113 遺跡探索18――『ふふん。何を訳の分からないことを』
「とりあえず落ち着け」
「落ち着けだと! 逆に! なんでお前は落ち着いているんだ」
俺が声をかけてもターケスの興奮は収まらない。ターケスは喋れば喋るほど興奮するタイプのようだ。人狼化の事をツッコまれなかったの良かったが、これは少々鬱陶しい。
「そうだな。こうは思わないのか? 例えば、確か……体を機械に変える手術があるそうだな? 機械化だったか? それを行っていたとかはどうだ?」
ターケスが納得したかのように頷きかけ、すぐに首を横に振った。
「全身を機械化するなんて見たことがない。それに、機械化なら、もっとゴツくなるはずだろ。こんな人のような、人に偽装しているかのようには出来ないはずだ。出来ないはずだろ」
なるほど、もっともな話だ。俺が見たのは真っ赤な戦車に乗ったスピードマスターだが、その両腕はまるで機械の篭手を装着しているかのようにいかにもな形をしていた。
『機械式でしょ。あえて区別が付くように分かり易い形にしているんでしょ』
あえて機械らしい形にしている、か。
『なるほどな。だが、その方がマシーンと間違われやすくないだろうか』
『さあ? そんなことを私に言われても答えようがないから。だって、どうでも良いでしょ』
セラフ的には興味が無い内容のようだ。
「それでどうするつもりだ?」
「あ、ああ。とりあえず、そのクルマで俺のクルマを牽引してくれ。転がっている、お、お前の! クルマも、牽引が必要だろ? その後はウォーミに戻る。これは報告が必要な内容だ。お前も報告が必要だろ」
ターケスが転がっている自分の単車と俺のグラスホッパー号を指差す。
『お前の、か』
『ふふん。何?』
セラフの俺を馬鹿にしたような笑い声が頭の中に響く。
「ああ。そうだな。そうしよう」
ターケスと二人で横転したグラスホッパー号を起こし、そこに無理矢理ターケスの単車を乗せる。
「ふぅ、俺のクルマが乗っかって良かったな……って、おい、これ、お前のクルマ、演算制御装置が壊れてるみたいだぞ。俺より修理代が高くなりそうだな!」
ターケスがニヤリと笑う。グラスホッパー号に演算制御装置が無いのは元からだが、あえて教える必要もないだろう。
牽引作業に関してはセラフに任せる。戦車の操作方法が分からない以上、セラフに任せるしか無い。これは仕方ないだろう。
「これもエレベーター装置なのか……?」
ターケスが戦車の置かれていた台座を見て呟いている。
「そうだな。進むか?」
「いやいや、来た道を帰るべきだろ。何処に行くか分からないんだぞ」
なるほど。俺はてっきりこのエレベーターが出口への直通便だと思っていたが、そうではない可能性もあるか。この遺跡は封がされていた。そこに直通の出口を作るだろうか? そこから入られてしまうと……。
なるほどな。
「もしかすると、この戦車……クルマ用の武装が置かれている武器庫などに繋がっている可能性もあるか」
「武器庫だと! いや、今はウォーミに戻ることを優先するべきだろ」
俺は肩を竦める。
戦車を動かし、来た道を戻る。ターケスは牽引しているグラスホッパー号に乗り、自分の単車が落ちないように見守っているようだ。
『この戦車、ちゃんと動くようだな。揺れも無く、意外と快適だ』
『当然でしょ』
とりあえず戦車の操作はセラフに任せている。この戦車には演算制御装置など一通りが組み込まれている。操作方法さえ分かれば俺でも操作が出来るだろう。
だが、それは落ち着いてからだ。
『戦車の名前はどうするべきだろう』
『ふふん。好きにしたら』
セラフは興味が無いようだ。とりあえず、全てはウォーミの街に戻ってからだ。ターケスの機転……と言っても良いのか、このまま上手くいけばウォーミのマスターに出会えそうだ。
戦車のディスプレイには周囲の様子が映し出されている。薄暗いはずの通路は、映し出された映像の輝度が上げてあるのかライトも点けていないのにくっきりと表示されている。
自分がハッチから顔を出して目視するならライトを点ける必要があるだろう。だが、中に居る限りはこのままで良いだろう。
『ん?』
俺は通路に違和感を覚える。
何が、何かおかしくないだろうか。
「ターケス」
ハッチから顔を出し、ターケスに呼びかける。
「なんだ?」
「おかしくないか?」
「何かあったのか? 暗くて見えないだろ。ちっ、やっぱり俺のクルマ、ライトすら灯らないのかよ」
暗くて気付かないのか?
違和感。
……。
そうだ、綺麗すぎる。
通路が綺麗すぎる。
俺たちはここでマシーンの集団に襲われたはずだ。そういえば――この戦車があった部屋の外で戦った人型のロボットの残骸も消えていた。
これはもう一波乱あるかもしれない。
倒した残骸が消えたのは、この遺跡が生きているという証拠だろう。
『ふふん。馬鹿なの?』
『ん? どういうことだ?』
セラフの俺を馬鹿にしたような声が頭の中に響く。
『群体を使って生成されていたからでしょ。指示していた存在が消えたから、形を維持する指令が消えた、それだけでしょ』
逆……なのか。
つまり、ここのボスを倒したから安全に帰れるようになった、と。
「いや、気のせいだったようだ」
俺はそれだけ言うと戦車の中へと戻り、シートに深く体を沈めた。気を張りすぎていたようだ。
俺たちは来た道を戻り、セラフがあっさりとエレベーターを動かし、そして遺跡の外に出る。
太陽の光が眩しい。
……。
そして、そこで待っていたのは武装した集団だった。
俺たちを待ち構えている。
囲まれている?
マシーンの襲撃は無かったが、まだまだ休ませて貰えないようだ。
何者だ。
「お。来たのか」
ターケスが呟く。どうやらターケスの知っている連中のようだ。だが、誰だ?
「ウォーミのクロウズだ。連中も探索に来たんだろ」
その中の一人が――代表と思わしきスーツの女性が俺たちの方へ歩いてくる。
「ターケスさん、ガムさん、聞こえますか? 遺跡では大変なことが起きたようですね。話はウォーミのオフィスで聞きます。どうぞ、私たちと一緒に来てください」
どうやらオフィスの職員のようだ。
『動きが早いな』
『ふふん。そうね』
『準備していたとしか思えない速さだ。していたんだろうな連中からしたらカモネギか』
『ふふん。何を訳の分からないことを』
これは……手間が省けたと思うべきか。