100 遺跡探索05――『ふふん。いいわ、教えてあげる』
巨大な鉄の扉までグラスホッパー号を走らせる。波打った台形の扉は車庫の入り口を思わせる。
ターケスは単車に跨がったまま巨大な扉の前で俺たちを待っていた。扉の開け方が分からないのだろう。
『セラフ、どうやって開けるんだ?』
『さあ?』
セラフはわざとらしく誤魔化す。
『さあって、お前、人形を向かわせて確認したんだろう?』
『この遺跡がパッケージングされたままってことを確認しただけだから。未開封……中は期待出来そうでしょ』
セラフはのんきにそんなことを言っている。
『つまり、開け方は?』
『鍵でも探してくれば?』
開けるには鍵が必要なようだ。セラフなら無理矢理でも開けられそうな印象があったのだが――意外だ。
『鍵無しでも強制操作して開けられるならパッケージングの意味が無いでしょ。少し考えれば分かりそうなのに馬鹿なの?』
セラフの声が珍しく妙に早口だ。何を考えているのやら……。
にしても、鍵か。俺は荷台の荷物に埋まった教授を見る。俺の視線に気付いた教授がニヤリと笑い、口を開く。
「お願いします」
ん?
「おい、始めるぞ!」
ターケスが叫び、単車のアクセルを吹かせる。
「始める? 何をするつもりだ?」
「決まってる! 壊すだけだ! 離れろ!」
巨大な扉の前に立っていたターケスが単車をUターンさせ、距離を取り、扉と向き合う。慌ててグラスホッパー号を後退させ、俺たちも距離を取る。
ターケスが額に上げていたゴーグルをおろし、単車のシートに張り付くように身を屈ませる。単車の荷台に繋げられた銃身が巨大な扉へと狙いを定めていく。
そして、その長く伸びた銃身から光が飛ぶ。こちらの視界を奪うほどの光とともに発射された光の弾丸が巨大な扉に炸裂する。
光が消えた後には――無傷の扉があった。
傷一つ付いていない。爆発などなかったかのようだ。
シールドで防がれた様子はない。単純に扉に使われている金属が硬いだけのようだ。
『単純に硬いだけ、か。恐ろしいな。あの一撃は百メートルクラスの巨体をのけぞらせるほどの威力があったんだろう? それで無傷か』
『ふふん。あの程度で開いたらパッケージングの意味が無いでしょ』
俺は肩を竦める。
『セラフ、一応攻撃をしてみてくれ』
『はぁ? 無駄なのに? 見て分からないの?』
『無駄だからだ。あいつに俺のグラスホッパー号でも無理だと見せる必要があるだろう?』
セラフの返事はない。だが、グラスホッパー号は巨大な扉の前へ移動する。そして、備え付けられた機銃と火炎放射器が動く。
機銃の掃射と噴き出す炎。だが、予想していた通り、目の前の扉は無傷だった。
「こちらの攻撃でも駄目だ。どうする?」
俺の言葉を聞いたターケスはゴーグルを上げ、腕を組む。
『ふふん。あいつ、戻って応援を呼ぶか迷っているみたい』
ターケスは迷いを振り払うように頭を振り、睨むような目で俺を見る。
「奥の手を使う」
「奥の手だと」
ターケスが頷く。
「周囲のマシーンどもを呼び寄せるほど大きな音が出る。お前はそいつらの相手を頼む」
ターケスの単車のカウルに取り付けられたドリルが回転を始める。そして、俺が返事をする間もなく、ターケスの単車は巨大な扉へと突っ込んだ。
ターケスの単車のドリルが巨大な金属の扉にぶつかり、金属を削る嫌な音とともに火花を散らす。
『奥の手……ドリルのことか。にしても、耳を塞ぎたくなる嫌な音だ』
『ええ。撃ち殺して止めたくなりそう』
セラフなら冗談ではなく本気でやりそうだ。
そして、ターケスの言葉通りにマシーンどもが現れる。マシーンの姿を見た教授が何かを叫んでいるが、ドリルの音で聞こえない。
扉を壊すのがターケスの役目なら、教授とこの場を守るのが俺の役目だろう。向こうからの一方的な言いがかりで敵対していたターケスと協力し合うことになるとは思わなかったが、わがままを言える状況ではない。
『セラフ、頼む』
『ふふん』
何を思って作られたのか分からない砲身にタイヤがくっついただけのマシーンや無駄に配管がくっついた四つ足のマシーン、機械の足がくっついた刃物などを機銃の掃射で吹き飛ばしていく。
セラフがグラスホッパー号を動かし、扉にアタックをかけているターケスを守る。
マシーンは際限なく現れ、こちらへと襲いかかってくる。
だが――正直、俺は暇だ。
グラスホッパー号の操作はセラフに任せているため、俺に出来ることは殆どない。しいて言えば教授を守ることだが、それも、たまに機銃の掃射を抜けて来たマシーンを蹴り飛ばし、追い返して終わりだ。俺が蹴り飛ばしたマシーンを機銃が撃ち抜く。
俺は暇だ。
『コイツらは何処から現れたんだ? 何処に隠れていた?』
『遺跡が攻撃されていると判断して近くで作られたんでしょ』
『作られた? この近くにマシーンの工場があるということか?』
『質問ばかりとか。自分で考えようとしないのは馬鹿だからなの?』
こちらを馬鹿にするようなセラフの言葉――いつも通りだ。
『考えても分からない問題だから答えを知っているヤツに聞いているだけだ』
俺は肩を竦める。その間にも機銃がマシーンどもを破壊していく。
『ふふん。いいわ、教えてあげる』
機嫌が良いのか(人工知能にそんな感情があるのかどうかは分からないが)珍しくセラフは教えてくれるようだ。
『この周辺は群体――ナノマシーンの散布濃度が濃いみたいだから、その群体に誰かが指示を与えてマシーンを精製しているんでしょ』
今、俺たちが戦っているマシーンはナノマシーンの集合体という訳か。
『誰か、ね。それはお前じゃないよな?』
セラフは答えない。沈黙しているのは俺の答えに呆れているからなのかもしれない。
にしても、その誰かとやらはとても愉快な人物のようだ。どう見ても実用的ではない、奇抜な姿のマシーンを作って俺たちに襲わせているのだから。
変わったデザインにして遊んでいるとしか思えない。
これはマシーンの親玉、マザーノルンの趣味なのか、それともそれ以外の誰かなのか。
ひゃーく。