93 ドラゴン退治 part5
グ…グガァッ‼
絶大なる火力を以て焼き尽くしたと思った矮小なる存在が炎を避けもせず突破し
更に自身の硬い鱗を突き破って頭部を吹き飛ばされる等考えもしなかったヒュドラは
弱々しい怒りの咆哮をあげた
ギャアギャアギャアッ‼
突然目の前のヒュドラが血を吹いて倒れたのに驚いて壁に張り付いていたワイバーン達がパニック状態で飛び回る
…ゴ、ゴバァッ!
ヒュドラは残った頭で何とか火球を作り出し再び日向子に向けて吐き出した
ダンッ‼ギュルルルルルルッ!
日向子は両手を広げ地面に対して垂直に跳ぶ
回転が加わった日向子の体躯はまるで竹トンボの様に高速で回転しながら上昇しワイバーンを巻き込んだ
…ギュルルルルルルッ!
その回転力はまるで衰えず天井に接触するとその力を縦方向に変換して拳を突き上げた
ドガッッ!ガガガガッ‼バカンッ‼
縦方向に変えられたその膨大なエネルギーは硬い岩盤を貫き天井を突き破って地表に大穴を開けた
…ヒュウウウウッ‼ゴアッ!
日向子が天井に開けた大穴は煙突効果となりヒュドラの吐いた火球を上昇気流に飲み込んで抜けていってしまう
《!?…ギャアーー⁉》
天井にぶつかる瞬間蹴って反転した日向子は今度は下方向に跳んでヒュドラの巨体を斬り裂いていた
グ…ガァッ…ズズンッ‼
ほんの十秒、たった十秒で数百のワイバーンと一体のヒュドラが葬られてしまった
『…お前は人間か?』
日向子がヒュドラを斬り裂いて着地した刹那、地響きの様な低音で人語が聞こえて来た
「…誰か人語を話せるの?」
『誰か、ではない。今此処にいるモノ達は全て人語を理解しておる』
日向子は残存勢力を見渡す
今日向子に語りかけているのは目の前のドラゴン、傍らにはバハムート二体が控えている
あれだけいたワイバーン達も日向子の生み出した乱気流によって翼をもがれ、折られて飛行出来る個体が少ない
地面を這っていたサラマンダーはヒュドラの吐いた膨大な熱量によって引き起こされた上昇気流に舞い上げられ 壁に天井に叩きつけられて行動不能に陥っていた
「となると…貴方とバハムートさんかしら?話せるのは」
日向子はドラゴンに訊ねる
『ソコに臥しているヒュドラもだったがな』
ドラゴンは既に息絶えたヒュドラを見やり吐き捨てた
「で、どうする?闘う?降参する?」
あれだけ激しい動きをした後だと言うのに日向子は息も荒れず平然としている
ドラゴンとバハムートは対峙する矮小な存在は自分と同等かそれ以上の力を有しているのだと推察した
『元々我らは西よりこの地にやって来た。我らの望みは安住の地、それだけだ』
…バサッ、バサッ、バサッ
日向子達の会話に水を差す様に羽音が聞こえキメとラゴが日向子の傍らに降り立った
『…ほぅ、貴様はドラゴネットとキマイラを使役するか』
ギャギャ‼…グルルルル…
キメとラゴはドラゴンの威圧に負けじと威嚇をする
「質問に答えて!敵対か降参か、どっちなの❓」
日向子の殺気はドラゴンの威圧を凌駕する程の密度で洞穴空間を埋め尽くす
『…先程も言ったであろう?我らは安住の地を求めているだけだ』
「じゃあ…敵対する意思はないって事ね?」
『そうだ。眷属達は我らの移動にただ付いてきただけで何の因果もない。ヒュドラは違うがな』
ドラゴンがバハムートに目配せするとバハムートの一体が紫の煙をヒュドラの遺体に吹き掛けた
《主っ‼腐敗ガスだ‼気をつけろっ‼》
日向子はキメの忠告に右手を素早く振り上げる
…ビュオォォォッ‼
振り上げた勢いは竜巻を生み出し先程開けた大穴に煙は吸い込まれていった
ジュゥゥゥゥッ…グジュグジュ…
バハムートの腐敗ガスを浴びたヒュドラの遺体はジュクジュクと嫌な音を立てて崩れ去る
『…して人間よ、恭順を示す我らをどうするつもりだ?』
日向子はドラゴンの問いにまた考え込む
「うーん…ドラゴンさん達もウチに来る?」
《オ、オイッ⁉一体何を…》
「だって…闘う気がないなら仲間にして連れてった方がこれ以上の被害は出ないでしょ?」
日向子はキメに恐ろしい理論をぶちかました
《ドラゴンよ、俺は主の僕キマイラのキメだ。
人語を理解する所を見るにさぞかし名のあるドラゴンとお見受けするが名はお持ちか?》
キメは日向子が思いもつかない質問をした
『キメ、か。ワシは西方の四竜が一体、風のシルグだ』
《まさか四竜様とは…数々の無礼をお許し下さい》
「えっ?有名なの?」
日向子は恐縮しているキメにきょとんとしている
《…主よ、この方はこの世界の中に4体しか存在しないドラゴンの王、四竜の一体だ》
「へ、へぇ~?」
キメは日向子に仰々しく説いたが全く伝わっていなかった
『フハハ、知らぬも仕方なかろう。ワシらは人間の間では伝記としてしか存在しておらぬ』
《いぇ、シルグ様。主は異世界より来た異邦人なのです》
『ほぉ、ならば余計に知らぬのは当然だろう。それにしても異邦人とは珍しい、
ワシも五千年の生の中で1人か2人しか会った事がない』
「ご、五千年⁉随分長生きなんですね⁉」
知らぬが仏、日向子はシルグに対して全く物怖じせず接していた




