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120 首輪付き07――「運転を任せても?」

「報酬の支払いですね」

「ああ、頼む」

「整備の差し引きで……えーっと、はい、こちらになります」

 俺はオフィスの窓口で報酬を受け取る。単六乾電池が1本と単一乾電池が3本だ。しめて十三万コイル。そこそこの金額になった。


 なったのは良いが……いつまで経っても乾電池がお金の代わりというのは慣れない。違和感しかない。


 と、そこで窓口の職員がこちらを見ていることに気付いた。

「どうした?」

「その服装、私たち職員のものに少し似ているなと思ったんです」

 窓口の職員はそう言って微笑んだ。その右手は大げさなくらいに包帯がぐるぐるに巻き付けられており、ちょっとした鈍器のようになっていた。

「その手は……」

「これですか? 眠っていた時にどうも捻ってしまったみたいで治療中なんです。先輩がオフィス職員を辞めてしまって人が居ないから休むことも出来なくて……でもでも、大丈夫です。これでも有能ですから、ほら、ぽんぽんぽんっと」

 オフィス職員は片手で器用にキーボードのようなものを叩いている。作業に支障は無いとアピールしてくれているのだろう。


 ……どうやら、そういうことになっているようだ。


「クロウズのお仕事頑張ってくださいね」

 窓口の職員が微笑む。どうすれば人が好意を持つか考え尽くされた微笑み方だ。


 俺は受け取った乾電池を腰にぶら下げた袋へと突っ込み、オフィスの外に出る。


「お帰りなさい」

 そこではグラスホッパー号に乗った髪の長い女が微笑み、俺を待っていた。先ほどのオフィス職員の作られた笑顔とよく似ているが、何処か力強さを感じさせる微笑みだ。

「セラフは?」

「あちらのクルマを動かして何処かに行かれました」

 俺は肩を竦める。


『何処に行っている?』

『ふふん。このクルマの試運転に決まっているでしょ。すぐに追いつくから先に行ってなさい』

 相変わらず自由過ぎる。新しい玩具が手に入って我慢が出来なくなったようだ。


「運転を任せても?」

「ええ。大丈夫です。それで何処に向かいますか?」

 俺はグラスホッパー号の助手席に乗り込む。


「ここでやるべきことは終わった。とりあえずレイクタウンを目指して欲しい。ここの整備士にこいつを動けるようにはしてもらったが、不安だ。それと新しい服が欲しい」

「その服装も似合ってますよ。ふふ、私も新しい服を手に入れた方が良さそうですね」

 新しく仲間になった人造人間(アンドロイド)のカスミが再び微笑む。俺はため息を一つ吐き、助手席に深くもたれかかる。今、俺が着ている服は、あの地下で転がっていた人形からはぎ取ったものだ。あそこに転がっていた人形の殆どが女性形だった。つまり、そういうことだ。


 裸に近い格好よりはマシだが、このままでは俺が羞恥心に殺されてしまう。


「お前が行ってくれれば良かったのにな」

 俺は器用にグラスホッパー号を動かしているカスミを見る。

「私が行くのは色々と問題があると思いますよ」

 確かにその通りだろう。カスミも着崩し誤魔化してはいるがオフィス職員と同じ服装(かっこう)だ。そして、このウォーミでは顔見知りも多いはずだ。


 問題しか起こらないだろう。


「私、思うのですが、服くらいならこちらで買っても良かったのでは?」

 確かにその通りだ。だが……、

「早くここを出たかった。ここ、ウォーミには良い思い出がない」

 俺は助手席に深くもたれたまま腕を組む。疲れるような出来事しかなかったな。ターケスとか、ターケスとか、ターケスだな。

「確かに……そうですね」

 カスミは流れていくウォーミの町並みへと振り返り、すぐに前を向く。その目は、前、いや、運転しているグラスホッパー号を見ているようだった。

「少し仮眠する。運転を頼む」

 俺はゆっくりと目を閉じる。


 ……。


 俺が目を開けた時には見覚えのある戦車が併走していた。

「ふふん、良い身分ね」

「セラフか」

 俺はグラスホッパー号を運転しているカスミを見る。先ほどまでの何処か落ち着きを感じさせる雰囲気が無くなっている。


 今はセラフがカスミの体を使っているのだろう。


「それで、何をしていた?」

「ふふん、感謝しなさい。お前の代わりにビーストやマシーンを狩ってたんだから」

 俺は大きく伸びをして助手席に座り直す。


『俺から――本体からあまり離れられないのだろう?』

 狩っていたといってもたかが知れているはずだ。まったく、何処まで行って何を狩っていたのやら……。

『ふふん。ウォーミを手に入れたことで領域も拡張され、行動範囲が広がったから。その確認は必要でしょ?』

『確かにな。だが、体は返してやれよ。カスミにはその体しかないだろう』

『ふふん。お前が気にすることじゃないから。これはこれと私の契約だから』

 俺は何も答えず肩を竦める。


 しばらくして見覚えのあるくず鉄の山が見えてきた。


 ゲンじいさんの作業場だ。俺が寝ている間にレイクタウンに着いたようだ。


 そこで見覚えのないクルマの整備をしているゲンじいさんを見つける。


「なんだ。また新しいのを連れてきたのか」

 俺は肩を竦める。


 カスミがグラスホッパー号を止め、降りる。そのまま綺麗なお辞儀を行う。

「初めまして。私はカスミと言います。ガムさんの新しい仲間として……」

 ゲンじいさんは自己紹介を始めようとしていたカスミを手で止め、戦車の方へと歩いて行く。そして、その表面装甲を軽くコンコンと叩く。

「名前は?」

 俺はもう一度肩を竦める。

「まだ決めていない。一度、ゲンジイに見て貰ってからと思っていたからな」

「そうか。この子は遺跡で手に入れたのか? なかなか活躍しているようだね」

 俺は苦笑する。新しい仲間よりもクルマか。


「ああ。これで稼げるだろう? この首輪を外す日もすぐさ」

 俺は首にはめられている首輪(ボムネックレス)をとんとんと叩く。


 ああ、これからどんどん稼がせて貰うさ。

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