80 日向子のバカンス part10
ギャギャッ‼ギャッ‼
「このっ‼離せっ‼」
バカンッ‼バカンッ‼
日向子が船へと辿り着くとデンは船に取り付く無数の人魚達を払おうと櫂で叩いていた
「ヒ、ヒナちゃん、助けてくれぇっ!」
デンはやっとの事で日向子に助けを求める
(でも…何かがおかしいんだよな…)
日向子の目には違和感のある光景が映っている
デンの船の縁には数十の人魚が転覆させようと言わんばかりに縋り付いている
だがデンに直接攻撃を仕掛けている者は1人もいないのだ
日向子は船に飛び乗ると木箱の蓋を毟り取り扇の様に人魚達に向かって扇いだ
…ブンッ‼ブアァァ~~ッ‼
ただの板きれでも日向子の膂力で振れば真空波を生み出す
その衝撃に人魚達は木っ端の様に散らされていく
ギャギャーーッ‼
「ねぇ、言葉が分かるなら聞いて!何故船だけを狙うの⁉」
日向子は人魚達に訊ねた
人魚達も日向子に自分達を害する意思がないのが分かったのか闇雲に襲う事を止め遠巻きに見つめている
するとその一団から一体の人魚が前に進み出てきた
『…あの島の宝、私達の宝…』
「え?海賊の宝じゃないの?」
ここで日向子は真実を知らされる事になる
ー数十年前の事ー
人魚達の楽園であったあの島に人間が漂着した
その人間はまだ息があった為に人魚達は介抱し、食事を与えたそうだ
やがてその人間も回復し人魚達の楽園を歩き回る様になり彼女?達が難破船等から集めた金銀財宝がある事を知る
人間はその後彼女達の手により人間が住む島に送られたが話はそこで終わらなかった
数ヶ月後、助けた人間の案内で海賊達が強奪にやって来たのだ
人魚達とシーデビル(多分さっきのコウイカ)達は宝を守る為に海賊達が宝を積み込みしている隙を狙い皆殺しにし今に至る
人語が話せる人魚の話は大まかにはこんな説明であった
「何故貴方達は金銀財宝が必要なの?人と接触がない限り必要なさそうだけど」
『宝は全て海神様への供物。奪われてはならない』
「…なるほどね。貴方達は海神様に捧げた供物を必死に守ってきてそこに私達が現れた、と」
『…また簒奪者が現れた。船沈めて海神様の怒り鎮める』
元々は人間達が難破して落としたモノとは言え彼女?達はそれらをせっせと神様への供物としていたのだ
お宝に興味がない日向子にとってその行為は確かに簒奪と言われても仕方のない様に思えた
「分かったわ。もう少し私達と話して貰えるかしら?」
『勿論だ』
「じゃあちょっと待っててね。今向こうの島から仲間を連れ戻してくるから」
日向子はそうだ言うとガンザ達の待つ島へと跳躍した
。。。
「なるほど…海賊達が奪った宝ではなくこの人魚達が集めた神様への供物だったんですね…」
ガンザ達港に生きる者達は内陸部に住む人間よりも信心深い人が多い
漁に出れば自然の厳しさを嫌と言う程身に染み込まされる彼らにとって海神と言う存在は決して無視出来る存在ではないのだ
「なら…俺達がその供物を許可なく奪う事は出来ない。俺達も海神様を奉っているからな」
デンの言葉にガンザ達も深く頷く
「そっか、みんなも分かってくれたみたいね」
日向子はホッとする
誰か1人でも欲をかいてお宝を奪おうとしていたら今度は本気で人魚達と戦わなければならなくなるからだ
「じゃあ持ってる宝を戻しに行こう」
日向子はガンザ達に宝を放棄する事を促した
『…待て。今持ってる宝は貴方達にやろう。その代わり手伝って貰いたい』
「えっ?マジで⁉」
「やったあ‼これだけでも貧乏から脱却出来るぞ‼」
「手伝うって何を?」
『この島に人間が近付かない様に警告をして欲しい』
「なるほどね…それは多分大丈夫よ、私達が噂を流せば暫くは近付かなくなるわ」
『…ありがとう』
「私からもお願いして良いかしら?」
『何だ?』
「この箱について何か知ってる事ないかな?」
日向子は先程見つけたスマホを取り出して人魚達に見せる
『それは…さっき言った我々が助けた人間だ』
この島と人魚達に災いをもたらした人間、それがスマホを持っていたと人魚は言う
「じゃあ…」
『海賊達と共に海に沈んだ』
日向子はそれを聞いて残念そうな表情を浮かべた
「そう…じゃあ私の疑問は永遠に謎ね」
もしかしたら同じ世界から来た人間と出会えたかも知れない、帰る方法も見つけられたかも知れない
その希望はあっけなく潰えたのだ
「教えてくれてありがとう、これで吹っ切れたわ」
日向子達は人魚達に見送られて島から離れた
「いやぁ、まさか人魚が島に住んでるなんてなぁ…」
デンはしみじみと呟く
「約束だから人魚達の事は伏せて噂を流しましょう。そうね…あの島はクラーケンの住み処でヤバいって事でね」
「あぁ、怪物が今まで近付く者を襲っていたとなれば誰も近付かなくなるだろうな」
ガンザ達も日向子とデンの意見に大きく頷いていた




