89 ドラゴン退治 part1
その日日向子はドラゴネットのラゴと共にサルバ国を訪れていた
「ほう。そちが日向子か?」
「はい、王様初めまして」
日向子はサルバ国王の召喚に応じてここサルバ城に参上していたのだ
「先のハバルの件ではそちに大変迷惑を掛けた」
サルバ国王は以前あった騒ぎを改めて詫びた
「いえいえ、此方の被害も軽微でしたし…それよりも私王様の縁者さんを捕らえちゃったんですが良かったのですか?」
「ハバルの奴は以前より王の座を狙っておってな、朕も王族も命を狙われておったそうだ。
そういう意味では日向子は朕達の命の恩人でもある訳だ」
「そんな…私はただ家族を守っただけですから」
日向子は咎められるかと戦々恐々と登城した訳だが予想に反して礼を言われてどぎまぎしていた
「してソレが神獣か?」
サルバ国王は日向子の脇に控えるラゴとキメを一瞥して訊ねる
「えっと…神獣という範疇になるかは分かりませんがその様ですね」
ドラゴネットのラゴはこの世界では魔物扱いだがキマイラであるキメは神話に登場する神獣としての扱いになっている
「そうか、他にもスレイプニルやユニコーン、ブルピット等もテイムしていると聞くが…」
「あ、はい。よくご存知で」
「他国とは言え日向子の武勇伝はこちらにも届いておるからの」
「武勇伝…ですか?」
「うむ、会う迄はどの様な醜女が来るかと思っておったが…まさかこの様に麗人が来るとは思いもしなかったぞ」
(…後で噂の元を辿って〆る必要があるわね…)
日向子は笑顔で応えていたが握った手元からギリギリと音がしていた
「さて、本題に入ろう。そちを呼んだのはある問題を解決する手伝いを頼もうと思っての」
「問題、ですか?」
「うむ。そちも知っているかと思うがここサルバ王国より西は未開の土地が広がっておる。
たまにそこから魔物が出現して少なからず被害が出ておるんじゃが…」
サルバ国王は途中で言い淀む
「…実はここ1週間程前にドラゴンを見たという報告が上がってきたのだ」
「ドラゴン…ですか?」
「うむ。ここサルバでも数百年前に出現し国に多大なる被害をもたらしたという記述しか残っておらん」
「つまりはそれほど珍しい案件と言う事ですね?」
「そうじゃ。それ故我が国の大隊を西の未開へ送り込んだのだが…消息を断ちおった」
「その大隊は何人位…」
「約千人程だ」
「…千人…ですか…」
その人数が全て消息を断つ事など普通の軍事行動であればあり得ない。
連絡係になる斥候や後方部隊は兵士の兵糧を預かる非戦闘員も混じるからだ
「気付いておろうがその大隊から斥候すら帰還せなんだ。消息を断ったという情報は探索に向かわせた後発の斥候達の報告になる」
「そうですか…それで私に何をお求めで?」
「日向子は数々の神獣を組伏せ使役しておるとエレモス国王より聞いてな、
よもやドラゴンをも組伏せられるか?と思ったのだ」
「なるほど…組伏せられるかは分かりませんが住民への被害を防ぐ為に喜んでお手伝いさせて頂きます」
「おぉ、流石武闘大会の覇者たまな!」
「あ。そう言えばそうでした⭐」
日向子の記憶から武闘大会の事などすっかり抜け落ちていた
「失礼します。父上、ドラゴン討伐の勅命を是非私に…あ⁉君は‼」
話の内容からしてサルバ国の王子らしき人物が日向子を見て驚いている
「あの…何処かでお会いしましたっけ?」
記憶力の薄い日向子は最大限失礼のない様に訊いてみる
「先日は私達をお救い頂き感謝しておりますぞ、「通りすがりの魔法少女」殿」
「…あっ⁉あの時の…」
「はい、不覚にも旅先で流行り病にかかり臥せっていた為直接の対面は初めてですがあの旅団の車列にいたのですよ」
「あ、そうなんですか?」
「申し遅れました。私はサルバ国国王の嫡男リュートと申します」
「あ、私はピレネー村の日向子です」
「フフッ…今回は通りすがりの魔法少女ではないのですね?」
「あはは…あの時は失礼致しました」
「何だ、そち達は既に既知であったか」
「いえ、父上。先日私達が盗賊に襲撃を受けた際に日向子殿に助けて頂いたのです」
「ほう。それもまた縁、という事かな?とにかく朕の息子を助けて頂き重ね重ね礼を言うぞ」
「そんな…たまたま通りがかっただけですから…」
事実そうなので日向子は自重した
「誠に奥ゆかしい女性だな。ワハハ‼」
国王は日向子の遠慮する姿を見て笑った
「ところで先程からの話では日向子殿はドラゴン討伐をお受けされた様で…是非私も沓を並べさせて下さい‼」
リュートは日向子に頼む
「えーと…ドラゴンがどの程度強いのかも分かりませんし…私自身身を守るのに精一杯かも知れないので…」
言い淀む日向子に対してリュートは更に頭を下げる
「その程度の自衛は自らがして然るべきですよ。足手まといにならぬ様にしますので是非!」
「うーん…分かりました!連れて行かないと後を追ってきそうですし…」
「流石日向子殿、先々を考えておられるのですね?」
このピクサは天然なのか自分の評価を低く見られているのにお構い無しに日向子を誉めた
「はぁ~…じゃあ行きましょ」
初のドラゴン討伐はため息混じりのスタートとなった




