124 首輪付き11――「どんな勘違いだ」
「私はルリリですわ」
少女が名乗る。俺が名乗ったからといって名前を教える必要はないだろうに律儀なものだ。
「そうか」
「私もまだまだですわ」
俺の少し素っ気ない反応がお気に召さなかったのか、ルリリは小さく呟き片眉を上げていた。
偶然行き先が同じになった少女と並んで歩く。
「ところで、襲ってきた奴らはあのままで良いのか?」
「構いませんわ。きっとこの町のゴミ拾いが綺麗にしてくれますわ」
俺はため息を吐き、肩を竦める。
『俺が聞きたかったのはそういうことではなかったんだがな』
『ふふん。お前が馬鹿みたいに回りくどい言い方をするからでしょ』
襲ってきた相手の手かがりを探る必要がない程度には心当たりがあるということだろう。
しばらく歩き、目的の店が見えてくる。形が残っていた旧時代の建物を改装したのか、思ったよりも大きな店だ。左手にクルマを駐めるためと思われる広場と建物、右手には緩やかな坂があり、先ほどの建物へと繋がっていた。
左手の建物の上部にはHOセンターという文字が残っており、入り口代わりの大きなシャッターが取り付けられている。
『センター?』
もしかすると、この広場に隣接した部分は荷物搬入用の入り口なのかもしれない。
改めて広場を見る。大型のトラックが何台も駐まっている。ところどころアスファルトが剥がれ砂に侵食されているが、クルマを駐めるのには困らない程度に手入れがされていた。駐車場で間違いないだろう。
『これならクルマで来ても良かったかもしれないな』
『ふふん。動かせるクルマがあればでしょ』
俺はルリリとともに右手に作られた緩やかな坂を上がっていく。どうやらこちらが正面入り口のようだ。
「ここが武器と防具のお店ですわ」
「銃火器と服を売っている店か。ようやくまともな格好に戻れそうだ」
「あら? その服装は趣味だと思っていましたわ」
ルリリは心底驚いたという態度で口に手を当てている。
「ちょっとした戦闘で服が駄目になった。裸よりはマシだろうと、この格好をしているだけだ」
「そうだったのですね。そのような服装をされているから、てっきりあれの仲間かと勘違いしてしまいましたわ」
「どんな勘違いだ」
俺は肩を竦める。クロウズのタグを見せただけではまだ信じてくれていなかったようだ。
「ルリリ様、私もガム様にそのような趣味がないことを保証します」
俺の背後に控えていたカスミが保証してくれるようだ。
「あら? あなた、何処かで」
「はい、ウォーミの町でオフィス職員をやっていたカスミと申します。ザンダ様はお元気ですか?」
どうやらカスミとルリリは顔見知りのようだ。それだけオフィス職員は顔が広いということだろうか。
「今は私が後を継ぎましたわ。それが全てですの」
カスミが頷き、俺の後ろへと下がる。俺に任せるということだろうか。
「そうか、それで……」
「今はこちらのガム様に仕えています。そ……」
俺の言葉とカスミの言葉がかぶる。どうも俺に仕えているとアピールをするために下がったようだ。それならそれで教えて欲しかった。少し恥ずかしい。
『ふふん』
セラフの俺を馬鹿にした笑い声が頭の中に響く。
『分かっていたなら教えてくれ。カスミとお前は通話が出来るのだろう? 同じように繋ぐことは出来ないのか?』
セラフと同じように頭の中で会話が出来れば、こんな失敗をすることはなかっただろう。
『ふふん』
セラフは馬鹿にしたように笑うだけで答えない。これでは出来ないのかやりたくないのか分からない。
「……そういうことだったのですね」
俺がセラフと脳内会話を繰り広げている間もカスミとルリリは会話を続けていたようだ。
俺は肩を竦める。
「俺は服を見てくる。好きに会話していてくれ」
俺は手を振って、店の中に入る。初めての店だが、まぁ、適当にぶらつけば、適当な服は適当に見つかるだろう。
その後、適当に見繕った安物の服を買い(丈夫で破れにくい、人狼化しても大丈夫な服は見つからなかった)銃火器を選ぶ。
銃火器が並べられている場所では、これ見よがしに厳つい男たちがこちらを見張っていた。並んでいる銃を手に取って確かめてみるのも命がけになりそうな雰囲気だ。人の命が軽いこの時代では、迂闊な行動を取っただけで疑われ殺されかねない。
俺はため息を吐く。
『銃の素人の俺では見ただけではどれが良いか分からないな。玄人のセラフのお眼鏡にかなうものはあったか?』
『全てゴミね』
俺は肩を竦める。
セラフが高望みしているだけで、ここに並んでいる武器も、普通には使えるのだろう。
だが、それでは意味が無い。
クルマがメインとなるなら俺自身がわざわざ銃火器を持つ必要はない。
クルマから降りて戦う時は? それこそ徒手空拳ではどうにもならないシールド持ちなどを相手にする時くらいしか銃火器は要らないだろう。となれば、セラフが言うように中途半端な武器はゴミでしかない。
仕方ない。
一度、ゲンじいさんのところに帰るか。
俺はカスミを置いてゲンじいさんのところに戻る。
久しぶりに会ったゲンじいさんの孫娘の手作りご飯を食べ、くつろいでいるとカスミが帰ってきた。その顔は人造人間らしくない何処か沈んだものだった。
あのお嬢さまとの井戸端会議で何かあったのだろうか。
「ガムさん、私と一緒にマップヘッドの街に行って貰えないでしょうか?」
マップヘッド? 新しい街の名前だ。
「理由は?」
「会いたい人が居ます」
人造人間のカスミが会いたい人? どういうことだ?
「その街の支配者が代替わりをしました。新しい支配者は……ガロウという名前の女性です」
2021年12月19日修正
私が後を継ぎ回したわ → 私が後を継ぎましたわ




