014 プロローグ11
外だ。
外だ。
天井を見る。光を取り込むためなのか天井はガラスのように透き通っている。その天井の先に星々が煌めく夜空が見えていた。夜だ。
ここは植物園らしく色々な植物が植えられている。桜のような木々、何か良く分からない果実を実らせた植物、梨のようなものが実っている木々、そしてかつては植物を見るための通路だったであろう道――そこにまで伸びた雑草。ネームプレートのようなものはなくなっているので、これらが何の植物なのか、どういった用途で植えられていたのかは分からない。
地下には良く分からない巨大な砂時計のような機械があり、その上の階には自分が入っていた冷たい棺があり、その上の階には長い通路だけがあり、地上は植物園……何のための施設だったのかが分からない。これらが関連しているのは、何だろう?
地下にあった砂時計のような機械は、この施設を動かすための動力だったのだろうか。
地上部分のこの植物園には、まだいくつか外灯が残っており、今もバチバチと火花を飛ばしながらも明るく道を照らしている。これなら今のような夜の時間でも明りに困らないだろう。
雑草の生い茂った植物園を歩く。例のロボットはここまで追いかけて来られないようだ。サイズが大きすぎて扉をくぐり抜けられなかったのだろう。だが、もう一度、あの施設に戻る必要があった時は……その時はその時に考えよう。
植物園の中にはいくつか食べられそうな果実が実った植物が生えている。だが、それらに手を伸ばす気にはなれなかった。この施設が破棄されてからどれだけの日数が経っているかは分からないが、その間に食べられない植物に変質している可能性もあるし、元から毒性の植物だったという可能性もある。見た目からは区別がつかない。
ベストのポケットからスティックタイプのお菓子を取りだし囓る。食べ物にはまだ余裕がある。このお菓子の数が減ってヤバくなるまでは手を出すべきではないだろう。余裕があるうちに何処か人の住んでいる場所に辿り着けるかもしれない。そうだ、まずは何処か人の住んでいる場所を目指すべきだ。
と、考え事をしている自分の足元でしゅっと何かをこするような音が聞こえた。嫌な予感を憶え、すぐにその場を飛び退く。
自分が立っていた場所の足元に何かしなるものが蠢いていた。緑と茶色のまだらの生き物、それがうねうねと動いている。蛇か?
それが雑草の海を掻き分け、飛び退いたこちらへ伸びる。とっさに警棒をもち、それを叩き落とす。
何だ?
蛇じゃない。もっと硬い、何か……。
それが地面を――舗装されていた道を叩き割り、姿を現す。それは触手のように伸びた根だった。根っこが蠢いている。そ根っこの先を見る。その先にあるのは桜のような木々だ。まさか……?
地面を割り、いくつもの根が姿を現す。それらがこちらへと襲いかかってくる。警棒で叩き返し、後退る。
蠢く根っこによって掘り起こされた地面と根の間にはいくつかの人骨が挟まっていた。人骨? 人を襲う植物……だと?
ここは一体、何を実験していた施設なんだ!
迫る桜もどきの根っこから逃げる。
逃げた先から地面を割り根っこが現れる。
次々と触手のような根っこが現れ、こちらへと襲いかかってくる。それらを警棒で防ぎ、躱しながら逃げる。数が多い。
もしかしてこの植物園全域まで根を伸ばしているのか?
いくつもの根が地中から現れ、自身を絡ませるようにうねうねと蠢いている。その根の隙間には大量の人骨がある。その人骨の中には自動小銃らしきものを持っているものもあった。手に入れば大きな力になるだろうが、それは難しいだろう。蠢く根っこは力が強く、厄介だ。警棒ではなく、せめて刃物があれば……いや、火か。
火?
そこでポケットの中に入っているものを思い出す。
ハンドガンに使えない口径の弾薬……その中には火薬が詰まっているはずだ。これを……いや、駄目だ。薬莢からどうやって火薬を取り出す? 弾頭を手で外す? 無理だろう。雷管に衝撃を与える? それとも薬莢にそのまま衝撃を与えるか? ハンドガンに弾が残っていればまだしも、どうやって? 衝撃を与える手段が無い。良い考えかと思ったが、現実的じゃあない。
とにかく逃げよう。
地面を掘り進め、こちらを追いかける触手のような根っこから逃げる。と、その根っこの一つがポールのような外灯に絡みつく。それを引き倒す。
外灯?
外灯が折れ、火花を散らしている。それを嫌がったのか、根っこが離れるように動く。
火花? これだ!
雑草をいくつか引き抜き、折れた外灯へと走る。飛び散っている火花に雑草を近づける。燃えない。乾燥していないからか? それとも火花程度では燃えないのか?
どうする、どうする?
思い浮かぶ手段が無い。植物だから火には弱いはずだ。
しかし……。
そんなことを考えている自分をあざ笑うかのように離れた場所で爆発が起こった。
外灯の一つが爆発したようだ。そこから炎が生まれる。
蠢く根っこに炎が燃え移り、火が広がっていく。植物園が炎に包まれる。
は、ははは。
色々と考えていたのに、どれもが無駄で、出来なくて、結局、こんな落ちか。
……。
いや、考えている場合じゃない。逃げないと。
蠢く根っこは炎に包まれている。このまま燃え尽きるだろう。だが、炎の勢いは植物園を飲み込んでいる。このままでは自分自身も炎に飲まれてしまう。
走る。
走る。
植物園のドームを抜ける。
そこは湖だった。何とか向こう岸が見える。だが、泳いで渡るのは難しい距離だ。
とにかく他の場所に……。




