表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/727

140 首輪付き27――「あの距離で外すのか」

 気絶しているド派手な服の男と商団主の男を縛り上げる。無駄に恰幅のよい商団主の男がこちらを睨んでいる。

 見ているのは……俺ではないようだ。


「こんなことをしてタダで済むと思っているのかね」

 恰幅のよい商団主は縛り上げられながらも余裕の表情だ。

「こんなことをしてタダで済むと思っているのかしら?」

 商団主が見ているのはルリリだ。ルリリが口元に手をあて笑いながら一歩前に出る。先ほどまで激しく戦っていたはずなのに着ている服に乱れはなく汚れ一つ無い。着替えでもしてきたのだろうか。


 恰幅のよい商団主がニヤリと笑う。

「そうか、ふむ。ジュニアも許して貰えないかね。これでも跡継ぎにしようと育成している途中だからね。無駄にはしたくないのだよ」

「あら? 自分は助かると思っているのかしら? 笑えるほどのお気楽さですわ」

 ルリリが微笑み、縛り上げられている商団主の方へ一歩だけ踏み出す。


「なんだと! お、お前のような半人前が!」

 恰幅のよい商団主が顔を歪ませ怒気を込め叫ぶ。

「半人前以下に言われたくないですわ」

 ルリリが口元の笑みを深めながら一歩前に踏み出す。護衛が差し出がましく動く場面ではないようだ。ルリリに任せよう。


「金か? 金かね! それなら、そこの重ヨロイを持っていけば……いい金になる」

 パンドラを搭載した巨大な人型ロボット――確かに売れば結構な金額になりそうだ。だが、ルリリは首を横に振り、一歩前に踏み出す。

「私の商団を盗人(バンディット)と同じにしたいのかしら?」

 恰幅のよい商団主が慌てて首を横に振る。

「ま、待て。それなら、これはどうだね? 私の商団の伝手を紹介しよう。ロデオ商団の顔の広さは知っているだろう? 人脈も経験も足りないお前の助けになるはず」

 ルリリは大きくため息を吐き、首を横に振る。

「不要ですわ」

 ルリリが一歩前に踏み出す。


「そ、そうだ。西部地域のルートを一部開放しよう。これならどうかね」

 ルリリは首を横に振り、一歩前に踏み出す。もう二人の目の前だ。

「体を改造してまで貴重な商品を輸送する手段には感心させられましたわ」

 ルリリが冷めた目でド派手な服の男を見る。

「そ、そうだろう? そうだ、ジュニアをお前にやろう。優れた発想と知識を持っている」

 ルリリは首を横に振り、いつの間にか握っていた回転式連発拳銃(リボルバー)を商団主の額に突きつける。


「こ、こ、こ、こんなことをしてタダで済むと思っているのかぁ! 私を殺すことがどれだけの損失になるのか分かっているのか! お前のような小娘では理解出来ないだろうが、私がいなければ西部地域は!」

 恰幅のよい商団主が身を乗り出し、唾をまき散らしながら叫んでいる。ルリリはただ首を横に振る。

 そして微笑む。

「私に銃口を向けたのですから、同じように向けられるとは思わなかったのかしら?」

 いつだって引き金を引くのは覚悟のない奴だ。自分がその立場にならないと思っているから――想像が出来ないから引き金を引ける。


 ルリリはどうだ?


 ルリリには覚悟がある。この縛られ、生殺与奪を握られ、状況を理解出来てない二人とは違う。


「さようならですわ」

「ふ、ふ、ふざけるなあぁぁ!」

 ルリリが回転式連発拳銃(リボルバー)の引き金を引く。


 火薬の弾ける音が響く。


 ……。

 ……。


「あら、外してしまいましたわ」

 恰幅のよい商団主の髪が削れ、弾丸の軌跡の禿げが出来ていた。親子二人が同じような髪型になっている。逆モヒカンだ。これなら砂漠でバンディットと仲良く暮らすことも出来るだろう。形から入ることも重要だ。


「あの距離で外すのか」

 見れば商団主は泡を吹いて気絶しているようだ。

「ええ。人殺しはよくないことですもの」

 ルリリが俺の方を見る。

「よく言う」

 俺は肩を竦める。

「この二人にはマップヘッドで奴隷として頑張って貰いますわ。皆さん、早く片付けなさい」

「りょ、了解です!」

「大至急やります!」

 ルリリの号令を受け、荒くれたちが慌てて動き出す。荒くれたちの雰囲気が少し変わったような気がする。


「ガムさん、マップヘッドはすぐそこですわ。これでお願い(・・・)に対する報酬が払えますわ」

「ああ、頼む」

 俺は後ろ手に手を振り、待っているグラスホッパー号の方へ歩いて行く。


「カスミ、グラスホッパー号の状況は?」

「専門ではないので分かる範囲になりますね」

「それで?」

「動いているのが奇跡ですね。機銃も曲がり、副砲の火炎放射器も動作不良を起こしています。控えめに言っても修理が必要です。あちらに乗り換えますか?」

 カスミが大きくため息を吐いている。戦車(ドラゴンベイン)はピンピンしているようだ。クルマとしての性能の差だろう。


 俺は首を横に振る。

「いや、マップヘッドはすぐそこらしい。そこで修理しよう」

「分かりました」

 カスミが頷く。


『セラフ、そういうことだ』

『ふふん。それなら、回収屋が来るまでこの戦利品(デカブツ)を私が見守っておくから』

『ああ、頼む』

 盗んだら泥棒だが、賞金首を倒して得た戦利品なら問題ないだろう。この原形をとどめないほどボロボロになった人型ロボットを再活用することは難しいだろうが、中のパンドラは活用することが出来るはずだ。グラスホッパー号に載せ換えれば大きく出力を上げることが出来るかもしれない。


 厳しい戦いだったが得られたものも大きい。


 賞金八万コイルはかなり大きい。


「レイクタウンのオフィスには連絡しておきます。パンドラ以外は売却でよろしいですね?」

「ああ、頼む」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 一区切り付いたぜ! [一言] これで冬の査定もばっちりだ。 グラスホッパー号もお疲れ様ー。 さて、マップヘッドはどうなってるのか……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ