85 即配便、始めました
「じゃあいってらっしゃい」
日向子は本日初仕事となるドラゴネットを心配気に見送る
ドラゴネット達を教育してから2週間、日向子達は彼等を躾すると共に装備を整えていた
人類の身近な脅威であるドラゴネットは発見されれば確実に討伐対象であり
日向子が使役していると周知させても外見では判断が難しい
そこで日向子は村の職人達に頼んでドラゴネット用コスチュームを作って貰ったのだ
先ずは人を襲わない事を知らせる為の口枷、飛行中も識別出来る様に社名の入った胸当てを派手な色で作成した
これにより遠くからでも飼われている事を識別出来る様にしたのだ
空を一直線に飛べるメリットを生かし軽量の荷物や書簡を運ぶ軽貨便部門を設立し固定ルートを確保して運航させる予定だ
本日ドラゴネットはエレモス城からサルバ国内へ親書を送る依頼をテスト運航として無料で行っている
「上手くいくといいなぁ」
日向子はドラゴネットの依頼完遂の心配よりも誤認による討伐を心配している
例え固定ルート先やルート上の村や町に周知を徹底したとは言え実際ドラゴネットが迫ればパニックになる可能性はあるのだ
「あの子達もキメちゃんみたいに話せると良いんだけど…」
《主が望むなら俺が奴らに教えよう》
「え?出来るの?」
《元々あいつ等は成長してドラゴンに近付けば人語を話せる様になるから可能だと思う》
「じゃあお願いね」
日向子はキメが側にいてくれて本当に良かったと思っていた
…バサッ、バサッ、ギャア♪
「あ、ラゴお帰り‼」
日向子の心配は杞憂に終わった様でラゴは無事依頼を完遂して戻ってきた
因みにドラゴネット達の名前は
成体であるリーダーを筆頭に「ラゴ」、「リゴ」、「ルゴ」
幼体のドラゴネット達には
「ドラ」「ドル」「ドリ」「ドロ」と名付けた
…クルルルル…
依頼を完遂したリーダー格のラゴは日向子に撫でられ喉を鳴らして喜んでいる
「これなら平気そうね。じゃあキメちゃん、人語を教えてあげてね」
《分かった》
それから数ヶ月、キメの教育によりラゴ達成体はほぼ、ドラ達幼体は片言ながら人語を話せる様になったのだった
「シロ~、ペス~、お散歩行こうか?」
ウォンッ‼ウワンッ‼
ラゴ達の教育をキメに任せた日向子はブルピットのシロ達に散歩の提案をした
ここ最近忙しさにかまけてシロ達とのふれあいを疎かにしていて事を思い出したのだ
シロ達も余程嬉しかったのか尻尾が千切れんばかりに振られている
「シロ、なかなか構ってあげられなくてごめんね」
ワフッ‼
シロは「気にすんな」と言いたげに一声吠えた
「最近どう?ゴメリさんやリースさんと上手くやってる?」
…ワフゥ…
日向子は討伐担当のゴメリ達に何か言いたい事はないか訊ねると何か言いたげな仕草をした
「何か思う所があるのね?ならどんどん話して。キメちゃんいる?」
日向子はシロ達の意見を聞く為にキメを呼んだ
ワン…ワフッ…
シロ達とキメの会話が暫し続く
《主、シロが言いたい事が分かったぞ》
「そう、で何て言ってるの?」
《…言って良いのか?》
「勿論よ、シロちゃん達が悩んでるなら助けなくちゃ⁉」
《…いや、悩みと言う事では…》
「良いから早く‼」
キメは言い辛そうにシロ達の言葉を代弁した
「。。。それは大問題ね…」
日向子は拳を握り締める
…ワフゥ~…
シロとペスは日向子の怒りを察知して尻尾を下げる
「このままではインシデントが起こり兼ねないわ…」
この日、日向子はシロやキメ達と綿密な相談を積み重ね来るX-DAYに向けて準備をする事を決めた
ー数日後ー
「リース‼何をしている⁉先に行くぞ!」
「あ、はーい!」
…パタパタパタパタ…
「じゃあ行ってきます!」
ダダッ…バタン‼
「…これは重症ね…」
「えぇ、ここ最近はずっとああなんです…」
隠れてゴメリ達を観察していた日向子は事の重大さを再確認した
「じゃあ決行は明日。みんなもそれとなく協力してね」
「「「「はいっ!」」」」
こうして神獣運輸始まって以来の危機を打破すべく一同の結束を誓ったのであった
。。。
「ゴメリさん、村の南に魔物が発生したそうです‼」
「良し、リース出るぞ!」
「あ、はいっ‼」…パタパタ…
「そんなモノどうでも良いだろ!被害が出る前に討伐するんだ!」
ダダダッ、バタン‼
「ちょっと待って下さいよぉ」
タタッ…バタン
「…良し‼ミッションスタート‼」
「ミッションスタート‼」
日向子達は予定通りゴメリ達の後を追った
目的地はスリ達が待つ南の草原だ
。。。
「シロ、止まれ‼」
ゴメリはシロに命じる
ワオン‼
「む…何処に魔物が…リース、見えるか?」
「いえ、私も目視出来てません」
。。。ザッ!
「!?」
「スリちゃん?…それに皆も…?」
ゴメリ達の前に神獣運輸の従業員が勢揃いし周りを取り囲んでいた
「ヒナちゃん、これは一体…」
「ゴメリさん、年貢の納め時よ‼」
「年貢? 」
日向子達の不敵な笑い声が草原を包んでいた




