73 日向子のバカンス part2
日向子は昨日よりコロンの家でホームステイをしている
「デンさんチルさんお早うございます」
「あら、ヒナちゃんお早う」
「痛てて…お早うさん」
コロンの父親は漁師で昨晩は夜更けに帰宅したのだが日向子を見て張り切ったのか
酒豪自慢と共にマイラ(キメ)を強引に競争相手にして乾杯合戦を繰り広げた
結果はアルコールを浄化しきれず倒れたマイラがぶっ倒れてダウン、
同時にデンも勝ち誇ったまま気絶するというダブルノックダウンを演じた
「あのマイラって奴はどうしたんだい?」
「あー、まだベッドで唸ってたんで寝かせてます」
「よっしゃ‼まだまだ若い者にゃあ負けねぇぜ‼」
「ちょっとアンタ‼折角ヒナちゃんのお休みなのにお連れさんを倒れさせてどうすんのよっ‼」
ベチンッ‼
「あ痛たたた…そりゃ済まない事をしたな、ヒナちゃん」
「あはは、まぁ見てて楽しかったですよ?」
「お詫びと言っちゃ何だが今日は活きの良い魚をたんと釣ってくるからよ、楽しみにしといてくれよ」
「やったぁ‼じゃあ楽しみにしてますね‼」
「全く…ボウズだったらどうするつもりなんだが…」
日向子はふと素朴な疑問をぶつけた
「プロの方でも全く釣れない日とかあるんですか?」
「そりゃあ自然の恵みだからゼロって訳にはいかねぇな。けど最近は海がおかしい日があるんだよ…」
デンは少し難しい顔をしたがチルにまた叩かれた
「ちょっと‼ヒナちゃんはバカンスをエンジョイしに来てるんだから湿っぽい話しないのっ!」
「ちっ、分かった分かった!」
日向子は二人のやり取りを微笑ましく眺めていた
「お、そういや今日は何をする予定なんだい?」
デンは日向子に訊ねた
「えっと…やっぱり海に来たら泳ぎたいですね」
「そっか。なら俺達地元民しか知らないプライベートビーチを教えてやるよ‼綺麗だぜぇ?」
「そんな場所があるんですか?楽しみだなぁ~♪」
「じゃあ二人にお弁当作ってあげるね‼」
「ありがとうございます‼」
弾んだ会話の最中にマイラが二階から降りてきた
《…気持ち悪い…》
(魔獸も二日酔いとかあるんだ…)
日向子は変な所で感心している
「あらら、じゃあヒナちゃんに付き合うのは無理かしら?」
《いや、主を守るのが俺の使命だ》
「えっ?」
チルはマイラの言い回しに首を傾げた
「あっ⁉あはははっ‼冗談ですよ、冗談っ‼」
マイラの発言を敢えて誤魔化す日向子
チルはそんな日向子を見て
「アンタ達は恋人同士じゃないのかい?」
と勘違い質問をしてきた
「えっと、そう!友達ですよ‼」
日向子は下手な詮索を避ける為に言葉を選んだつもりだったが多分誤解はさらに深まるだろう
「あははっ⁉じゃ、じゃあ教えて貰ったビーチに行ってきまーす」
日向子はマイラの手を引いて逃げる様にその場を後にした
ーサザンスのプライベートビーチー
「ぷっはぁ~‼やっぱり海は気持ち良いわね!」
日向子は子供の様にバッチャバッチャ泳いで堪能している
「ねぇ、マイラぁ~‼本当に泳がなくて良いの~?」
《…俺は大丈夫ダ。荷物番してるから楽しんデ来い》
日向子はマイラ、キマイラの弱点を知らなかった
自身が原始スープの様な存在のキマイラにとって海水は天敵である。
もし入ってしまえば浸透圧の関係で体を維持出来なくなるかも知れないのだ
そんな二人に声を掛けてくる者達がいた
「ビュー‼お二人さん何やってんのぉ?」
「こんなつまんない奴よか俺達と遊ぼうぜぇ!」
まぁ所謂(お約束)の地元のチンピラが絡んできたのだ
《…人間よ、あまり不快感を与えると死ぬぞ?》
「へぇっ⁉やれるモンならやって貰おうじゃねえかっ!5対1なのに勝てるとか思ってんのかよ!」
チンピラ達はマイラを取り巻く様に囲みそして身構えた
「こらっ‼マイラ、やり過ぎはダメだよ‼」
そんな様子を見て日向子が海から上がって来る
「…ヒュウ♪こりゃたまんねぇぜ‼」
ビキニ姿の日向子はチンピラ共にはただの興奮剤にかならなかった様だ
《手加減すレば大丈夫だろ?》
「ダーメ。ここは私に任せて、手加減とは何ぞや?ってのを見せてあげるからね」
「おい!何ごちゃごちゃと訳分かんねぇ事言ってんだよっ!」
チンピラの1人がイラついて日向子の手を持とうとした
「触らないで‼変態!」
日向子は掴もうとしてきたチンピラを軽くスウェーしその勢いで軽く回し蹴りをお見舞いした
「ゲフッ‼」「グギャ⁉」「ギャアッ‼」「ギャッ⁉」「キャアッ?」
優しく払ったつもりだったがチンピラ全員を薙ぎ倒し二人程吹き飛ばされ森の中に消えた
「…あれっ?」
「バ、バケモノだぁっ‼」
「ひぃぃぃっ⁉」
日向子の異常な力を見せつけられたチンピラ達はほうほうの体で逃げ出す
「ちょっとぉ‼レディに向かってバケモノとは何よぉ!」
「ぎゃあぁぁぁっ⁉」
日向子の声を聞いたチンピラ達は逃亡速度を更に上げた
《…成る程、あレが「力の加減」と言ウものか?》
「…あはは…」
ビーチには日向子の乾いた笑いが響いていた




