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115 首輪付き02――『俺の相棒が死んだらしいな。ところでお前は俺の相棒なのか?』

 扉を守るように降りた格子を掴み力を入れる。


 ビクともしない。俺の全力でも動かすことは出来ないようだ。格子に使われている金属はただの鉄ではないのだろう。


 改めて室内を見回す。何も無い部屋だ。窓すら存在していない。犯罪者を閉じ込める牢屋だとしたら最悪な分類だろう。悪臭や異臭が残っていないことだけが救いだ。


 周囲の壁を軽く叩いてみる。硬い。これを壊すのは骨が折れるだろう。全力で殴りつければ文字通りの意味で骨が折れそうだ。


 さて。


 せめて着替えの服くらいは手に入れてからオフィスに来れば良かった。人狼化でボロボロになった服のままオフィスに来たのは失敗だったかもしれない。


 俺は小さく息を吐き出し、あぐらを掻いて座る。


 連中の狙いはなんだろうな?


 俺は考える。


 ターケスが来るまで拘束しておきたかった? 


 ……ないな。このウォーミのオフィスではターケスの方が俺よりも評価されているのだとしても、それをする理由がない。


 真実を知るものの排除だろうか? 今更だな。そもそもが、だ、俺を排除するつもりなら、わざわざオフィスの一室に閉じ込める必要がないだろう。


 俺やターケスが人造人間の秘密をバラさないように拘束した? それも無いな。教授が人造人間だった。ああ、そうだ。オフィスに顔が利く教授が人造人間だったという出来事は普通に考えれば衝撃的な事実だろう。だが、教授はオフィスの職員ではない。流れの人間? だ。オフィスからすればいくらでも言い訳が出来るはずだ。そのことで拘束してどうする? 俺たちに言い訳を信じ込ませるために拘束したのか?


 違うだろうな。


 となると、だ。


「俺に何の用だ?」

 俺は呼びかける。何も無い部屋で、誰もいない部屋で呼びかける。


 何も無い部屋にアンティークドールを思わせる金の髪、碧眼の少女の映像が浮かび上がる。レイクタウンを支配していたオーツーとよく似ている。姉妹だと言えば誰もが納得するだろう。


「ガムさん、お初にお目にかかります。このウォーミのオフィスのマスターをしているエイチツーです」

 名前もよく似ている。

「ここのオフィスのマスターの名前はそんな名前だったか?」

「ええ。私が(・・)ここのマスターです」

 俺は座ったまま肩を竦める。


「それで?」

「姉であるオーツーが褒めているガムさんに会って、是非、お話ししたいと思い、お呼びしました」

 作られた美貌が見るものを蕩けさせるような表情で微笑む。


「それでここに閉じ込めた理由は?」

「申し訳ありません。誤解させてしまったようですね。私は非常に臆病なのです。安全にお話させて貰うため、このような形とさせて貰いました」

 俺はもう一度肩を竦める。

「随分と上からなんだな」

「はい。私は一応、ここのマスターですから。偉いんですよ」

 エイチツーは、腰に手を当て、胸を張っている。まるで子どもが大人の真似をしているような、そんな微笑ましさを感じる動きだ。


 なるほどな。


「それで?」

 俺の態度が変わらないことを意外と思ったのか、少し間を開け、エイチツーは苦笑してから話し始める。

「私はガムさんに、ここ、ウォーミ専属のクロウズになって欲しいんです。ウォーミはレイクタウンなどと比べるとどうしても格が落ちます。駆け出しのクロウズには良い場所なのかもしれませんが、それだけです。優れた力を持ったスターがいれば人が集まると思いませんか? 人が集まれば活気が生まれます。それは大きな力になるでしょう。私はウォーミをもっと発展させたいんです」

 俺はゆっくりと立ち上がり、肩を竦める。


 エイチツーとやらの言い分は理解した。


 教授の件を警戒していたが杞憂だったようだ。

「なかなか面白い冗談だ」

 と思う訳がないだろう。杞憂であるはずがない。


「冗談じゃないです。私はそれだけガムさんを買っているんですよ」

 腕を組み頬を膨らますエイチツーの姿を見て、俺は苦笑する。


 何処まで行っても、胡散臭いくらいに完璧な演技だ。


「そういえば、俺の戦車(クルマ)、このオフィスの前に放置していたな」

 相棒が死んで誰も見守ることが出来なくなった戦車とグラスホッパー号。ああ、さぞや盗みやすいことだろう。

「良いクルマです。その力を使えばガムさんは、もっともっと高みへと……」

 エイチツーの言葉が止まる。


 そして映像が乱れる。


『ふふん。誰が死んだのかしら?』

『俺の相棒が死んだらしいな。ところでお前は俺の相棒なのか?』

 いつものこちらを小馬鹿にしたような笑い声が頭の中に響く。


「な、何をした!」

 映像は乱れ続けている。

「俺は任せると言った。だから任せただけだ」

「何を、何を言って、言って、言って……」

 映像が消える。それにあわせてエイチツーの声も聞こえなくなる。


 俺は肩を竦め、扉へと歩いて行く。


 俺はセラフに任せた。


 セラフは、俺の体を狙う、何処まで行っても信頼は出来ない存在だ。だが、その能力を、そしてマザーノルン打倒のために動いているという目的は信用している。


 これが、任せた結果だ。


 鉄格子が上がる。


 俺は扉を開け、部屋の外に出る。


 さあ、エイチツーとやらの本体に挨拶をしに行こうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 圧倒的ぃ! [一言] 警戒が足りなかったみたいですね、ウォーミのマスターのほうに。 オーツーの次はエイチツーかあ。シリーズだったりするのかな? エヌもいそう。 セラフがあんまり力を付けす…
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