83 お伺いをたてる
日向子は今西の高原近くの高原でお悩み中だ
「姉御ぉ…早く討伐して下さいよ」
被害者であるドンガは集団でかじりつかれたトラウマからか顔を引き攣らせて懇願する
「そうなんだけど…降参してる魔物を討伐なんて出来ないわ…」
いっその事集団で襲い掛かってくれれば一気にかたがついたのに
日向子達の目の前には完全服従を体現したドラゴネット達が仰向けに寝転んでいる
《ここは一旦引いてはどうだ?話は俺がコイツ等に伝えてやる》
キメの提案で日向子の気持ちが決まった
「じゃあお願い。この子達の処遇は一旦ゴメリさん達に相談してからにするわ」
日向子にしても超肉食のドラゴネットを村に連れ込んだらアウトなのは承知している
ただ単純に降参されると弱いのだ
ーピレネー村ー
「ウシャさんいます?」
「む?ヒナちゃんか、ってそりゃどうしたんじゃっ⁉」
ウシャ爺はニルの背でぐったりしているドンガを見つけた
「ちょっと魔物にかじられちゃって…治せます?」
「かじられって…怪我は治せても欠損は分からんぞ?…偶然新薬を開発中じゃが…副作用が…」
「お願いします」
「は?」
「お願いします」
「…うむ。」
ドンガはウシャ爺にドナドナされて行った
ー神獣運輸事務所ー
ガタンッ‼
「何だと?ドラゴネットを飼うだって⁉」
ゴメリは日向子の話を聞いて思わず席を立ってしまう
「うん…何かお腹見せて降参されちゃったんだよね…」
「だからと言って肉食で獰猛な魔物を人家の近くで飼って良いとはならんだろ?」
ゴメリはため息を吐きつつ日向子を諭しにかかる
「うん、それはキメちゃんにも言われたけどさ…キメちゃんがいればドラゴネット達の気持ちも分かるし…」
日向子は既に飼う気満々の様だ
「うーむ…ドラゴネットとなるとなぁ…村人達に了解を得ないと流石にまずいだろ」
シロ達ブルピットの時もそうであったが肉食系魔物、しかも結構被害が出ている種族となると
トラウマや恨みを抱えている人間も少なくない。ゴメリは彼等の心情に配慮しているのだ
「だよね、じゃあゴメリさん村人達を広場に集めておいて。私一体ドラゴネットを連れて戻ってくるわ」
「…分かった」
日向子はキメに跨がりドラゴネットの巣に向かった
ー1時間後ー
「ゴメリ、何だっちゅうんだ?」
「また何かやらかしただか?」
「ヒナちゃんは何を見せたがってんだんべ?」
村人達は覚えのある集合に嫌な予感をひしひしと感じてざわついている
…バサッ、バサッ、バサッ…
ギャース‼
「ド、ドラゴンだー!」
「殺されるー‼」
村人の不安が高まったタイミングで空からドラゴネットが舞い降りた為にパニック状態に陥る
「あ‼ちょっと待って‼この子は大丈夫よー‼」
着地して低い唸り声をあげているドラゴネットの横にキメに乗った日向子が降り立つ
「はぁ~~~~~~…」
最悪のタイミングで登場した日向子達を見てゴメリはこめかみを押さえて盛大なため息を吐く
「皆さぁん‼ほらっ、全然大丈夫ですよ?」
日向子はドラゴネットの頭を撫でるとドラゴネットはもっと撫でろと言わんばかりに仰向けに寝転がる
…キィ…
「ほ、本当に大丈夫だか…?」
散り散りに逃げた村人達が避難先の建物の戸を少し開けて確認する
「うん、大丈夫♪」
日向子はドラゴネットのお腹に乗ってポヨンポヨンと跳ねてみせた
「…ヒナちゃんがそう言うなら…」
「ママー、私もアレやりたーい」
「バカ‼食べられちゃうわよ⁉」
シロ達の時で慣れていた筈の村人達は恐る恐る建物から出て来たがまだ警戒は解いていなかった
それは当然と言えば当然である
この世界に於いて魔物の被害は多岐に渡るが人的被害の中でもトップクラスよ加害を与えているのがドラゴン系、
更に言うならこのドラゴネットがその被害比率を爆上げしている張本人なのだ
「ほ、本当に大丈夫だか?」
「えぇ、この子はとても良い子よ?」
「わーい‼触らせてー‼」
警戒が解けぬ中1人の子供が辛抱堪らず飛び出て来た
「あっ⁉ピピンっ‼」
「うわぁ~、プヨプヨしてるよ?」
…ギャルルル…
ピピンに撫でられたドラゴネットは気持ち良さそうに目を細めて喉を鳴らしている
「あぁ…ピピン…」
ピピンの母親は不安そうに見守っている
「お母ちゃん‼僕もこれ欲しい‼」
「これっ‼ピピンっ‼」
恐怖心を抱かぬピピンを村人が窘めたがどうやら緊張は解れた様だ
「…とりあえずこの魔物が狂暴でないのは分かっただ。んで何匹いるんだ?」
「あ…まだ数えてなかった…」
日向子にしては凡ミスである。
「キメちゃん、あの巣に何匹いるかこの子に聞いてくれる?」
《…分かった》
キメは肩口からドラゴネットの頭を生やしはじめた
「うぉっ⁉何か変なのが生えてきたんべよ⁉」
…ギャア、ギャア?
…ギャ?ギャギャギャ…
キメとドラゴネットの会話?が続く
「…あれで会話してんだべか?」
「何言ってるんだんべ?」
村人もキメ達の会話?に興味津々だ
《…良し、あの巣には今子供のドラゴネットが4体、成体が2体いるそうだ》
「となるとこの子と合わせて7体か…どうでしょう?皆さん、この村に迎え入れても良いでしょうか?」
日向子の問いかけに村人…特にお年寄りが渋い顔をする
「…ヒナちゃんは知らんじゃろうが…この村は昔ドラゴネットに襲われたんじゃよ…」
村の中でも最長老に近いドゴンが重い口を開いた




