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142 首輪付き29――「そうか、大変だな。ところでいつになったら料理が出てくるんだ?」

「搬入が終わったようですわ」

 もう搬入が終わったのか。どうやら荒くれたちが頑張ったようだ。

「それで、この後は宿に案内してくれる……だったか?」

「ええ。そこで食事も取れるようになっていますの。昼食を奢りますわ」

 昼食、か。いつの間にか、そんな時間になっていたようだ。


 俺はグラスホッパー号の運転席に座ったカスミを見る。

「カスミ、俺はルリリと食事に行ってくる。ここのオフィスの場所は知っているか? そこでグラスホッパー号の修理をお願いしてもいいだろうか?」

「お任せください」

 カスミが作り物の整った顔で微笑み、頷く。


「あら、カスミさんもご一緒でよろしかったのに」

「カスミは大勢で一緒に食事をするのが苦手でね」

 俺は肩を竦める。

「ふふ。それなら無理強いはしませんわ。どうぞ、宿の場所はこの近くですわ」

 ルリリはそう言うと荒くれたちに後を任せると指示を出し歩き始めた。俺はルリリの後を追う。


 収容所と呼ばれた建物から十分ほど歩いた場所にある交差点、その一角に小さなビルが建っていた。ここがルリリの言っている宿らしい。


『外から見た限りでは店子(テナント)でも入ってそうな普通のビルだな』

『ふふん。レイクタウンから回収班を呼んだけど、夜までかかりそうだから』

 セラフはセラフで色々とやっているようだ。

『ドラゴンベインが動かせるのは早くても夜ってことか』

『そうなるでしょ』

 俺は肩を竦め、ルリリの後を追ってビルの中に入る。


 そこは――宿というよりもレストランだった。ビルの一階をまるまるくり抜いて料理店にしているようだ。


 俺たちが中に入ると、すぐに車輪の付いた筒とそれに引き摺られるようにタキシードを着込んだ男がやって来た。男の首には俺のものと同じような首輪がくっついている。


 人だ。この町で初めての人だ。


「お、お、お客様、い、いらっしゃい、いらっしゃいませ」

 首輪をした男は挨拶をしながら、おどおどとした様子で周囲を見回している。

「ここを予約しているラッコ商団のルリリですわ。最初に食事をしたいので席に案内して貰えるかしら」

 ルリリが何処かからか金属のプレートを取りだし、車輪の付いた円筒形にかざす。


「ひっひっひ、確認したよ」

 車輪の付いた円筒形からCの形をした手が伸び、しゃべり始める。こんなものが喋るのか。もしかして、こちらの方がタキシードの男よりも偉いのだろうか?


「え、えっと、えっと、こちらへ、ど、ど、ど、どうぞ」

 タキシードの男がおどおどした態度のまま、車輪の付いた円筒形のご機嫌を伺うように媚びた笑みを浮かべ、俺たちを席に案内するため動く。

「ガムさん、こちらですわ」

「ああ」

 俺がルリリの後を歩こうとして――車輪の付いた円筒形に止められる。


「おいー、おいおいおい、おいー、奴隷の餓鬼が一緒になって、ここで飯を食うつもりか? 死にてぇのか? 痛い目に遭いたいのか? お前は向こうだ。向こうで特製の残飯を胃が空っぽになるほど食わせてやるよ」

 車輪の付いた円筒形がCの形をした手を入り口の方へと向けている。回れ右をして出て行けということだろう。


 俺はため息を一つ吐き、車輪の付いた円筒形を押しのけ、歩く。そのままルリリが待っていたテーブルに座る。

「ルリリ、お勧めを適当に頼む」

「分かりましたわ」

 すでに席に着き、メニューを見ていたルリリに料理を任せることにする。

「メニューのここからここまでをお願いしますわ。飲み物もここからここまでですわ」

 ルリリはメニューの内容が良く分かっていなかったのか適当に注文していた。お嬢さまのような外見をしているが、こういう場所に慣れていないのかもしれない。


「あ、あの、不味いですよ、あの、不味いです」

 タキシードの男は何やら怯えている。俺は首を傾げる。

「今、ルリリが選んだ料理はあまり美味しくないのか? 不味い料理をメニューに残しておくのは何か理由があるのか?」

「ち、違います。違いますって! 不味いですよ! 本当に不味いんです!」

 俺はもう一度首を傾げる。

「まさか……全部不味いってことか? よく料理店を続けられているな。他に競合している店がないからか?」

「違いますって! 不味いですよ! ああ!」

 タキシードの男は怯えを通り越して慌てている。


「ガムさん、料理が不味いのではなく、不味い事態になったと言いたいのだと思いますわ」

「分かってるよ」

 俺は肩を竦める。


「おい、こら。奴隷の餓鬼が椅子に座ってるんじゃねえ。汚れるだろうが。ふざけた真似をしくさりやがって、命がいらないようだな。痛い目に遭わないと分からないか、ああん?」

 先ほど押しのけた車輪付きの円筒形が何やら叫んでいる。そして、Cの形をした手を円筒形の天辺に突っ込み、そこから何かを引っ張り出していた。


 それはボタンのくっついたリモコンのようなものだった。いや、リモコンか。


 何をするつもりだ?


「奴隷の立場を思い知らせてやるよ」

 車輪付きの円筒形がCの指でリモコンのボタンを押す。


 すると――タキシードの男の体がビクンと跳ね、バチバチと電気を発した。

「あがががががががががっ!」

 首輪の男が着ているタキシードを黒焦げにしながら転げ回っている。

「あれ? おかしいな?」

 車輪付きの円筒形が、もう一度Cの指でリモコンのボタンを押す。

「あががぎぎぎぎひひひぃいぃいぃ」

 タキシードからボロ布になった服を着ている男がより一層激しく転げ回る。

「あれ? おかしいな?」

 車輪付きの円筒形が何度も何度もCの指でリモコンのボタンを押す。周囲に焦げた嫌な臭いが漂い始める。


「何がしたいんだ?」

「奴隷のお前に罰を与えようとしているんだが、故障したのか、こっちのクズにしか反応しないんだよ」

 俺は肩を竦める。

「そりゃあ、大変だな」

「ああ、困るよ。これが故障すると、躾が出来ない。するとどうなると思う? お前みたいに調子に乗った奴隷が出てくるかもしれないんだぜ」

「そうか、大変だな。ところでいつになったら料理が出てくるんだ?」

 困った料理店だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大したご歓迎! [一言] 世紀末なレストランですねえ。 てか個別じゃなくて一括設計なのか……量産型首輪とか?
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