58 新装開店しまーす part2
日向子とキメは国王に認められて意気揚々とゴメリがいる討伐依頼先に向かって飛んでいる
「キメちゃん良かったねぇ」
《…こレで安住の地ヲ得た》
キメは安堵の表情を見せる
魔獣に生まれ他を補食しながら疎まれ避けられ続けた生活が何からも怯える事なく過ごせる生活に変わるのだ
「あ‼あそこみたい‼キメちゃん降りて」
《ゴルッ‼》
「ゴメリさぁ~ん‼大丈夫~‼」
「?おわっ⁉ヒナちゃん?飛んで来たのか?」
ゴメリは空から飛来した日向子に驚くが直ぐに魔物に意識を切り替える
ガウッ‼ガルルッ‼ギャンッ‼
シロ達もどうもやり難そうだ
「ヒナちゃん、数が多いから右半分を頼む‼」
「了解‼キメちゃんも殺る?」
《分カった》
「シロ達は下がって‼」
「ウォンッ‼」
日向子達の前には百体前後の<ブルピット>が牙を剥き出していた
「流石に混戦になっちゃうと見分けがつかなくなるもんね、じゃあキメちゃん行くよ‼」
ゴルァッ‼シャァァッ‼
キメが五体を駆使して次々とブルピットを倒していく
「それっ‼」
日向子は手甲剣を前に出して跳ぶ
ギャンッ‼ギャッ‼
これだけで十数頭が真っ二つになる
「どうりゃあっ‼」
バキッ‼ゴリッ‼メキィッ‼
ゴメリも負けじと槍の横っ面でブルピットを撲殺していく
二人と一頭で百体以上のブルピットを十分程度で殲滅してしまったのだった
「キメちゃん強いじゃん‼」
《それホどでもナイ》
「魔獣が謙遜するか、普通」
ゴメリも軽く息を整えながら会話に参加する
《俺達でも倒せないヤツはイル》
「え?そうなの?」
《北ノ大地にイル魔物は強イ》
「へぇ~…北にはキメちゃんでも敵わない魔物がいるんだ」
「まぁそもそもソッチには行かないだろうがな」
「?どうして?」
「北の大地を治めるゴルド王国とは今断絶状態だからな、行こうと思っても処刑されるだけだ」
「そうなんだ、やっぱり国家間でも争いはあるのね…」
「さて、討伐依頼は終えたし帰ろうか」
「そうね、じゃあキメちゃんまた乗せてね」
《分かった、空から行くカ?》
「ううん、ここからは走って行きましょう。何かシロ達が落ち込んでるみたいだし」
シロ達は同族を殺したとか言う理由で落ち込んでいた訳ではない
日向子の前で良い所を見せられなかった事に落ち込んでいたのだ
《…と言う事ラシイぞ?》
「キメちゃんがいるとシロ達やニル達の言葉が伝わって便利よね」
シロは自分の地位がキメに脅かされていると感じ恐怖を覚えた
そしてこの後シロは自らを鍛え直すトレーニングに励むのであった
ーピレネー村ー
「ただいまー‼あれっ?シャロン達早かったわね?」
日向子達が村に設置された仮事務所に帰ると海産物を輸送する依頼を受けていたシャロン&スリ組が戻って来ていた
「行程の半分以上は空荷でしたから早かったんじゃないですかね?」
スリは答える
「成る程ね…なるべく空荷での移動がない様に運行管理してくれる人がいると良いんだけどなぁ…」
運送業界で往路復路共に荷物を預かれる様に手配したり効率的な配送を組み立てるのはドライバー達には無理なのだ
「出来れば事務仕事が出来て運行管理もこなせる人が募集に掛かってくれると良いんだけど…」
「…そんな完璧な人材ってフリーではいませんよね?普通」
「あはは、そうだよねぇ~‼」
日向子の高笑いに少女達も釣られて笑いだした
ー翌日ー
「隊長‼私護衛兵を辞めて来ました‼」
仮事務所に勢い良く飛び込んで来たのは護衛兵現隊長、リースだった
「何だと?そんは馬鹿な真似を何故したのだ⁉」
ゴメリは突然の事に開いた口が塞がらない
「隊長の立場だと鍛えるのにも限界があります、だからいっその事辞めて隊長の下で修行しようと…」
「まてまてまてまて、一体何処でそんな話になった⁉」
「それに…隊長の周りは美人さんばかりで気が気じゃないんです…」
「。。。はぁっ!?」
鈍感なゴメリは今漸くリースの想いに気付いた
ガチャ…
「あれ?リースさんじゃない?どうしたの?」
「こんにちは、日向子殿…じゃなくて「さん」。今日は日向子ど…さんにお願いがあってやって来ました」
「え?私に?」
「雑用でも何でもしますのでココで雇って下さい!」
リースはテーブルに突っ伏して日向子に言い放った
「えええっ⁉ゴ、ゴメリさん一体どうなってるの⁉」
突っ伏したまま微動だにしないリースの代わりに日向子はゴメリに答えを求めた
「どうやらリースは軍を辞めて来たらしい」
「えぇっ⁉」
「…どうか、どうか雇って下さい!」
「そんな…頭を上げて下さい!」
日向子はリースの体を起こす
「今は猫の手を借りたい位だから大歓迎だけど…良いの?本当に」
「お願いしますっ‼」
リースは躊躇う日向子の言葉を遮る様に懇願する
「…リースさん、一つ聞いても良い?」
「?何でしょう?」
「リースさんって事務仕事とか出来る?それと運行管理とか」
「普段私は執務室で書類とにらめっこしてますし運行管理は不勉強ですが用兵と同じ原理であれば習得も時間は掛からないかと」
「‼採用っ‼」
「やったぁ‼」
「お、おい⁉」
こうしてリースは神獣運輸の新しい従業員として迎えられたのだった




