123 首輪付き10――「何処をどう見ても仲間じゃないだろう」
ウォーミのオフィスを支配下においたセラフ、そのオフィスで働いていたカスミとともにレイクタウンに戻ってきた俺は、ゲンじいさんの勧めで服と武器を買いに行くことになった。
「ゲンジイ、それなりのお金が手に入ったので受け取って欲しい。それと、この戦車に合う武器を揃えて貰えないだろうか?」
「まったく。そんなに焦って返そうとしなくても良いのだがね」
俺はゲンじいさんの前に単六乾電池を置く。
「今回は随分と稼いできたようだがね、それならまずは自分の服と武器のために使いなさい。それにそのクルマには武器を手配する必要がないほど立派な主砲がついていると思うのだがね」
俺は肩を竦める。
「そうなんだが、これは報酬として渡さないと駄目なんだ。ここに帰ってくるまで武器無しでは困るから借りていただけなんだよ」
あの遺跡で俺はクルマを望み、あの馬鹿は武器を望んだ。自己満足かもしれないが、筋は通すべきだろう。
「それなら仕方ないね。借金返済分はこれの一割、一万コイルとしておこうかね。残りの四万コイルで、そちらのクルマの整備と主砲の手配をしよう。残りは返しておくよ。だがね、言ったことは忘れないように。そんな格好ではイリスに合わせることも出来ないからね」
俺は頬を掻き、肩を竦める。さすがにオフィスの職員の服を改造して無理矢理着込んでいる今の俺の格好は、孫娘の教育に悪いと思われたようだ。
仕方ない。
ゲンじいさんから返して貰った五万コイルでそれなりの服と武器を買うことにしよう。出来れば人狼化しても破れない服が欲しいところだ。
『ふふん。素直に従うとか』
『年長者の忠告は素直に受け取るべきだろう』
『あら、それなら私に従うべきでしょ』
『お前がいつ年長者になったんだ?』
そして、それはグラスホッパー号と戦車の整備をゲンじいさんに任せ、そのゲンじいさんのお勧めの店に向かう途中に起こった。
少女が男たちに取り囲まれているという貴重な場面に、有り難くもないことに出くわしてしまった。
俺はため息を吐く。
『ふふん。助けないの?』
見るからに非力そうな少女――動きにくそうなふわふわのドレスを着込み、世間の荒波とは無縁だったとしか思えない真珠のような肌、綺麗に整えられ先端がドリルのように丸まった髪、何処かお屋敷に閉じ込められている箱入りのお嬢さま、そんな少女が男たちに取り囲まれている。
少女に連れが居る様子は無い。
一人だけだ。
俺の背後に控えていたカスミが少女を助けるために飛び出そうとする。俺はそれを手で制する。
「何故です?」
「どちらに非があるか分からない」
俺たちは正義の味方ではない。下手に手を出して巻き込まれるのは得策ではないだろう。
それに、だ。
こんな場所に、いかにもお嬢さまという格好した少女が、一人ぼっちで居るだろうか? 仲間とはぐれた?
そんなはずがあるか。連れを置いてきた……なら理解出来る。
アレは俺たちの手助けなんて必要ないだろう。
少女の顔が歪んでいる。楽しそうに、獲物を前にし、舌なめずりでもしそうな顔をしている。その少女の手にはいつの間にか二丁の厳つい回転式連発拳銃が握られていた。
早い。いや、それもだが、何処から取り出した?
少女の手にある回転式連発拳銃が火を噴く。少女を取り囲み、襲いかかろうとしていた男たちが次々と倒れていく。
少女は腕を交差し固定させ、銃の反動を抑えこんでいる。軸がぶれていない。随分と使い慣れているようだ。
回転式連発拳銃の片方を宙に投げ、その間にシリンダーに弾を詰めていく。器用に弾込めと発射を行った少女は、男たちを倒しきり、その回転式連発拳銃をこちらへと向ける。
「助けてくれてもよろしかったのですわ」
どうやら弾を補充したのは俺たちへの牽制のためらしい。
「聞こえていたと思うが、どちらに非があるか分からないからな」
俺は肩を竦める。
「か弱い少女は助けるべきですわ」
「か弱い少女は両手で持たないと反動で腕がやられそうな銃で暴漢を撃ち倒さないと思うな」
「ふふ。どうやら仲間ではないようですわね」
「何処をどう見ても仲間じゃないだろう」
「ええ。おかしな格好をしていますもの」
少女は口に手を当て、お上品に笑っている。
俺はため息を吐き、そのまま店を目指し歩く。その俺の後を少女がついてくる。
「何のつもりだ?」
「方向が同じだけですわ」
俺はもう一度ため息を吐く。
「俺の行き先は銃火器を取り扱っている店だ。お嬢さまがそんな場所に用があるとは思えないな」
「あら? そうでもないですわ。私の目的も同じですもの」
少女は俺を見ている。その目は油断ならないものだ。
「連れは?」
「襲われそうになった時に真っ先に逃げましたわ」
「それならまずは仲間のところに戻ったらどうだ?」
「そうですわね」
そう言いながらも少女は俺たちと同じ道を歩いてくる。
この少女は襲われ慣れている。そして、それを跳ね返す力もある。
なるほどな。
まだ俺たちを疑っているのか。今にも襲われるという、あまりにも良いタイミングで出くわしてしまったのが悪かったようだ。
先ほどの暴漢とは仲間ではない。だが、それがイコール自分の敵ではないとはならない。そう考えたのだろう。
俺は足を止め、懐からクロウズのタグを取りだし、少女に見せる。
「俺はクロウズのガムだ。これでは疑いを解くことにならないか?」
少女が一瞬だけ意外という顔を作る。
「誤解ですわ。この先に用があるのは本当ですもの」
「そうか。それなら良かった」
どうやら面倒事には巻き込まれなくて済むようだ。
『ふふん。良かったじゃない』
『ああ、良かったよ』