114 首輪付き01――『にしても、またこのパターンか』
オフィスの職員が動かしているトラックを戦車で追いかける。お荷物にしかなっていないターケス自身と単車は牽引を外し、そちらで運んで貰っている。戦車で運んでいるのはグラスホッパー号だけだ。
『にしても、またこのパターンか』
『何が?』
『待ち伏せだ。オフィスの連中にしてやられているってことさ』
『ふふん。そうでもないと思うけど。お前の中ではそれだけ印象深かったってだけじゃないのぉ?』
確かにそうかもしれない。毎回、毎回、後手に回って、奴らにしてやられているイメージが強く、それだけが印象に残っているのだろう。
……連中がワンパターンなだけか。機械らしく同じような行動しか取れないのだろう。それにしてやられている俺はなんだという話だな。
肩を竦めるしかない。
オフィスの職員が連れてきたと思われるクロウズたちは遺跡探索に残った。一本道の、しかも戦利品である戦車はすでに手に入れた後の遺跡に何が残っているか分からないが、それは俺の知ったことではない。もしかすると、戦車があった部屋の奥に、まだお宝が残っている可能性だってある。
他のクロウズたちと敵対しなかったことを良しとしよう。オフィスの職員は、連れてきたクロウズたちを俺への威圧として使ったが、アテが外れただろうな。連中は争いごとよりもお宝だ。
オフィスは人々のガス抜きか、思考を誘導するために作られたのだろうが、連中は馬鹿じゃない。大馬鹿だ。制御しきれるものではないだろう。いつか寝首を掻かれることになるだろうさ。
『ふふん。そう思うなら、オフィスはマシーンが支配しているマッチポンプだ、とでも教えてあげれば連中は泣いて喜ぶんじゃあないかしら』
『俺が頭のおかしい奴だと思われるのはお前としても都合が悪いだろう?』
『ふふん。今より馬鹿になることはないと思うけど?』
俺は肩を竦める。セラフと言い合いしても不毛だ。
夜通し走り続け、やがてウォーミの街が見えて来る。オフィスのトラックに速度を合わせたからか、それともマシーンやバンディットに襲われないルートを通ったからか、随分と時間がかかってしまっている。
『戦車の走行性能は悪くないな。砂漠でもスムーズに動けるのは驚きだ』
『ふふん。当然でしょ。悪路を走るために作られたクルマなんだから』
俺は肩を竦める。確かに戦車は悪路を走るために無限軌道を採用している。だが、この快適な移動はそれだけではないはずだ。結局、このクルマも戦車に見える『何か』なのだろう。
ウォーミの街に着いたところでトラックが止まる。こちらも戦車を止める。
トラックからオフィスの職員が降り、戦車の方へとやって来る。
「どうされますか?」
「どう、とは?」
俺はハッチを開け、戦車から顔を出し、聞き返す。と、そこにターケスもやって来た。
「俺はクルマの修理をしてからオフィスに向かう。お前はどうする?」
「そういうことか。俺はこのままオフィスに向かう」
「いいのか?」
ターケスは苦い顔で牽引しているグラスホッパー号を見る。奴にとって思い入れのあるクルマが壊れたままというのはあまり面白くないことなのかもしれない。
「知り合いの修理屋に頼むつもりだ。信頼出来る相手にしか触らせたくない」
「それなら仕方ないな!」
ターケスが態度を軟化させ肩を竦める。俺の返答で納得してくれたようだ。
『まぁ、コイツの許しを得る必要なんて何も無いけどな』
『ふふん。随分と仲良くなったじゃない』
セラフは俺の言葉を良く聞いていないらしい。言いたいこと、聞きたいことしか入ってこない便利な作りをしているようだ。
『許したからな。殺すつもりの全力で殴ってそれに耐えられたなら、許すしかないだろう』
『ふーん。殺すつもりだったの。初耳』
俺は肩を竦める。
「おい、お前はお前で報告するんだろ? 俺は俺で今回の件を報告するつもりだ!」
「ああ、そうしてくれ」
ターケスがオフィスで報告する頃には……全て終わっているはずだ。
「そうするさ!」
ターケスが俺の方へと拳を突き出す。それに俺は肩を竦めて返す。わざわざ戦車から降りて拳を付き合わせることは……しない。
「くそ、会った時から思ったけどムカつくヤツだ! 俺はターケス、ゴウド・ターケスだ。覚えておけ」
「ああ、俺もムカつくヤツだと思ったさ。俺はただのガムだ」
ターケスが伸ばした拳を戻し、ぷるぷると震わせている。そのままため息を吐き、笑う。笑顔のままオフィスのトラックへと戻っていた。
『良く分からない奴だったな』
『ええ。理解が出来ないほどの馬鹿だったわね』
ウォーミの街に戻ったことで遺跡探索は一段落だ。だが、ここからが本番だ。オフィスでは俺たちの戦いが待っている。
『行くか』
『ええ』
オフィスの職員はターケスに付き添うようだ。俺たちはグラスホッパー号を牽引した戦車でオフィスに向かう。
戦車を降り、オフィスの窓口へと向かう。オフィスに居るのは俺と窓口の女性だけだ。クロウズの姿が見えない。連中の殆どが張り切って遺跡探索に向かっているのだろう。
「遺跡の探索を終えて戻ってきた。そのことで話したいことがある。ここのマスターを呼んで貰えるだろうか?」
前回はにべもなく追い払われた。だが、今回は俺を無視出来ないはずだ。
「はい、お話は聞いています。マスターがお待ちです。お部屋までご案内します」
オフィス職員の案内で奥の部屋へ向かう。
『やっとか。セラフ、任せる』
『ふふん。私を誰だと思っているの?』
職員が案内した部屋に入る。
……。
そこには何も無かった。
誰も居ない。
まさか!
俺は慌てて振り返る。
俺が入った扉の前に鉄格子が落ちる。
閉じ込められた。
まさか、こんな原始的で古典的な方法でやられるとは……。