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146 首輪付き33――「あんたはまだ教育が足りないようだな。随分と元気そうだ」

 目を開ける。


 薄暗い部屋。手にうっすらと湿り気を感じる。苔……それに泥か。


 体を覚醒させるように頭を振り、上体を起こす。


『セラフ、状況は?』

『サイアク』

 セラフの答えは簡潔だった。ああ、俺も最悪の気分だ。


 あのよく分からない女に喧嘩を売られ、勝負に勝ち、殺した。そして、腕輪を外したところまでは覚えている。


 だが、その後どうなった?


 何があった?


 それにここはどこだ?


 ……。


 周囲を見回す。


 苔むし薄汚れた壁に鉄格子――まるで牢屋だ。いや、まさしく牢屋なのか?


 立ち上がろうとして自分の手と足が……異常に重いことに気付く。


 見れば両腕と両足に、あの決闘の時に身につけたのと同じものがはめられていた。腕輪に足輪――見た目からは考えられないほどの重さだ。一つが二十キロくらいの重さはありそうだ。


 動くだけで手足が千切れそうな気分になる。


『牢屋のような場所に囚人の腕輪と足輪か』

 まるで囚人だ。

『ふん、のんきなものね』

『セラフ、お前は起きていたんだろう? どういう状況だ?』

 セラフは答えない。


 俺は大きく息を吐く。


 まずは状況の確認か。


 重い手足を引き摺るように鉄格子まで動く。そして、それを掴み確認する。


 通路? 鉄格子の向こうは通路だ。どこに通じているのかは分からない。


 鉄格子の材質は? 鉄格子を強く握り、動かしてみる。人狼化した爪で破壊、もしくは無理矢理広げることは……なんとか出来そうだろうか?


 だが、この状況――分からない。


 このまま動いた方が良いのか。それとも待った方が良いのか。


「おいおい、新人さん、あまり騒がない方がいいぜ」

 隣から男の声が聞こえる。

「誰だ?」

「あんたと同じお仲間さ」

 男の声はとても静かで落ち着いている。


「ここは?」

「マップヘッドって名前の地獄さ」

 男の言葉に肩を竦めようとし腕が重くて動かないことに舌打ちする。


「ここはどういう場所だ?」

「なんだ、新人さんは知らずにぶっ込まれたのか。ここは奴隷の更生施設さ」

「奴隷の?」

「おっと、色々と聞きたい気持ちは分かるが、少し小さい声で喋ってくれ。看守が来たら洒落にならないからさ」


「分かった。それで、ここは?」

 俺は出来るだけ声を潜める。

「奴隷らしくなるように教育する場所さ。ここを出る頃には立派で従順な奴隷が誕生しているらしいぜ」


 俺は小さくため息を吐く。

「あんたはまだ教育が足りないようだな。随分と元気そうだ」

「ああ、俺は頭が悪くてね。なかなか奴隷らしさが覚えられないのさ……って、看守か」

 男が口をつぐみ、それに合わせたかのようにこちらへと近づく足音が聞こえてきた。


 カツカツカツ、わざとらしく音を立て、こちらへと近づいてくる気配。音は一つ、二つ……二人か。


 そして現れたのは軍服を着た口髭の男だった。口髭の男が鉄格子越しに俺を睨む。

「奴隷六号、仕事の時間だ!」

「奴隷六号? 誰のことだ? 人違いじゃないのか?」

 俺は口笛を吹く。

「立場が分かっていないようだのう。今の重さは一つ、二十五キログラムだったかな? 倍にしてやろう」

 男が口元を歪め、口髭を撫でる。


 次の瞬間、両手両足の重さが一気に増える。肩が抜けそうな重さに立ち上がれなくなる。まるで地面に押しつけられているかのような重さだ。


「うんうん、奴隷はそうやって這いずっているのが似合っているのう」

 口髭の男が笑っている。

「それ……で?」

 俺も笑う。

「仕事の時間だ。連れて行くのだ」

 口髭の男の言葉にあわせて鉄格子が開く。そして顔の半分に仮面を着けた巨漢が現れ、俺を担ぎ上げる。


 口髭の男が先導するように通路を歩き、巨漢の仮面野郎に担ぎ上げられた俺に話しかけてくる。

「あまり逆らうようではのう、お前が挽肉になるほどの重さにすることを忘れるな」

「は、そりゃあ……大変だ」

 俺は片目を閉じ、笑いかける。

「その態度、いつまで続くかのう。楽しみだ」


 俺が運ばれたのは、部屋の中央に円柱がそそり立つよく分からない場所だった。


 部屋の中央にある円柱にはいくつものレバー? 取っ手のようなものが横へと伸びている。巨漢の仮面野郎がレバーの前で俺を降ろし、そのレバーの上に俺の両腕を乗せる。

「何を……させる、つもりだ?」

「大人しくそれを握るのだ」

「素直に従うとでも?」

 俺の言葉を聞いた口髭はニヤリと笑う。

「親切な我が輩が教えよう。手を離せば重力負荷が増える。逆に握っている間はなくなるのう。どうだ簡単だろう」


 俺は横に長く伸びたレバーを握ってみる。今までの体の重さが嘘のように消える。嘘は言っていないようだ。


「うむ。では仕事の時間だのう」

 口髭が後ろ手に手を振り、部屋から出て行く。巨漢の仮面野郎も無言でそれに着いていく。


 部屋には俺だけが取り残された。


 仕事?


 いや、これは逃げ出すチャンスか?


 逃げようとレバーから手を離した瞬間、先ほどと同じ――いや、それ以上の重さが体にかかる。


 潰れる。


 俺はすぐにレバーに手を戻す。


 何がさせたい? このレバーを握っているのが仕事か?


 と、俺がそう考えた時だった。


 俺の背後――その床が迫り上がる。


 壁?


 迫り上がった壁が異音を発し、そこから無数のドリルが飛び出す。そして、ゆっくりとドリル付きの壁が迫ってきた。


 は?


 このままだと俺はドリルに貫かれる。


 逃げる?


 いや、どうやって?


 逃げようにも体に負荷がかかって……。


 と、そこで俺が握っているものに気付く。


 レバー?


 俺はレバーを押す。重いが動く。


 ゆっくりとこちらに迫るドリル付きの壁。


 はは、そういうことか。


 俺はレバーを押す。


 円柱。


 レバーを押し、ぐるぐると回る。


 奴らが俺に何をさせたいか理解した。


 なるほど、回せ、と。


 で、これがなんなんだ?


 回すことで何か電力のようなものを生み出しているのか?


 壁に挟まれないように、ドリルに貫かれないように、俺はレバーを押し続ける。ぐるぐると廻る。


 何の意味がある。


 これが仕事?


 よく分からないことをさせるものだ。

明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あ、なんか奴隷がよく回してる目的不明の謎機構だ! [一言] ハムスターの回し車より意味がなさそうだけど手段こそが目的なのだった。ぐるぐる。 社畜(バター)になってしまう前に抜け出せるかな?…
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