84 村の惨劇そして…
「昔この村はドラゴネットに襲われたんじゃよ…」
村の生き字引とも言われるドゴンから過去にあった凄惨な事件が語られた
「…あれは60年程前になろうかの…ワシがまだソコにいるピピン位の年じゃった…
皆で野良仕事をしていた時に空からドラゴネットの大群がいきなり襲って来たのじゃ」
「えぇ⁉そんな話聞いた事ねぇそ?」
「お婆ちゃんの世代で流行り病があったって言ってたけど…」
どうやら若い世代の村人も初耳だった様だ
「…あの時はまだ国から救援なぞ望めん程小さくての、そんな矢先に魔物の大群じゃ…為す術なく蹂躙されたよ」
ドゴンは悲痛な面持ちでとつとつと話していく
「ひとしきり食い散らかされての、満腹になったのかドラゴネット共が去った後には村人の躯が沢山散らばっておったわ」
「…酷い…」
「何故村は流行り病と嘘を?」
「この村は比較的エレモス城に近い村じゃ。
その村が魔物に襲われ壊滅状態となるのはエレモス国としても都合が悪かったんじゃろ」
「やがて国も安定し護衛兵やらが討伐依頼を受けるようになって仇であったドラゴネットも討伐されたがの、
村の維持を真っ先に考えた当時の長老達は流行り病のせいにして事実を封印したんじゃよ」
「…そんな事が…」
史実を知らなかった村人達は皆一様に口をつぐんだ
「…そうでしたか、知らなかったとは言えドラゴネットを連れて来たのは私のミスでした…
どうか許して下さい」
日向子はドラゴネットと村の因縁を聞いてこの村での飼育は諦めようと思っていた
「…ヒナちゃんよ、少しそのドラゴネットに触らせて貰えんか?」
ドゴンは杖を突きつつドラゴネットに近付く
「勿論良いですよ。それより大丈夫なんですか?」
日向子はドゴンのトラウマを刺激しないか気が気ではなかった
「もう60年も前の話じゃ。それにな…」
ドゴンはドラゴネットの首筋を撫で目を細める
「ワシも若い頃は魔物を討伐して村の役に立とうと思っておったのじゃよ。
それがよもやこの魔物を愛でる事になろうとはの…」
この世界にペットという概念は一般人に限ってはほぼ無い。
飼うと言う事は何らかの使役を伴い家畜と同等の感覚であった
しかも魔物、人間にとって害を為すモノを愛でるという事は理性が拒否してしまうのだ
現にドゴンは撫でながら静かに涙を流していた
「ドゴン爺…」
封じられていた過去を知った村人達はドゴンの胸中を察しようとするがそれは無駄な事である
「うむ。ワシが保証しよう‼ドラゴネット達はこの村にとっていずれ益を為す存在になろうて」
「おお~」
「わーい‼ヒナのお姉ちゃん、乗っても良い?」
「早速檻を作らんとな。さぁ皆の衆、作業に取り掛かるぞ‼」
「…良かった…ドゴンさんありがとう」
「ワハハ‼ワシはな実は昔テイマーに憧れておったのよ。今僅かに夢が叶って感無量じゃよ」
ドゴンはム◯ゴロウ並みにドラゴネットをワシャワシャしていた
(ドゴンさんや村人の信用を裏切らない様にちゃんと躾ないとね)
翌日日向子はキメを通訳代わりにドラゴネット達を説得して村に連れて来た
「言葉が通じると楽ねぇ~」
日向子はキメを撫でながら誉めた
ギャギャッ‼ギャア‼
ドラゴネットは補食対象である人間を目の前に興奮しているがキメとリーダー格に抑えられている為騒ぐのみだ
「良い?貴方達は今後人を襲わない、良いわね?」
日向子は今にも食い付きそうになっているドラゴネット達に威圧を込めて命令した
…!?
ギャ…
日向子の威圧に負けて気圧された所でキメが丁寧に説明する
《俺より弱い存在が主に敵う訳がない。逆らうなら俺が滅するぞ》
食欲に負け理性?を飛ばしていたドラゴネット達は日向子とキメに深い恭順の姿勢をする
「貴方達には働いて貰うけどその代わり食事等は面倒見るからね」
《貴様等に主は仕事を与える、動かぬ者は俺が滅する》
…ギギィ…
キメの通訳を聞いているドラゴネット達はガタガタ震えながら腹を見せたりしている
「。。。ねぇ、何かドラゴネット達の様子がおかしいんだけどちゃんと通訳してくれてる?」
《勿論だ。逆らえば死、これをしっかりと…》
…フッッ、ドガガッッ!
今まで日向子の横で通訳していたキメが消えた
「キメちゃん?私、脅せなんて言ってないわよ?」
日向子のこめかみには青筋が立っていた
《。。。》
キメは裏拳で薙ぎ払われ檻を作る為に積まれた木材にめり込んだまま気絶している
「ごめんねぇ、キメちゃんが脅しちゃって…厳しくしないからね」
そう言いながら近付く日向子にドラゴネット達は微動だに出来なかった
『逆らえば死』
本能が全力で警告を発していたのだ
日向子は1匹ずつ撫でて回る
…ギッ…
…キャッ⁉
日向子が全てのドラゴネットを撫で終わった時、恐怖に耐えられず気絶してしまった個体がいた事は本人?達の希望で隠蔽された




