125 首輪付き12――「外との交流を絶っているのは……」
ガロウ?
誰だ?
カスミはこれで分かりましたよね、という表情をしている。
カスミの知り合いなのだろう。だが名前だけでは良く分からないな。
『誰だ?』
『ふふん』
セラフは意味深長に笑っている。こいつは本当に良い性格をしている。
俺はため息を吐き、思い切ってカスミに聞いてみることにした。
「誰だ?」
「グラスホッパー号の元々の持ち主だったガレットさんの義妹がガロウです」
……。
なるほど。俺の恩人か。意識が朦朧としていて殆ど覚えていない時の話だが、それでも俺を助けてくれた恩人なのは間違いない。
恩、か。
「分かった。マップヘッドに行こう」
「ありがとうございます」
カスミが頭を下げる。だから、聞いてみる。
「俺はグラスホッパー号を返すべきだろうか?」
カスミが頭を上げ、そのまま横に振る。
「いいえ。そのクルマはもうガムさんのものです」
「そうか。分かった」
とりあえず、これで次の目的は決まった。マップヘッドの街を目指し、そこでガロウと名乗っている女に会うことだ。
『ふふん』
俺の頭の中にセラフの笑い声が響く。
『何か言いたそうだな』
『ふふ。オフィスで話を聞いてみたら?』
俺はため息を吐く。
『回りくどいことを。新しい街に向かうことはお前の目的でもあるだろう? 何がしたい?』
『ふん。その方が分かり易いと思っただけだから』
セラフのこちらを焦らすような言葉に俺はもう一度ため息を吐きそうになる。
「どうしました?」
セラフとのやり取りが聞こえないカスミは俺のため息を勘違いしたようだ。
「いや、なんでもない……こともないか。セラフからの通信が入り、それに呆れていただけだ」
「そうですか」
カスミは踏み込んで聞いてこない。カスミの本当の主は俺ではなくセラフだ。その主に関することなので出しゃばらないよう控えたのかもしれない。セラフとは違い気遣いが出来るようだ。
「明日でもオフィスに行って情報を仕入れよう。その街に向かうためにはクルマが必要だ。カスミはすぐに向かいたいかもしれないがゲンジイの整備が終わるまで待つ必要があるだろう?」
「ええ。そうですね。分かりました」
先約があるということで、ゲンじいさんはそちらにかかりっきりになっている。俺がこのレイクタウンに戻ってきた時にゲンじいさんが整備していた見覚えのないクルマ――白を基調として赤、黄色、青でカラフルに塗装された一人乗りの小さな戦車、それのことだろう。俺のクルマの整備、主砲の換装などはその後だ。
そして、翌日。
俺とカスミはオフィスに向かった。
「マップヘッドに関する情報を貰いたい」
「その情報には情報料が必要になります……あ、いえ、はい、ガムさんへの情報はマスターより許可が下りました」
窓口に座っているオフィス職員の女は耳に手を当て、何度も頷いている。セラフがマスター経由で手を回したのだろう。
「それでどうなっている?」
「はい。マップヘッドはここより南、砂漠の三叉路にあり、交易の中心となっています。向かうなら湖を東回りに南下するのが早いでしょう。堅牢な防壁に囲まれ、マシーンやビースト、バンディットなどの襲撃から守られているのが特徴ですね。東と西――その交易の中心となるだけのことはあるようです。広さと人口は……」
どうでも良いことを長々と話し出そうとしていたオフィス職員に待ったをかける。
「俺が聞きたいのはガロウという女とマップヘッドの現状だ」
オフィス職員が頷き、手元にあるキーボードらしきものをポンポンと叩く。
「分かりました。マップヘッドを新たに支配しているガロウという人物に関しては女性……ということくらいしか、現状、オフィスに情報は入ってきていません。後は、マップヘッドの現在の状況に関してですね」
「ああ、頼む」
「現在、マップヘッドは門を閉ざし、外との交流を絶っている状態です。中に入れるのは特定の商団か奴隷くらいでしょう」
俺は首を傾げる。
ガロウという人物に関しての情報がないのは仕方ないだろう。そのマップヘッドとやらの支配を代替わりしたのは最近だろうから、情報が入ってくるとしてもこれからになるだろうからな。
……外との交流を絶っている?
いつから?
何故?
「外との交流を絶っているのは……」
「はい。そのガロウという人物がトップに立ってからです」
なんだ?
どういうことだ?
「それで奴隷というのは?」
「ガムさん、言葉通りです。奴隷になればマップヘッドの街に入ることは出来ます。ですが、私はお勧めしません」
当たり前だ。奴隷になることをお勧めするような奴はただの頭のおかしい奴だ。
「奴隷なんてものがあったのか」
「はい。首に、逆らえば爆発するネックスレスを着け、従わせる……そうそう、今のガムさんがしているネックレスと同じですね」
窓口に座っているオフィス職員の女は首に指を当て、ニコニコと良い顔で笑っている。
「言っておくが俺は奴隷でも、逃亡奴隷でもない」
「はい、分かっています。お洒落でそれを身につけた頭のおかしい人だということは、ここの職員全員が把握しています」
把握しているのか。
……そりゃあ、良い顔で笑う訳だ。
「カスミ」
俺は背後に控えていたカスミに呼びかける。
「はい。マップヘッドに潜入する方法を考えなくっちゃ、ですね」
俺は肩を竦める。
『嫌な予感が当たりそうだ』
『ふふん。当たるでしょうね』
それがセラフの、俺をオフィスへ向かわせた理由なのだろう。
俺はため息を吐く。
「マップヘッドとやり取りしている商団を紹介して欲しい」
サクナヒメを遊んでいます。てっきりワガママな姫様が改心する話だと思っていたら、盗人に冤罪をかけられ都から追放されるトカ。しかも追放された島で、その盗人連中を守るために戦い、食料を手に入れても文句を言われるトカ。姫様の独り言が辛すぎる。