一撃が回避されてしまう。そのまま距離を詰められる。
動いて逃げることは――出来ない。このままではシールドごと施設のように巻き付かれ粉砕されてしまう。
だが、そこに炎が生まれる。
ドラゴンベインの背後に隠れていたグラスホッパー号がなけなしのパンドラを使い、火炎を放射する。
『人形がぁぁぁぁ、炎で氷を溶かすつもりかあぁぁぁぁ!』
巨大な蛇が唸り、うねり、叫ぶ。
グラスホッパー号の火炎放射器程度では氷を溶かすことは出来ない。だが、グラスホッパー号に乗ったカスミの姿を見た瞬間、ガロウは正気を失った。氷を溶かすためにグラスホッパー号が現れたと思ってしまっている。
グラスホッパー号が身を翻し、逃げるように動く。
『人形が、人形が、人形がァァ。逃がすかよォ、逃がすかよヲォォォ』
ガロウがグラスホッパー号を追いかける。
俺はその間にハッチから外に出る。少し肌寒いな。
「これか」
ドラゴンベインの履帯に入り込み、動きを邪魔している氷をナイフで砕く。
「これは少し大変過ぎるだろう。氷を溶かすような道具でも常備してなかったのか?」
『ふふん、氷漬けにされるのは想定してなかったんでしょ』
ある程度、氷を砕き、隙間が出来たところで車内に戻る。
無限軌道がゆっくりと回る。氷を砕き、隙間が生まれたことで動きが伝わり、回っていく。小さな力は徐々に大きくなり、氷を砕き、その中から抜け出す。
「シールドでなんとか出来なかったのか?」
『中に入り込まれてしまえばどうにも出来ない事は知っていると思ったのだけど? そんなことも忘れるなんて、これだからお馬鹿は……ん?』
セラフのいつもの言葉が途中で止まる。
「どうした?」
『ふふん。通信ね。繋ぐから』
通信?
[ガムさん、私の声が聞こえますかしら?]
……この声は。
「ルリリか」
[ええ、そうですわ]
ルリリは一週間ほどここに滞在すると言っていた。そうか、残っていたのか。
「それでこの通信の意味は?」
[そのクルマはガムさんのものでしょう? どういうことなのか教えて貰えるかしら?]
俺は肩を竦める。
こちらが教えて欲しいくらいだ。
「あの巨大な蛇が見えるだろうか? あれがこのマップヘッドの支配者、ガロウの変身した姿だ。何故か俺は嫌われているようでね、襲われているところさ」
[わかりましたわ。今回はガムさんをお手伝いしますわ]
どうやらルリリはこちらを手助けしてくれるようだ。
「助かる」
『あらあら、ふふん』
「何が言いたい?」
『良かったのかしら? エントリーが増えれば、その分、貰える賞金は減るでしょ?』
俺は大きくため息を吐き、肩を竦める。
「今は一人でも味方が居た方が良いだろう?」