013 プロローグ10
ロッカールームを抜けた先は、先ほどと同じような白壁の通路だった。ただ、先ほどと違うのは通路の端に良く分からない機械の山が積み上がっていることだろうか。
『前方、距離5、サーチアイです』
端末から声が聞こえる。またサーチアイとやらのご登場のようだ。警棒を腰に差し、ハンドガンを持つ。
と、そこで考える。サーチアイとやらは天井から現れた。警棒では届かない。だが、ハンドガンの弾には限りがある。無視するのも一つの手ではないだろうか。
どうする?
試してみるか。
ハンドガンを持ったまま走り抜ける。
天井の一部が四角くくり抜かれそこからガラスの目玉がくっついた円筒形がひょっこりと現れる。同じだ。
その下を駆け抜ける。
……何も起こらない。
円筒形がくるりと向きを変え、こちらを見る。見ている。それだけだ。
こちらの走りを邪魔するように積み上がった機械を避け、駆ける。
何も起こらない。起こらなかった。
だから、そのまま通路を走る。
邪魔な機械が積み上がった通路を走っていく。
『前方、距離5、ガードアイ2、アタックアイ2です』
端末から聞こえる声……アタックアイ?
新手のようだ。
こちらの進路を塞ぐように床に二つの穴が、天井にも二つの穴が開き、そこから円筒形が現れる。
くるりと向き直った円筒形にはガラス玉のような目玉がくっついている。そして新しく天井から現れた円筒形には細長い銃身がくっついていた。それがこちらを狙っている。
とっさに積み上がった機械の陰に隠れる。そこを狙うように天井の円筒形から銃撃が行われる。パツン、パツンと小さな音を立て壁にしている機械が削れている。殺傷能力はあまり高くなさそうだが、かなり鬱陶しい。
機械の陰から少しだけ体を出し、ハンドガンで天井の円筒形を狙い撃つ。その銃弾が空中で炸裂する。見えない壁? 天井のアタックアイとやらも持っているのか?
そのアタックアイからこちらを狙う銃撃が行われる。すぐに山積みの機械の陰に隠れる。もしかして地上のガードアイが天井のアタックアイも守っているのか?
だとすると最初にガードアイを壊さなければ……。
それには近寄って警棒でたたき壊す必要がある。しかし、それには天井からの銃撃が邪魔だ。弾切れまで待つか?
『距離5、絶対安全神話ガードナーくんです』
ん?
山積みの機械の陰に隠れ、ここを突破する作戦を考えているところで端末からそんな声が聞こえた。
絶対安全神話? さっきの円形のトンネルを守っていたロボットとは違うのか? いや、それよりも何故、警告が……?
次の瞬間だった。
自分が隠れていた場所近くの壁が勢いよく破裂する。とっさに飛んできた破片から手を交差して身を守る。そして、その壁の向こうからキュルキュルと無限軌道を唸らせ、ロボットが現れる。
円形のトンネルを守っていたロボットとよく似た姿。だが、その右手は掘削用のドリル用としか思えない厳つい存在が尖り唸りを上げ、左手には機銃がくっついている。そんなロボットが俺の前に立っている。
ロボットがこちらを見る。
とっさにハンドガンを撃つ。撃つ。撃つ。だが、その攻撃はロボットの表面を少し凹ませただけでしかなかった。
ロボットの左腕に搭載された機銃が回転する。
ヤバいッ!
とっさに山積みの機械の陰から飛び退く。そこを追いかけるように機銃が唸りを上げ銃弾の雨が降り注ぐ。
そして、機械の陰から出たこちらを狙うように天井のアタックアイからも銃撃が行われる。
プロテクターに覆われた腕で顔と急所を守る。そして、そのまま駆ける。ロボットから逃げるように、地面からひょっこりと顔を見せているガードアイたちの方へ走り出す。
天井からの銃撃が当たる。体に、腕に――顔を掠める。それでも構わず走る。
ガードアイを抜ける。すぐに振り返り、端末を持った左腕で顔を守ったまま右手に持ったハンドガンの引き金を連続で引く。背後には透明な壁を作れなかったのか銃弾が天井のアタックアイたちを穿つ。ショートして動かなくなるアタックアイ、それを確認してすぐに走る。
プロテクターがなかったら危なかった。装備があって良かった。
ロボットが無限軌道をキュルキュルと回転させ動き出す。障害物のように置かれていた機械たちをドリルで崩し、こちらへと迫る。
走って逃げる。逃げながらハンドガンで牽制する。何処か脆い部分がないか探すように撃ち続ける。
その途中で弾が切れる。すぐに端末をベストのポケットに入れ、そこから弾薬を取り出す。走りながらハンドガンのマガジンを外し、ハンドガン自体は口に咥え、マガジンに弾薬を装填していく。
ロボットはドリルで積み上がった邪魔な機械を破壊し、デタラメに機銃を掃射しながらこちらへ迫る。
ふざけたロボットだ。
走る。
無駄だと思いつつもハンドガンで牽制しながら走る。山積みの機械がなければ、すぐに追いつかれていただろう。だが、それが邪魔してこちらも距離が取れない。
下の階のヤツとは別種類のようだが、どうして突然現れた?
走る。
と、そこで道が二つに分かれる。直線と右。どちらが正しいのか分からない。こういう時に限って端末は何も言わない。
直感に従い右に曲がる。
走る。
そして、少し広めの部屋に突き当たる。その部屋の中央には上に伸びる螺旋階段があった。しめた! あのキャタピラの足では階段を上がれないはずだ。
螺旋階段を駆け上がる。だが、手すりしかない螺旋階段だ。下から機銃で撃たれれば不味い。急いで駆け上がる。
そして、部屋にロボットが現れる。ロボットはこちらを探し部屋の中を動いている。
ロボットの動きに注意しながら螺旋階段を駆け上がる。と、そのロボットが動きを止める。ゆっくりとこちらを見上げる。
気付かれた!
だがッ!
もう充分過ぎるほど距離が離れている。下から機銃を掃射されたとしても大丈夫だろう。
そう考えた俺をあざ笑うかのようにロボットが動く。ロボットが炎を噴射して飛び上がった。ふざけんな。なんでそんな冗談みたいな装備を持っている!
螺旋階段を駆け上がる。
そして扉に辿り着く。当たり前のように鍵がかかっている。開かない。焦る。炎を噴射したロボットがこちらへと迫っている。ドアノブを握り回す、扉を叩く、だが、開かない。
扉から離れる。手に持ったハンドガンでドアノブを撃つ。一発、二発、そこで弾が切れる。
扉を蹴る。何度も蹴る。そして扉から離れ、一気に体当たりをぶち当てる。扉が外れる。その勢いのまま外に転がり出る。転がりながら体勢を整え、周囲を見回す。
そこは地上だった。
天井のガラスドームの向こうには暗闇に浮かぶ星々が煌めいている。そこは無数の植物に包まれた植物園だった。