52 ゴメリの提案
「うーん…」
日向子は相変わらず悩んでいた
それほどに王様の出した二択は厳しい選択を迫られるモノだったのだ
「討伐方面の依頼は俺とシロ達が出来るとしても運送業の方がな…やはり決定的に人手が足らん」
スレイプニル(ニル)とユニコーン(ハク)達はまだやって来て日が浅いせいかブルピット達と違って日向子の指示にか反応を示さない
ニルはともかくハク達は(ある条件下)も加味されて日向子を慕っている所以でもあるからだ
「ヒナちゃん、俺に考えがあるんだが…良いか?」
ゴメリは日向子に1つの仮定を提案するつもりだった
「え?何か良いアイデアがあるんですか?」
「あぁ。もし伝承の通りならあるいは運送業とキマイラ達の飼育が両立するかも知れん」
「…そんな都合の良いアイデアがあるなら飛び付きたい所ね…」
「では今から俺は王様にその案を進言してくるよ。悪いがニルに乗せて貰える様に頼んでくれるか?」
「うん。ニルー、おいでー‼」
「ヒヒン♪」
シロ達もニル達も日向子が深く悩んでいる事が心配で仕方なかったらしく
呼ばれた瞬間直ぐに駆け寄ってきた
「悪いんだけどゴメリさんをお城迄大至急運んでくれるかな?」
「ヒヒン‼」
ニルは日向子の願いに首を縦にブンブン振って応える
「じゃあ行ってくる‼」
ゴメリはニルに跨がると直ぐ様エレモス城へと向かった
ーダカダッ‼ダカダッ‼ー
「ぃぃぃ…ひぃぃ~~⁉」
ゴメリは歴戦の戦士である。
現役時代は戦馬も駈り最近ではそれ以上の速さのシロ達にも跨がって駆けている
そのゴメリがニルの速度に反応しきれず悲鳴をあげていた
「‼」
「おい‼隊長がスレイプニルに乗ってやって来るぞ⁉」
城外の警備に当たっていた護衛兵が物凄い速度で接近する魔物を目視し警戒を強めると
即座にその魔物が日向子のスレイプニルと判断、いつもの如く日向子が来たかと思っていたら
スレイプニルの上でグラグラ揺れているのがゴメリ元隊長なので面食らっていた
「あ‼あっ⁉速度が落ちないぞ⁉」
「このままだと外門に激突する‼」
ーダカダッ‼ダカダッ‼ジャジャーーッ‼ー
「ヒヒヒーン‼」
「…あ、止まった⁉」
あわや激突⁉という所でスレイプニルは8本の足で踏ん張りフルブレーキを掛けた
砂埃が舞い上がりそれが収まると呆れた様に直立するニルとその馬上でグッタリしているゴメリがいた
「た、隊長ーっ⁉」
連絡を受け駆けつけたシジルが気絶するゴメリを揺り起こす
「…?ここは…」
「城ですよ、隊長‼しっかりして下さい‼」
「お、おぅっ‼もう城か‼俺は大丈夫だぞ⁉」
今の今まで気絶していたのを無かった事にしたいゴメリはヒラリとニルから飛び降りる
…ガクッ‼…ガクガク…
「むぅっ⁉」
ゴメリは気合いで何とか誤魔化そうとしたが体が言う事を聞かなかったらしく
ニルから降りると膝が笑ってめるで生まれたての小鹿の様にガクガクしていた
「隊長っ⁉」
「な、何でもない‼それよりも王様にお話がある、至急繋ぎを‼」
「…はっ‼」
ゴメリは大声で一件を無かった事にしようとしたが後日「ゴメリ馬上で気絶」の噂は隊員全てに広まる事となる
「おお、ゴメリか。ん?どうした?歩き方がおかしい様だが?」
国王は火急の報せを受けたゴメリを出迎えたが歩き方がガクガクしている事を直ぐ様指摘した
「…プッ‼」
護衛兵の誰かが吹き出しそうになり慌てて口を塞ぐ気配がゴメリの背後で感じられる
ゴメリが振り返ると隊員達の表情は全くもって真顔そのものだったが数名肩が上下に揺れていた
ゴメリ32才、戦に生きる男の初めての恥辱であった
。。。
「ふーむ、成る程のぅ…」
国王はゴメリの進言に自身の顎髭を撫でながら難しい顔をする
「そちの言う案は国として募集すれば容易いとは思うが…それで日向子は怒らんかの?」
「現状を打破する唯一の策です。多少の無理は乗り越えるしかないと思われます」
「…良し、分かった‼今後の事は我に任せておくが良いぞ‼」
「はっ‼有り難き幸せ‼」
「…しかし立ち直れるかの?」
「ヒナちゃん…いえ、日向子は心根の明るい子なのできっと許して貰えましょう」
「うむ。実は我も国王として出した条件は厳しいと常々心を痛めておったのだ。では早速手配する事にしよう」
「はっ‼有り難き幸せ‼」
ゴメリは意気揚々と村へと向かった
ーダカダッ‼ダカダッ‼ー
「?ニルだけ帰ってきただが?」
「…何かぶら下げてねぇか?」
「ヒヒーン♪」
「あ、ニルお帰り~…って!」
最初ボロ切れだと思っていたモノがニルの手綱に辛うじて掴まり引き摺られたゴメリだと分かるのに少し時間を要した
「乗せた人を振り落として更に引き摺るなんてダメでしょ‼」
「ヒヒン…」
ウシャ爺により治療中の全身擦り傷だらけなゴメリの横で全力で説教されたニルであった




