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112 遺跡探索17――『ふふふん』

 俺の体がゆっくりと崩れ落ちる。

「所有者の登録を解除する方法を知っていますか?」

 倒れた俺の上で教授が楽しそうな声を響かせ喋っている。俺に話しかけているというよりは確認のため独り言を口にしていると感じられる。


「一つはオフィスで解除して貰う。もう一つはハッキングツールなどを使って登録者情報を無理矢理上書きする、最後が登録者の生命活動の停止なんですよー。これは登録の際に生体情報を読み取っているからですねー」

 教授が得意気にうんちくを垂れている間も俺の体に空いた大穴からは血が流れ出し、意識を奪おうとしている。


「随分と……のん……き、だな」

「まだ意識があるとは驚きですねー。彼が言っていたように気功とかですか? これはこれで興味深いのですが、僕はもっともっと知識を手に入れないと駄目なんですよ。そのためにはもっと、もーっと、領域が必要になりますからね。優先順位ってものですよ。恨まないでくださいね」

 教授が笑いながら俺の背に足を乗せ、その非力そうな体からは想像出来ないほどの力で踏みつけてくる。


「ぐはぁっ」

 口からも血があふれる。潰され、俺の内臓は酷いことになっていることだろう。

「本当にしぶといですねー。ブースト系の薬でもやっているのでしょうか?」


 話し合いで解決出来ると思っていたが、甘かったようだ。教授は俺と手を組むよりも俺を殺してパンドラを手に入れた方が利になると判断したようだ。こいつらにとって領域とやらは、それだけ重要で貴重なものなのだろう。


 それは分かった。


 だが、しかし――教授は判断を誤った。


「俺を甘く見たツケを払って貰う!」

 俺は塵芥(ゴミ)のように体の奥に沈んでいた、なけなしの命の欠片をかき集め、叫ぶ。


 そして、俺の視界が真っ赤に染まる。


 意識が飛びそうなほどの力の奔流。


 胸に開いていた大穴の内側から肉が盛り上がり、それを埋めていく。体が、腕が、足が、肉が爆ぜる。膨張する。


 全身が黒い体毛に覆われていく。


 咆哮。


 俺を踏みつけていた教授の足を吹き飛ばす。


 歓喜。


 暴れる力を振るうことへの喜び。


 力への渇望。


 起き上がり、力を振るう。


 爪が、牙が、力が吹き荒れる。


「その姿は……」

 眼鏡が何かを言っている。だが、もう関係ない。


 ただ力を振るうだけだ。


 切る。


 切って、切って、切って、千切って、引き裂いて、切る。


 爪が振るわれる度に小さく、細かくなっていく。


 眼鏡は逃げようとするが――遅い。


 跳ぶように間合いを詰め、爪を振るう。


 武も何も無い、ただの暴力だ。単純な力による破壊。


 これがお前の望んだ結末だ。選んだ未来だ。


 ……。


 ……。

 ……。


 破壊が終わる。


 破壊が終わったことを認識したからか俺の体が元の姿へと戻っていく。


 自分の体を見る。大きく開いていた胸元の穴は消えている。それは良いが、相変わらず服がボロボロになっている。服を買うお金だけで破産してしまいそうだ。こうも毎回毎回、服がボロボロになっていると人狼化しても破れない服が欲しくなる。


『ふふふん』

『セラフ、何が言いたい』

『言いたいのは私じゃなくて、そいつでしょ』

 俺は転がっているそれを見る。


「僕の知識がこぼれていく。何故、こんな……」

 何処から声を出しているのか、繋がって(・・・・)いないのに独り言が漏れている。

「仲良く出来ると思ったんだがな。判断を誤ったな」

 それ(・・)は割れた眼鏡の奥、虚ろな瞳で俺を見ている。目と目が、視線が――交差する。


 俺は無言で足を落とす。


『終わったな』

『終わってないでしょ。ウォーミはどうするつもり?』

 セラフの少し苛立ったような声が頭の中に響く。


 俺はそれを無視して戦車を見る。力に飲まれるように暴れ回ったが傷は付いていないようだ。シールドに守られていたからだろうか。だとすると、その分のパンドラが削られてしまっているのだろうか。それはどれくらいだろう? ウォーミの街までの帰り道に大破したグラスホッパー号の牽引と、まだまだ働いて貰わないと駄目だろうに大丈夫か?


 まぁ、大丈夫か。


『ウォーミのマスターの件については、何とかするさ』

『しなさいよ』

 まぁ、何とかなるだろう。


「お、おい」

 と、そこに声がかかる。


 ターケスか。ああ、存在を忘れていたよ。いや、しっかりと覚えていたが、戦車と人型ロボットの戦いに巻き込まれて死んだか、俺の人狼化の暴走に巻き込まれて死んだか、口封じのために教授に殺されて死んだか、とにかく死んだと思っていたよ。


 ターケスはしぶとく生き延びたようだ。


「今、見たことは忘れた方がいいぞ」

「忘れねえよ」

「忘れていいぞ」

「だから、忘れないって言ってるだろ!」

 ターケスが掴みかかってきそうな勢いでこちらにやって来る。思ったよりも元気だ。


「死んでても良かったのに元気な奴だ」

「殺すな。と、それどころじゃないだろ!」

 ターケスが勢いだけではなく本当に掴みかかってくる。


「何のことだ? 俺の体のことか?」

「お前の特異体質のことは黙っておく。相棒が亡くなったことにも同情する」

 人狼化の事を黙っててくれるのは予想外だったが、別にたいしたことではない。


 相棒が亡くなった? こいつは何のことを言っている?


「教授の正体だ! 教授は人だったのか? マシーンだったのか? これはなんなんだよ! おい! これは急いでオフィスに報告する必要のある内容だ。通信で……いや、駄目だ。窓口ではなく、上の人間に直接言うべきだ! 何処からこの話が漏れたら……こんなことが広まったら大変なことになるぞ! この事実に比べたらお前の特異体質なんてたいしたことじゃない。お前が相棒を亡くして辛いだろうことは分かる。だが、急いで戻るべきだ!」

 ターケスは何を言っている?


 何を慌てている?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 厄介なことになった! [一言] 教授、知識は活用しなきゃ意味ないんだぜ? ターケスはしぶといなー。まあ生き残るのも才能のひとつ。 ある意味、都合のいい解釈はしてくれてるね。 これ、もし教…
[一言] あー。 そうかターケスは普通のハンターだから、オフィスがノルンの手先って事は知らない訳だ そりゃ、慌てるよな。 機械に抵抗するって(口実の)組織に、機械の様な存在が依頼人として堂々と出入り…
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