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129 首輪付き16――「弾薬だ、と」

 待ち合わせ場所にはすでにルリリの姿があった。

「待たせただろうか?」

 俺はクルマ(・・・)から降り、トラックを前に荒くれたちへと忙しそうに指示を飛ばすルリリに話しかける。

「出発までまだ時間がありますもの、問題ありませんわ」

 ルリリは俺の言葉に返事をしながらも荒くれたちへの指示を続けている。随分と忙しそうだ。


「あれで良かったのか?」

 手持ち無沙汰なこともあり、俺はルリリへと話しかけ続ける。

「問題ありませんわ」

「全てルリリの手のひらの上、か」

 指示を出していたルリリの手が一瞬だけ止まる。

「そうでもありませんわ。予想していた通りに物事が動かない方が嬉しいこともありますもの」

「そういう物か」

「ええ、そういうものですわ」

 俺は肩を竦める。


「それで随分と忙しそうだが、何かあったのか?」

「予想外の出来事で人が減ったからですわ」

 予想外?

「予想していたんだろう?」

「分が悪い賭けをしてみたくなることもありますわ」

「なるほどね」

 俺はもう一度肩を竦める。


「ガムさん」

 忙しそうにしているルリリが俺に話しかけてくる。

「なんだ」

 ルリリが俺の乗ってきたクルマの方へ一瞬だけ顔を向ける。

「そのクルマでよろしかったのかしら?」

「ああ。マップヘッドの用事にはこちらの方が向いているからな。もう一台は別行動さ」

 俺はグラスホッパー号のボディをこんこんと叩く。そう、今回、俺が乗ってきたのは戦車ではなくグラスホッパー号だ。

「ガムさんのお仲間はそちらの女性だけだと思っていましたのに……クルマを二台も持っていることもそうですわ、本当に新人(ルーキー)とは思えない底の見えなさですわ」

「そりゃどうも。そういうルリリもクルマ持ちのようだが、商団がクルマを持っているのは普通なのか?」

「これでもそれなりに名前の知られた商団ですもの」

 だからクルマを持っている、か。

「そうか」

「ええ。普通の商団は護衛を雇って、戦闘はそちらに任せているはずですわ」

 自分たちが武力を持つのではなく、護衛に任せるのが普通なのか。商人だからな。戦うことではなく、商売することが本業だ。武器のメンテナンスなどの維持費を考えれば、護衛を雇った方が安上がりなのだろう。あまり良い武器を持ちすぎても商団の仲間に裏切られた時に洒落にならないだろうしな。


『ふふん』

 またも俺の頭の中にこちらを馬鹿にしたようなセラフの笑い声が響く。

『何か言いたそうだな』

『お前は考えすぎ。この小娘は自分の商団を自慢したいだけでしょ』

 ……そうなのか? いや、俺の考えが正しい可能性だってある。


 と、そこで気付く。


 ゲンじいさんのところで整備していたトリコロールカラーのお洒落な小さい戦車がルリリのクルマで間違いないはずだ。だが、ここにその姿がない。クルマの代わりとばかりにトラックが一台増えている。


「ん? ルリリのクルマの姿が見えないな」

「訳あって隠していますの」

 隠している? 怪しいのは増えたトラックだが、わざわざ確認する必要はないだろう。


「そうか。忙しい中、色々と話しかけて悪かった」

「構いませんわ」

 俺は後ろ手に手を振り、グラスホッパー号に飛び乗る。そのまま助手席に深くもたれかかる。運転席のカスミが少し呆れたような顔で俺を見ていた。


「何か言いたそうに見える」

「いえ、私からは何も」

 俺は大きく息を吐き出す。カスミは俺がルリリの仕事の邪魔をしてまで話しかけ続けた真意を聞きたいのかもしれない。

「少し気を張り詰めすぎているように思えたからだよ。俺はお節介だったか?」

「そうですか。いえ、意味があったのなら」

 俺は小さくため息を吐く。


 やれやれだ。


 三台のトラックが動き出す。カスミもグラスホッパー号を動かし、トラックと併走する。


 マップヘッドを目指し出発だ。


「マップヘッドまではどれくらいだろう?」

 俺は隣のカスミに確認する。

「私が予想していた通り、安全な東回りルートのようですね。このペースなら三日ほどでしょうか」

 三日、か。

「用意した食料は?」

「何のことでしょうか?」

 カスミが本当に分からないという顔で首を傾げている。

「いや、何日分の食料と水を用意したのかと思って……」

 俺はグラスホッパー号の荷台を見る。そこには備え付けられた機銃の邪魔にならないようにいくつか箱が重ねて置かれている。


 俺は助手席から荷台へと飛び移り、箱の中身を確認する。

「弾薬だ、と」

「はい。こちらの機銃でも扱えるもの、ガムさんの狙撃銃に扱えるものを入手しておきました。こちらの機銃は特殊弾薬が扱えるタイプではないようでしたので、弾薬費は少し割高になりました」

『ふふん。機銃用のオールタイプイージーAPBC弾を揃えたわ。その玩具みたいな機銃でもそれなりになるでしょ』

「これは通称、皮付きと呼ばれる機銃用の弾です。これなら機銃で戦うのが厳しいシールド装甲のマシーン相手でも通用します」

 カスミもセラフも得意気に説明してくれる。


 俺は思わず大きなため息が出る。


 カスミは人造人間だ。セラフは人工知能だ。水も食料も必要としないのだろう。

「カスミ、人は生きていく上で水と食料が必要だって知っていたか」

「しかし、ガムさんも必要な……あ、偽装ですか」

「カスミ、お前が俺をなんだと思っているか分からないが、水と食料は必要だ」

 参ったな。


 後でルリリに頼んで売って貰うか。食料と水を運んでいる商団だ。護衛をしている人間の頼みだ。少し割高になるかもしれないが売ってくれるだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの落とし穴! [一言] そらまあ確かに通常の人間ではないけども。 しかもガム君、そこからさらにイレギュラーだし。 でもやっぱりご飯は重要ですよねー。 セラフとカスミは今のとこ上手く…
[一言] あ、本当に必要ないんだろうな…
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