56 社員教育します part3
日向子達はハク達に跨がって村へと戻って来た
「あ…れ?村の入り口にいるのって…」
スリが目にしたモノは村の入り口に仁王立ちしているニルだった
「ニルただいまー♪」
…プイッ‼
実はニル、たった一頭で置いてきぼりを食らった事に拗ねていた
「ねぇ、ニル。どうしたの?」
「ヒンッ‼」
ニルは大好きな日向子に声を掛けられてもツンとした態度を崩さない
「あ、そう‼じゃあ今度からハク達に乗って移動しよっと♪」
「!?ヒヒ~~ン…」
日向子の意地悪にニルは瞬殺されガックリと首を項垂れた
「あははっ、冗談だよ‼冗談‼」
日向子はハク1から降りるとニルを優しくワシャヤシャした
「ヒン☆」
日向子に撫でられてニルはまた瞬時に蕩けた
これが伝説の神獣、しかも戦馬だとは誰も信じないだろう
「ブルルッ‼ヒヒン‼」
先程迄日向子を乗せる栄光を味わっていたハク1はその座を再びニルに奪われたと感じるや否や猛烈に抗議しだした
「ひ、日向子さん?何かハク達が怒ってますけど…?」
そう言えば今まで日向子がハクに乗る事は一度も無かった
移動速度の関係から《ブルピット→ユニコーン→→→→→スレイプニル》なだけに
なかなかハク達に日向子が股がるチャンスが回って来なかったのである
それが今回、社員教育の名目でハクに跨がってくれた
次は俺だ、いや俺だ‼の争いがハク達の間で静かに勃発していたのである
「あらら、ごめんね。今度からはハク達にも順番に乗る様にするから許して」
日向子はハク達を一頭一頭優しく撫でて回る
「ヒン☆」×10
ハク達は順番に腰砕けになる程蕩けていったのだった
ーダダダッ、ダダダッ‼ー
そこに漸くシロ達がゴメリと共に帰ってきた
「ウォン?」
シロはハク達とニルが小鹿の様に膝をガクガクさせて蕩けている様を見て一瞬で状況を理解する
「クゥ~~ン‼」
シロはハク達を押し退けて日向子に頬擦りする
「あはは、シロも急にどうしたのよ?」
日向子は嫌がる素振りも見せずにシロを存分にワシャヤシャする
「…ハゥン☆」
シロが恍惚とした表情を浮かべた瞬間他のブルピット達も我も我もと日向子に頬擦りする
「あはは、分かった分かった‼クロもポチもペスもみーんな可愛いよ♪」
「ハゥン☆」
「ワフン☆」
「アフッ☆」
その異様な光景を少女達はワナワナと震えながら見ていた
スレイプニルやユニコーンはまだ神話の神獣として名高いからまだ許せる
だが本来敵でしかない魔物、ブルピットが日向子に撫でられて骨抜きになっているのだ
目では捉えられても脳が追い付いていなかった
「スレイプニルやユニコーンもそうだけどブルピット迄あんなに甘えてる日向子さんって…」
「一体何者なんだろう、か?」
「⁉ゴメリさん…」
シャロンの呟きに答える様にゴメリは口を添えた
「あの娘はな、誰であろうが分け隔てはしないんだよ。それでいて強い、だから魔物や神獣達も日向子に懐いているんだろうよ」
「…そういうモノなのですかね…」
「お前は元兵士だ、純粋に強さに憧れるその気持ちは分からんでもないだろう?」
シャロンはゴメリの言葉にハッとする
武闘大会で見た日向子の比類なき力、それに目を奪われたからこそ今自分がここにいるのだ
「私も神獣や魔物達と同じ、か」
ゴメリの言葉に自身のモヤモヤした気持ちが晴れていくのを感じたシャロンであった
一方平民生まれのエリスやコロンと違い国王の甥であるピールの下で小間使いをしていたスリは
他の3人とは別の使命を受けていた。
ピールや国王達の命を受け陰日向となく日向子を助ける様に送られて来ていたのだ
(命を受けて来たのは良いけど…どう補助していけば良いのかしら?)
実はゴメリ、スリが誰の命を受け何の目的で送り込まれたのかを事前に知っていた
現護衛兵隊長であるリースよりスリがどういう素性かをしたためた密書を受け取っていたのだ
(まぁ素性が知れた所で俺達に害がない以上放置しても差し支えないだろうな…)
ゴメリは神獣と魔物達と戯れる日向子を驚きの表情で見ているスリを見定める様な目で見つめていた
「あははっ、さぁもぅおしまい‼皆呆れているわよ?」
何処かで見切りをつけないと半永久的に甘えて来そうな勢いのシロ達をそっと押しやって日向子は少女達に次のメニューを伝える
「じゃあ今度は馬車の扱いね、貴方達に合わせて大工のゲンガさん達に頑張って貰っちゃった」
そう言いながら馬車のある馬車に案内する
「…わぁ、可愛い‼」
ハク達が繋がれた馬車は無骨な木枠造りではなく全体を白く塗られた洒落た造りだった
御者席も風防付きのソファータイプで必要とあれば屋根も付けられる
「荷物を運ぶだけの馬車にどうしてこういう装飾をするんですか?」
スリは素朴な疑問を向ける
「そりゃ貴方達が女性って事とハク達も珍しいでしょ?ただ付近を走るだけで宣伝になるわ」
日向子はこの世界に交通広告を普及させようとしていたのだ
そんな意図とは関係なく馬車のデザインは少女達に大好評であった




