137 首輪付き24――「ボーナスだな」
「ところで」
「なんでしょうか?」
カスミが言葉を返しながら銃弾の飛び交う中へとグラスホッパー号を突っ込ませる。
「このまま殲滅しても問題なかったのか?」
「問題ありますね。商団は砂漠の流通を担っています。それに攻撃を加えるということは砂漠に生活している人々の生命維持にダメージを与えます」
グラスホッパー号に搭載した機銃が自動的に動き、銃弾の雨を黒スーツたちにプレゼントする。プレゼントのお返しは真っ赤な花のようだ。
「なので、このことがバレないように一人残らず殲滅ですね」
俺は大きく目を見開き、カスミを見る。
「いい性格をしている」
カスミがその顔にオフィスの窓口の女たちが良くやっている作り物の笑顔を浮かべる。
「冗談です。今回は商団同士の揉め事になります。私たちが罪に問われることはないですね。つまり、勝った方が正義です」
カスミの言葉に思わず笑ってしまう。
「いい性格をしているよ」
機銃の掃射が黒スーツたちを撃ち貫いていく。
銃で撃たれれば人は死ぬ。
「クルマだ! クルマ持ちがいるぞ!」
黒スーツの男たちが叫び、銃を乱射する。その攻撃をグラスホッパー号のシールドが防ぐ。あまり良い装備を支給されていないようだ。
「ま、任せろ」
黒スーツの男の一人がグラスホッパー号の前に立ち塞がる。男は拳を握り、両腕を上に、肘を曲げ、力こぶを作る。筋肉が盛り上がり、男の黒いスーツがはじけ飛ぶ。
筋肉だ。
男は機銃の乱射を筋肉で弾き返し、そのままこちらへ駆けてくる。筋肉の盛り上がった両腕でグラスホッパー号を掴む。
グラスホッパー号の動きが止められる。
タイヤが空回りしている。
弾けんばかりの筋肉を持った男がニヤリと笑う。
次の瞬間、男は炎に包まれていた。
火で焼かれれば人は死ぬ。
機銃が撃ち出す銃弾は跳ね返せても火炎放射器の炎は防げなかったようだ。
グラスホッパー号が銃弾と炎をまき散らす。
「ま、任せろ」
黒スーツの男の一人がグラスホッパー号の前に立ち塞がる。男はお腹を大きく膨らませ息を吐き出す。その暴風によって銃弾が止められ、炎も押し返される。
お腹を膨らませて息を吐き続けている男がニヤリと笑う。
次の瞬間、俺はグラスホッパー号から飛び降り、男に蹴りを当てていた。
俺に蹴られれば人は死ぬ。
随分と芸が達者な奴が揃っているようだ。ロデオ商団はお笑い芸でもお金を稼いでいるのかもしれない。
そのまま砂の上を走り、投げ捨てた狙撃銃をグラスホッパー号の方へと蹴り上げる。
周囲の状況を確認する。
ルリリと荒くれたちは銃を持ち黒スーツたちと応戦している。どうやら、こちらが優勢なようだ。被害も殆ど出ていない。これなら殲滅も時間の問題だろう。
「どういうことですか、これわあぁぁぁ!」
そんな騒動の中、ロデオ商団の商団主はこめかみをヒクヒクと動かし叫んでいた。おっさんは黒スーツたちに守られ、さらに簡易的なシールドを使って銃弾などから身を待っているようだ。
これはなんなんだろうな?
「お前が望んだことだろう?」
俺の言葉を聞いたおっさんはこめかみをヒクヒクと動かしながらも無理矢理気持ちの悪い笑顔を作り、手を揉みあわせる。
「あなたは流れのクロウズのようだ。どうですかな、そちらの商団、その報酬の倍を出しましょう。私どもに味方した方がお得ですよ」
俺は笑い、骨が剥き出しになった腕を無理矢理叩きつけて真っ直ぐにする。
「ルリリからの報酬は、クルマの主砲の斡旋、それとマップヘッドへのパスポートだな」
おっさんがニヤリと笑う。
「それならこちらについた方がお得ですなぁ。そちらの商団と違い私どもは武器を主として扱っています。そちらよりもより良いものを用意が出来ますよ」
俺はボロボロになった腕を無理矢理動かし、肩を竦める。クルマのシールドを突破出来ない武器を配給する程度が面白いことを言う。
「ルリリから俺への依頼、その内容を知っているか?」
「護衛でしょうが。だから、私どもについた方が……」
俺は笑う。
笑いながら走る。
「ルリリを裏切らないことだ」
立ち並ぶ黒スーツたちの間を走り抜け、おっさんを守っている黒スーツの、その隙間から拳を通し、殴る。
よし。右腕は動く。腕の内部で骨が割れているかもしれないが動かすだけなら問題ない。
「な、な、な、なんですとー!」
殴られたおっさんが叫んでいる。銃弾などから身を守る簡易的な盾を使っていたようだが、その内側に入ってしまえば問題ない。攻撃は通る。
おっさんを守っていた黒スーツがこちらへと掴みかかってくる。その足を払い、転倒させ、顔に足を落とす。その隙を突かれ、もう一人の黒スーツに背後から首筋を掴まれる。俺は腰を曲げ、首を掴んだ黒スーツを背中に乗せるようにして投げる。頭から滑り落ちてきた黒スーツを蹴り飛ばす。
「はひ、はひ、はひ」
おっさんが情けなく這いつくばって逃げている。後はルリリが処理してくれるだろう。
!?
そこで気付く。
『無い、無いぞ』
『ふふん、優先順位を間違えたのかしら』
俺は周囲を見回す。黒スーツが転がっている。だが、そこに鉄仮面の男の姿が無い。
消えている。
『逃げた?』
『ふふん、まさかでしょ』
と、その時、ロデオ商団のトラックの一つが動き出す。運転席に座っているのはド派手な服を着た馬鹿――ロデオジュニアだった。奴はこちらを見て笑っている。
「乗ってください」
俺のもとに走ってきたグラスホッパー号に飛び乗る。
ド派手な男が動かしたトラックはその場にとどまっている。こちらに突っ込んでくることも、逃げ出すこともなく、ただ、エンジン音だけを響かせている。
そして、そのトラックの上部が開いた。中から巨大な鉄の手が現れる。
トラックの中から現れたのは巨大な人型のロボットだった。その中央胸部に鉄仮面の顔がくっついている。
「皆殺し、皆殺し、皆殺しだ。みぃなぁ殺しにだあぁぁぁ!」
巨大ロボットから鉄仮面の男の叫び声が聞こえる。
「言葉遣いが悪くなっているな。どうした、余裕がなくなったか?」
「そこか! 餓鬼が! 殺してやる!」
機械の体は便利なようだ。離れた場所にいる俺の声もしっかりと拾ってくれるらしい。
「あ!」
グラスホッパー号を運転しているカスミがのんきな驚きの声を上げた。
「どうした?」
「あ、いえ。オフィスに確認したところ、あれは賞金首に認定されているようです。アクシードと名乗っているならず者たちの一人で名前はドラゴンフライ、賞金額は八万コイルです。まずまずですね」
俺は思わず口笛を吹く。
「ボーナスだな」
ボーナスが支給されました。