53 日向子、晴れ晴れ⁉
ニルの疾走速度に二度も気絶を余儀なくされたゴメリが気が付くまで丸1日を要した
「…ここは…ピレネー村か?」
「気が付いた?良かったぁ~」
ベッドに運ばれたゴメリを日向子はずっと看病していた
「そうか…俺はまた気絶を…」
「ごめんなさいっ‼ニルはしっかり叱っておいたから許して‼」
「あ…いや、気絶した俺が情けないだけだ…」
ゴメリは自身の不甲斐なさを思い返し自嘲気味に呟く
「そう言えば例の案、王様主導で手伝ってくれるそうだ…2、3日もあれば結果は出るだろう」
「ホント?良かった‼もう私だけじゃどうにもならなかったもん。…ゴメリさん、ありがと☆」
日向子は日向子でここ連日寝ずに悩んでいた筈なのにゴメリにその素振りを見せずに笑って見せた
「これが上手くいけば神獣運輸を休止させない処か売りになるやも知れんな…」
「え~?そんなうまい話ってあるの?」
「…少し危険な香りがするが…犠牲は少ない方が良いからな」
「なぁに?私の為に誰かが犠牲になるのは嫌よ?」
「…その言葉、頭の片隅にでも残しておいてくれよ?」
「?」
二人は若干噛み合わない会話を重ねるのであった
ー数日後ー
「おーい、城の方角から馬車が数台こっちに来るだよ?」
火の見櫓にいる見張り番が何者かの訪問を村人達に告げる
ーパカラッパカラッ…ヒヒーンー
「国王より伝令だ。日向子殿とゴメリ殿はおられるか?」
御者台から降り立った御者が日向子とゴメリを呼び出す
「もう集まったのか?早いな」
「これはゴメリ殿、王様より頭数が揃ったとの命で彼女達をお連れ致しました」
「え?彼女達って?」
ガチャ、ガチャ、
「わぁ~‼綺麗な村ね」
「ここに神獣達がいるの?」
数台の馬車から十数名の少女達がわらわらと降りて来て村の雰囲気を観察している
「…ゴメリさん、これは?」
「あぁ、これが王様に頼んでおいた「助っ人」要員だ」
ゴメリの案は日向子がキマイラ達に掛かりっきりになる間、神獣運輸を担う人材の確保だった
「でも…ハク達やニルは懐かないんじゃ…」
「まぁその可能性もあるのである条件に基づいて募集をかけてある」
「条件?」
「ん?…あ、あぁ…」
ゴメリは何故か口籠る
「まぁ論より証拠って言うしね、おいで~ニル、ハク達~‼」
「ヒヒーン♪」
日向子の呼び掛けにニル達はひょいと集まる
「…ヒン?」「ブルルッ⁉」
ニルは普段通り日向子にべったりだがハク達は少し様子がおかしい
「…ヒヒーン♪」スリスリ…
ハク達は少女達の数名に初対面なのに懐いてじゃれている
「あれ?意外ね…これがゴメリさんが言う条件ってヤツなの?」
「う、うむ。ゲフンゴホン‼」
「んん?いい加減教えてよ、ゴメリさん‼」
「…あぁ…伝説の神獣であるユニコーンはある特定の女性に懐くという伝承があるんだよ…」
「?伝承って?」
「う、うむ…その、何と言うか…」
「早くぅ‼」
「ん…ユニコーンはな…「純血の乙女」に懐くと言われているのだ」
「…純血って。。。!?」
「その…何だ、ニルはともかくユニコーンが最初からヒナちゃんに懐いていたのは…その…」
。。。「嫌ぁ~~‼(///////」
バキャッ‼
「ゴブァッッ⁉」
ゴメリの思わぬセクハラ発言に日向子は顔を真っ赤にしてひっ叩く
ただこれは日向子の全力でのビンタである。
通常の破裂音とは異質な変な音と共にゴメリは水平に吹っ飛ばされた
ゴメリにとって不幸な事に日向子は全く加減をしないビンタだった為きり揉み状態で飛ばされ
そのまま30m先に生えていた大木に激突、数十センチ程めり込んでしまった
「グハッッッ‼」
ゴメリは余りの衝撃に吐血して痙攣している
歴戦の戦士だからこそこの程度で済んだがこれがもし一般人であれば命を刈り取られていたであろう
その光景を間近で見ていた御者と少女達は怯えたが数分後何事も無かったかの様に歩くゴメリを見て
(あぁ、何かのトリックかな?)
と納得したのだった。
(その実瀕死のゴメリはウシャ爺の懸命の治療で全快した事は日向子によって隠蔽された)
「あはは、さっきはごめんねぇ」
日向子は努めて明るく少女達に接した
「あの…ここでのお仕事って何をすれば?」
「うん。危険な事は何もなくてこのハク達…ユニコーンね、この子達と荷物を運んでくれれば良いだけなの」
「荷物って…野盗とか魔物とかに襲われたりして危険なんじゃないんですか?」
「ハク達と一緒だと魔物は殆ど襲って来ないし野盗は速度が早すぎて追い付けないわ。安心して」
「荷物って重いんじゃ…」
「貴方達なら現場の男の人が手伝ってくれるんじゃないかしら?私も重い物は持たされた事ないもん」
少女達は成る程と納得していたが流石に全員は雇えないので日向子は多少デメリットを伝える事にした
「ハク達はさっきゴメリさんが話していた通り純血を好むみたいだから…彼氏がいたりする人は続かないわ。きっと」
ここで数人の脱落者が出た
「さっきハク達と触れあえなかった娘も無理ね」
意外(?)ここで3分の2は脱落し馬車へと戻ってしまった
「残ってるのはあと4人か…意外と減っちゃったわね…じゃあ後はやる気があるなら採用よ」
こうして神獣運輸初の従業員が採用され日向子は無事キマイラ達の世話を見られる事となったのであった




