104 遺跡探索09――『ふふん。その方が確実なんでしょ』
『こんな場所で爆発物を飛ばしてくるだと』
『ふふん。その方が確実なんでしょ』
爆発の余波だけでグラスホッパー号のシールドが消費される。削られたシールドを回復させるためにパンドラが消費されていく。
『大丈夫か?』
『分かっているから』
逃げるようにグラスホッパー号が大きく後退する。
人型ロボットの腕からはミサイルが吐き出され続けている。セラフがグラスホッパー号を器用に走らせ、なるべく爆発の余波によるダメージが少ない場所へと動かしている。だが、それでもパンドラの減少を無くすことが出来ない。次々と巻き起こる爆発によって近寄ることも出来ない。
『あの腕の中にはどれだけの数のミサイルが入っている!』
『その都度、生成しているんでしょ』
俺は生成という言葉を聞いて、グラスホッパー号に取り付けられた機銃を見る。機銃はパンドラを消費し弾を生成している。
まさか……、
『あの人型のロボットはパンドラを搭載しているのか?』
『それかパンドラに繋がっているかでしょ。その可能性の方が高そう』
いくらセラフでも見ただけではパンドラを搭載しているかどうかは分からないようだ。だが、ここにパンドラが眠っているのは間違いなさそうだ。
それが遺跡の宝――遺産か。
人型ロボットが巻き起こしている爆発の中に、時々、光輝く線が見える。ターケスが主砲で攻撃しているようだ。
『まだターケスは無事か』
今は無事だ。だが、それも時間の問題だろう。こちらのグラスホッパー号よりも少ないパンドラ容量――ターケスは後一戦が限界だと言っていた。主砲の攻撃でパンドラを消費し、爆発から身を守るためのシールドでさらに消費……もういつパンドラが切れてもおかしくない状況のはずだ。
こちらも危険な領域だ。退路を断たれ、通路は一本道。進むしかない状況とはいえ……進むしかない?
『セラフ、突っ込め。このままじり貧でやられるよりは突っ込むべきだろう』
『ふふん。それでどうするつもり? あれに通用するような武器がないことを忘れてるのかしら』
セラフに頼るにしても遺跡の中では衛星からの攻撃は使えないだろう。人狼化を使ったとしても難しいだろうな。
だが、相手は人型だ。4メートルクラスの大きさだが、人型であることは間違いない。
出来るはずだ。
『セラフ、もう一度言うぞ。突っ込め』
『ふふん。私に命令するとか』
グラスホッパー号が加速する。
「ほわあああー」
荷台の方から情けない叫び声が聞こえる。教授だ。教授の存在を忘れていた。だが、今更降ろすことも出来ない。それに、シールドがあるクルマに乗ったままの方が通路を埋め尽くすほどの爆発が起きている状況では……安全だろう。
爆発を突っ切る。
そして人型ロボットの目の前に辿り着く。こちらに気付いた人型ロボットがミサイルを発射していない方の腕を高く持ち上げる。
高く高く持ち上げられた腕。そのまま勢いよく振り下ろされる。
『セラフ、そのまま突っ込め』
『はぁ?』
『やれ!』
俺は心の中でセラフへと叫ぶ。
そして大きく息を吸い込む。体中に流れている血液という血液の中に酸素が行き渡るようなイメージで息を吸う。血管が浮き出るほどの勢いで筋肉が膨れ上がる。
助手席から立ち上がり、フロントに手をかけ、ボンネットへと飛び乗る。そのまま両手を交差して持ち上げる。
衝撃。
人型ロボットの振り下ろした腕が俺の交差した両腕と触れる。
爆発するように息を吐き出す。4メートルクラスの大きさと質量を持ったロボットが勢いをつけて振り下ろした腕を人が受け止める。
そんなことが出来るはずがない。そうだ、出来ない。
だがッ! 瞬が生み出す勢いによって力の方向を変えることくらいは出来るはずだ。
人型ロボットの振り下ろした腕が俺の交差した両腕を滑らせるように流れ、逸れる。筋肉を無理矢理膨らませたからか、腕の血管が切れ、血が噴き出す。両腕が動かなくなる。
だが、それでも人型ロボットの攻撃を逸らした。逸らして見せたぞ。
グラスホッパー号が人型ロボットに衝突する。その衝撃で俺の体が宙へと投げ出される。いや、違う。俺は俺の意思で飛んでいる。そのまま身を捻り、着地する。
このロボットは人型だ。
そう、足がある。
このロボットは二本の足で立っている。
立っている!
俺は着地した勢いのまま、人型ロボットの背後へと周り、そのまま膝裏へと蹴りを放つ。
一発。
蹴った勢いを利用し、身を捻る。その蹴り足を軸にして体が回る。体ごと、俺の体重を乗せ浴びせるような蹴りを放つ。
二発。
人型ロボットの中を俺の蹴りによる力が抜けたのを感じる。
通った。
人型ロボットが揺れる。体勢を崩しそうなほど揺れる。
そこにもう一度グラスホッパー号がぶつかる。
体を揺らしていた人型のロボットはあっさりと倒れる。
『二本の足でバランスを取って立つのは意外と難しい』
人が自然に行っている立つということ。それには優れたバランス能力が必要だ。
『ふふん、やるじゃない』
グラスホッパー号に取り付けられたオーガニックウェポン――火炎放射器が動く。倒れた人型ロボットに炎を浴びせ続ける。