101 遺跡探索06――『ふふん。問題ないから』
『いつになったら終わるんだ?』
終わりが見えない勢いで次々とマシーンが現れる。こちらへと迫るマシーンを機銃が薙ぎ払い、炎で焼き払う。だが、その掃射に耐えるマシーンが増えてくる。
攻撃をものともせずこちらに迫るマシーンを蹴り飛ばす。蹴った足の方が痺れそうなほど硬い。明らかにマシーンが強くなっている。
現れるマシーンの姿が、銃火器や刃物と人間の下半身や車を組み合わせたような奇抜なデザインなのは変わらないが、硬さと強さが変わってきている。
ロケット弾に人の足が生えたようなマシーンが、その足を生まれたての子鹿のようにぷるぷると震わせる。何をするのかと思った次の瞬間には、足から煙を吐き、こちらへと飛んできた。
機銃が動き、その一撃が飛んできたロケットを空中で爆散させる。だが、その隙を突くかのように地上を這っていたマシーンが襲いかかってくる。
手数が足りない。
俺の生身の一撃ではマシーンを倒すことが出来ない。蹴り飛ばして、グラスホッパー号から引き剥がすことがせいぜいだ。人狼化しても焼け石に水だろう。
数が多すぎる。いくら日中でクルマの燃料が充填出来るといっても消費の方が多くなっている。そのうち、攻撃も出来なくなるだろう。
焼け石に水だったとしても最終的には人狼化を切るしかない。
『突破されるのは時間の問題か』
『ふふん。問題ないから』
セラフは随分と余裕だ。もしかすると、このマシーンの襲撃を止める奥の手を何か持っているのかもしれない。
『あいつの攻撃一回で与える衝撃とパッケージの耐久を計算すれば、どのタイミングで開封出来るかくらい予想出来るから。もう開くでしょ』
セラフには突破出来ることが分かっていた訳か。
『なるほどな。にしても、馬鹿正直に正面から突破しようとせず、崖を削った方が早かったのでは?』
そうすれば、ここまで追い詰められることは無かったはずだ。
『これだから。梱包されているんだから無理に決まってるでしょ。通り道になっている扉の方が破壊出来るようになっている分、可能性が高いって分からなかったの?』
セラフは知っていることが当たり前と言わんばかりの態度だ。俺は肩を竦める。
『俺は長いこと眠っていたようだから、そこを考慮して欲しいものだ』
『眠っていたから? 無知なだけでしょ』
『はいはい。だったら、その無知な俺をお前の知識で補ってくれ。一応、今は俺と協力関係なんだろう?』
俺の言葉をあえて無視しているのか上手い切り返しが見つからなかったのか、セラフは何も答えない。俺はもう一度肩を竦める。
「開いたぞ!」
セラフの無言に対して肩を竦めていた間にどうやら扉が開いたようだ。見れば巨大なシャッターのような扉が中側へと折れ曲がり、クルマが通れそうなほどの穴が開いている。
「おー、さすがですねー」
荷台の荷物の山に埋もれマシーンから身を隠していたはずの教授が、グラスホッパー号から落ちそうなほどの勢いで身を乗り出していた。
「落ちるぞ」
俺は教授を荷物の山に押し込む。その間にグラスホッパー号がマシーンどもを牽制するように機銃を掃射し、逃げるように扉の中へと走る。
開いた穴を抜け、遺跡の中に入る。それが合図だったのか、こちらへと迫っていたマシーンたちが動きを止める。そのままこちらへの興味を失ったかのようにバラバラと別れ、遺跡から離れていく。
「逃げていくな」
「外と中で連中の管轄が違うんだろ」
俺の独り言に何故かターケスが律儀に答えていた。思わず大きく目を見開きターケスを見る。
「そういうものか?」
「ええ。間違いないですよー。かつてはマシーンたちも人に従って人の定めるルールを守っていたようですから。ここを巡回する、ここを守る、ここには入らない、そんな感じのルールですね。狂った後でも、そういったルールの一部を守っているマシーンは多いんですよ」
いつの間にかこちらへと身を乗り出していた教授が会話に参加する。
「そういうものらしい」
ターケスが肩を竦め苦笑する。
遺跡の壁にはぼんやりと赤く光る線が走っているが、明りと呼べるようなものはそれくらいしかなく、薄暗い。俺もターケスもクルマのライトを付け、慎重に遺跡の中を走らせる。
内部は広く、クルマでも問題なく通れる幅と高さが取られている。奥に進むと通路の壁や天井に配管やケーブルが増えだした。
『セラフ、お前が眠っていた場所とよく似ているな』
『ふふん。眠っていたのはお前でしょ』
そう、あのセラフが待っていた通路とよく似ている。
この先に待っているのは武装したネズミの集団化、それともセラフと同じような存在か。
グラスホッパー号を走らせる。マシーンの襲撃も無く、薄暗いだけの静かな一本道。
そして、通路を抜ける。
そこは開けた大きな部屋だった。ここで行き止まりのようだ。
「これは……」
その部屋の中央には大きな四角い板――モノリスがあった。表面に何かが描かれている。モノリスのはまっている台座からは配管やケーブルが伸びていた。先ほどの通路に這っていたケーブルなどはこのモノリスから伸びたものだったようだ。
ターケスが単車のライトを、そのモノリスの方へ向ける。
「これは興味深いですねー。マシーンたちが扱う言葉ですよ」
眼鏡で見えないが、それでも分かるくらい教授が目を輝かせ興奮していた。
モノリスに描かれている文字は数字の0と1の羅列だった。
「これだけかよ。で、なんて書いてあるんだ?」
モノリスには興味がないのか、何処かがっかりとした様子のターケスが教授に聞いている。
「すぐには難しいですねー」
教授はモノリスに描かれた0と1の羅列を持っていた手帳に書き写している。
『セラフ、お前なら分かるだろう』
『ふふん。当然でしょ』
だろうな。
マシーンたちが扱う言葉、か。そのものずばり機械語だろう。何故、そんなものが書かれているのか。なんの命令、文章なのか。
これくらいなら解読装置みたいなものでパッと読み取れそうなものだが、そういった便利なものは無いようだ。
文明が進んでいるようで進んでいない。この世界、一部の技術だけが進んでいるようで、それが俺には歪に感じられる。
それは、この世界が機械に支配されているからなのだろう。