7 日向子の就活
ー翌朝、ウシャ爺の家ー
「おはようございまーす」
「おや?ヒナちゃんか、おはようさん。今日は朝早くからどうしたんじゃ?」
「私もいつまでもカントさんに甘える訳にはいかないので働こうかと思ってるんです」
「なるほどのぅ、で?」
「助手として雇って下さいませんか?」
「…ふーむ、そうしてやりたいのはやまやまなんじゃが…無理じゃな」
「え?ダメですか?」
「ヒナちゃんも見たから分かるじゃろ?
ワシの治療は薬を飲ませるか軟膏を塗って終わりじゃ。人手は十分なんじゃよ」
「あー、そうでしたね…じゃあ他を当たりますね」
「すまんのぅ…」
ーゴメリの家ー
「ゴメリさーん、具合はどうですか?」
「ヒナちゃんか。もうすっかり良くなっただぁよ」
「今日はゴメリさんに聞きたい事があってお見舞いがてら来ちゃいました」
「聞きたい事?何だべか?」
「ここにはどんな職業があるんですか?」
「おぉ、そっかぁ。ヒナちゃんはそんな所も知識がねぇだか。んじゃ軽ぐ説明してやるかぁ」
ゴメリの話では特に珍しい職業はない
定番(?)の魔術やダンジョン系もお伽噺の中でならある程度だそうだ
日向子の世界と大きく違うのは魔物の存在とそれに伴う関連職業の存在だ
国で保有する軍は他国間戦争よりも魔物の討伐に力を注いでいるが領地内を保守しきれない為
民間でも武装して討伐を請け負う「討伐者」がいると言う
この職種は自称公認を問わず依頼を請け負い報酬を得る一次収入と討伐した魔物の部位を売って得られる二次収入がある為
高収入だがリスクが高過ぎて五年生存率は1割以下だと言う
生き延びれば装備も規模も大きくなる為生存率はグッと上がり組織として成長していくらしい
ただ魔物は人口密集地である街の付近により発生する為組織化した討伐者達は都市部に居を構え
村等の過疎地には個人か少数の討伐者がいる程度で半ば放置状態らしい
「じゃあこの村が襲われた時なんかは諦めちゃうんですか?」
「いんや、オラぁや他の元兵士なんかが倒すんだよ」
一次産業から比べれば討伐者は派手なので若い男なら誰でも一度は憧れる花形家業らしく
軍に所属したり規模の大きい討伐者グループに雇用される者は後をたたないそうだ
怪我の後遺症で辞めた者、加齢によるリタイア組、夢破れて出戻りした男達等が野良仕事の合間に討伐を請け負うそうだ
「…じゃあ敵わない場合は…」
「そうなると軍や討伐業者に頼むか村を捨てて移り住むだぁよ」
「移り住むって…ゼロから立て直してたら犠牲者が出るんじゃ…」
「オラ達もそんな事はゴメンだで普通は2つか3つ仮住まいの場所が用意されてんだ」
「避難所があるって事かな?」
「んだ。で、魔物が去ったら戻って修繕してやり直すんだぁよ」
「…効率悪いですよね、それ」
「んでも仕方ないべな、要請掛けると高過ぎて村の借金になっちまうだ」
「…なかなかシビアですね」
「んだ。だから村はいつまでも貧乏で抜け出す為に若衆は討伐者になり死んでいくんだよ」
「それで村に若い人が少ないんですね?」
「んだ。」
何と悲惨なループなのだろう
貧しさから抜け出す為に討伐者に憧れ散っていく
諦めれば貧しさを受け入れなければならない
そうだ、私の謎の力を使って犠牲を減らそう
そうすればこの村も魔物に怯える事なく生活が送れて少しは楽になるんじゃない?
日向子は自らの力の使い道を決めた瞬間であった
「ゴメリさん、私討伐者になるわ」
「えっ⁉…確かにヒナちゃんは力は強いだろうけんど…」
ゴメリは口ごもる
当然と言えば当然だ。生存率が1割にも満たない厳しい世界にうら若き女性が挑むと言えば誰も賛成はしないだろう
「大丈夫。私強いからね‼そうと決まったら武器とか装備とか揃えなくちゃ‼」
「うーん…本当にやんのが?」
「うん‼決めた事だもん。ゴメリさん、私に闘い方とか教えてくれる?」
「うーん…まぁそれは構わなねぇがよう…死なれたら悲しいだよ…」
「ゴメリさん…んっ‼」
日向子はゴメリに向かって小指を出す
「ん?何の真似だい?」
「約束!討伐者になっても絶対に死なないからね‼」
ゴメリは渋々日向子の決意を尊重し指切りし、明日から戦闘のイロハを教える事になったのだった