96 ドラゴン退治 part8
サルバ城の中庭で行われているシルグ達の処遇に関する話し合いは国王達の常識を吹き飛ばしつつ進んでいた
「そ、それは構わぬが…被害を被った以上そのまま見逃す訳には…いかぬのだ…」
国王は消え入りそうな声で被害に対する補償に言及した
「ですよねぇ…どうしましょうか?」
日向子もそれには困った顔をして腕組みする
『奪った命は還せぬが我等の謝意として今後ワシが統べるドラゴン族の脅威はなくそう』
「そ、そんな事が?」
『バカもいるがワシが責任を持って滅ぼそうぞ。これで少しは被害も減るであろう』
シルグは国王に安全を保証した
「それであれば…死んでいった兵達も国の大事を救った英霊として救われようが…」
『そうか、但し抑えられるのはワシの眷属だけだ。他の四竜の眷属を抑えられる訳ではないぞ?』
「それでも被害が減る事は一国の王としては喜ばしい言質です。この先人命がどれ程救われるか…」
サルバは西の未開の地と隣接している為他国よりも魔物の被害が甚大なのだ
それを何割か抑えられるだけでもこの条件を呑む価値はある
『それに今後は主…日向子の仕事を手伝い外貨を得て眷属を養う事も可能であろうからの』
「えっ?もう賃金交渉なの?シルちゃんは商売上手ね⁉」
気安くツッコむ日向子に震えが止まらないキメ達と国王達
『ワハハ、雇って貰うからには賃金と言うモノを貰ってみたくてな』
「えー?先ずは衣食住を保証するだけよ?食べそうだもん」
『はっはっ、先ずはそれで良い』
(((…えー?それで良いのかよ?)))
国王達はその条件に思わず手を上げそうになった
軍事力として保有出来れば世界を征する事も夢ではない程の力なのだ
国を収める者として兵を纏める側として破格の条件での雇用なのだ
だが軍事力として考えるのであれば抑止力を併せ持たなければならない
それはほぼ不可能なのだ
「…日向子殿、飼うとなれば万が一暴走した際の抑止力を…」
「え?そうなったらお仕置きすれば良いだけでしょ?」
「「「「お仕置きって⁉」」」」
流石に堪えていた全員がツッコんだ
世界を滅ぼす事も可能と言われた伝説の竜を「お仕置き」すると軽くいなされたら誰だってそうなる筈である
『…それは避けたいモノだな…』
シルグは静かに震えていた
(ドラゴンの王が震える程の力を有すると言うのか…?)
国王は日向子には決して敵対しまい、と心に刻むのであった
。。。
「じゃあ私はシルちゃんと一緒に洞穴のお片付けしてくるね。
キメちゃんとラゴちゃんは村に戻ってシルちゃんの受け入れ体制を整えておいてね」
《分かった》ギャース‼
キメとラゴは一足先に村へと帰って行った
「じゃあ王様、私達はこれで帰りますね」
「うむ。また遠慮せず来るが良い、次は馳走を用意しておくぞ」
「やったぁ♪じゃあまたー‼」
バァサッ、バァサッ、
日向子は竜の姿に戻ったシルグに抱えられ空に消えていった
「…父上、あの方は一体何者なのでしょうか?」
「分からぬ。数々の神獣、魔物を従えて尚平和を望む者なぞ聞いた事もない」
国王とピクサは飛び去った日向子達をいつまでも見つめていた
ーピレネー村ー
「お、おいっ‼ほ、本当に来たぞーっ‼」
火の見櫓の身張り番は空から飛来するドラゴンを発見して警鐘を鳴らす
バァサッ、バァサッ、バァサッ
「ひぃぃぃぃぃっ⁉」
「なんまんだぶなんまんだぶ…」
「これからどうなるんだ…」
村人の絶望の声が聞こえる中、シルグとバハムート達は広場に舞い降りた
「…本当にドラゴンだ…」
「食われないのか?」
村人の恐怖心が度を超えない内に人型に変態して貰った方が良さそうだ
「シルちゃん達悪いけど人型になってくれる?」
『む、そうだな』
<<分かりました>>
…シュンッ‼
「あっ⁉えっ??」
「ド、ドラゴンが人に⁉」
「これなら怖くないでしょ?」
村人は人型に変態したシルグ達を見て急に安堵の表情を浮かべた
『人とは面白いモノだな。姿形が変わるだけで本質は変わらないのに』
「まぁそんなモンよ、マイノリティは集団意識から排除される傾向が強いのよね」
『主殿は異邦人が故にワシの知らぬ言葉を使うな』
「あはは、ちょっとした異文化のギャップよ?」
日向子は適当に誤魔化した
「ヒナちゃん、取り敢えず空き家を用意したが平気だべか?」
ドラゴンを飼う事など想像もつかなかった大工のゲンガは住み処を作れず暫定的に空き家を提供する事にしていたのだ
「シルちゃん、普通の家でも構わない?不満なら意見を聞いて何か住み処を作るわ」
『それでも構わないが…2日に一度位は本来の姿に戻らせて欲しい。人型は窮屈でな』
「なるほど、エコノミー症候群になったらストレス処じゃないもんね」
『フフッ、また異邦の言葉が出て来ているぞ?』
「あ⁉ごめんなさい」
こうしてシルグ達は一旦空き家を仮住まいにする事になったのだった




