57 新装開店しまーす part1
ー数日後ー
エリス達4人は真新しい制服にはしゃいでいた
「馬車も可愛いけどこの制服も素敵ね‼」
「動き易そうだしお洒落だしもう最高‼」
日向子は交通広告戦略に於いて重要なファクターである従業員の制服にはかなりの労力を割いていた
可愛いやセクシーだけなら露出度を増やすなりフリフリにするなりすれば事足りるが御者はあくまでも作業員である
動き易さとデザインを両立させるのはなかなか難しかったのだ
苦心の甲斐あって出来た制服は少女達に大好評だった
丸帽子にワイシャツ、ベストと七分丈のズボン
文字だけで羅列すると何度も味気ないがタータンチェックと黒のストライプを上手く配置し
クラシカルな装いの中に所々暖色のリボンを配して女性らしさを醸し出しているのだ
「日向子さん、ありがとうございます‼」
少女達は日向子の配慮に礼を述べた
「さぁ、新生神獣運輸のリニューアルオープンよ♪今日の依頼は何かしら?」
「はい、この村から港町への小麦の輸送と復路は港町からの海産物を城下町の商店への輸送です」
担当のコロンが端的に説明する
「他は?」
「南にある町から絹織物をお城へとお届けする依頼が来てます」
「そう、私は王様にキマイラの報告をしに城に出向いてからゴメリさんの討伐のお手伝いしてくるね」
新装開店直後だと言うのに予約がてんこ盛りであった
それもこれも日向子の武闘大会の宣伝やニルを広告塔として馬車運行させた効果が結実した結果だった
「じゃあ皆さん、今日1日怪我のないようにお願いします‼」
「「「「はい‼」」」」
少女達は各々の依頼の為に出発して行った
「さぁて、今日はキメちゃんのお披露目しなきゃね」
キマイラ改めキメちゃんズは最初10頭いたのだが6頭いた子キマイラが突如融合し全部で5頭になっていた
分裂・融合が可能なキマイラにとって子供の内は子キマイラ同士で融合して行動した方が生存率があがるらしい
コロコロと頭数の変わるキマイラに日向子の名付けは相当難航し、遂に諦めた
リーダー格の人語を話せるキマイラを「キメちゃん」と命名し
残りは五十音を駆使して「アメ」「カメ」「サメ」「タメ」と名付けたのだ
これにはキメ以外の猛反発があったがハク達がそっと近付き何事かを話すとショボくれながらも大人しくなった
「出来ればキメちゃんに乗って行きたいけど…この背中じゃ無理よねぇ…」
キマイラの背中には山羊の頭部が鎮座していていかにも乗り心地が悪そうだ
《これはナくせる…》
キメちゃんはそういうとヒュッ‼と山羊の頭部を引っ込めた
「…えっ⁉そんな事が出来るの?」
《融合と分離能力で可能ダ》
「これならシロ達の鞍が載せられるわね♪」
日向子は嬉々としてシロ達の檻に向かい鞍を持ってくる
その光景をシロ達は歯軋りしながら見つめていた
「良し‼じゃあお城に行こう‼」
日向子はキメちゃんに飛び乗ると城に向かって出発したのだった
ーダダッダダッダダッー
《主よ、飛んで良いか?》
村を出て暫くするとキメが日向子に訊ねる
「えっ⁉飛べるの?じゃあ飛んで飛んでっ‼」
ゴルル…メキメキ‼
キメは少し唸ると背中から羽根が生えてきた
ヴァサッ‼バサッバサッ‼
キメはその羽根を羽ばたかせると空に舞い上がった
「わぁ~‼飛んでる~♪」
日向子は飛行機ともパラグライダーとも違う浮遊感にときめく
キメも日向子に喜んで貰えて満足気だった
「流石に空を飛ぶと早いわね、もうお城に着いちゃった」
眼下にはエレモス城と城下町が見える
「キメちゃん、ここで降りて」
《分かっタ》
バサッ‼バサッ‼
…ヒュッ、ヒュッ‼
「…えっ!?」
日向子とキメは城の護衛兵達に矢を射られていた
「ちょっ、ちょっとぉ‼私よ、私!」
日向子は大声で自分だと兵達に伝える
「お、おい‼あれは日向子殿らしいぞ⁉撃ち方止めーー!」
兵達に日向子の声が届いて誤解が解けた様だ
「ひ、日向子殿‼空から来るのであればきちんと事前にお申し伝え下さい‼」
「…忘れてました…ごめんなさい…」
当然と言えば当然である。
この世界には飛行型の魔物も沢山いるというのに告知なしで王城に飛来したら撃ち落とされるのは当たり前である
日向子は飛べた嬉しさでその事をうっかり忘れていたのだ
「わはは‼危うく兵達に射殺されそうになったそうだな?」
国王は事の顛末を兵に聞かされ高笑いしている
「笑い事じゃないですよ‼もうっ‼」
日向子はぶんむくれていた
「ところで…それがキマイラか?」
「はい、キメちゃんです」
《お前が人ノ王か?》
「…本当に人語を話せるのだな…」
国王はリースや日向子より報告を受けてはいたが実際面と向かって喋られて愕然としている
「日向子の話によると背中に山羊の頭がある、と聞いていたが?」
「あはは…どうやら引っ込められるみたいです」
「何とも面妖な…」
《俺達ハ形があっテない様なモノだ、沢山補食すれバその姿を取り込メる》
「…そうか。それでどうしたい?」
《俺達ハ主に忠誠ヲ誓った。今後ハ主のタメに働く》
「日向子」
「はい。」
「キマイラがここまで知性があるとは思わなかった。今後もお主の管理下で飼う事を正式に認めよう」
「やったー‼」
「ただし!」
「えっ?」
「人前に出る時はなるべく目立たぬ大人しい姿に変えてから出す様にな」
「あ、はい‼」
こうしてキマイラ達は正式に日向子の仲間入りしたのだった




